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小説「Webtoon Strokes」12話

創作において、最も厳しい判断を下すのは担当編集者でも、編集長でも、経営者でも、クライアントでもない。その作品に対価を支払って読む読者である。時に編集者が作品に対して厳しい修正を指示するのは、それを理解しているからに他ならない。

エンターテイメントは制作に関与する作家のアーティスティックな側面を含みつつ、最終的にはサービス業となる。需要がなければ供給もされず、作品は淘汰されていく。これは極めて民主的な形の循環である。

コミックアングルの制作第一弾のウェブトゥーン作品「転生したら円卓の騎士でした」は、制作期間約一年を経てリリース。主要プラットフォームでの初動は70位という結果となった。それは製作者のそれぞれの思いとは無関係に、現実として突きつけられるものだ。担当編集者の木村にとって、この結果はどう受け止めるべきか困惑していた。

「PV数は一万を超えている。でも、この中で実際に課金してくれているのはどれくらいだろうか?」

「円卓」はリリース時に20話分を一気に配信し、冒頭の3話分だけを無料にするという、ウェブトゥーンのプラットフォームではよくある手法を取っていた。読者は無料部分を読んで、面白いと感じれば有料の話に課金して続きを読む。一定期間だけ無料で読める話を提供する場合もあり、無料にこだわる読者は様々なプラットフォームの作品を順に読み、無料期間が来ると読むというスタイルで多数の作品を楽しむユーザーもいる。作品が読まれることは製作側にとっては喜ばしいが、有料課金につながらなければ収益化は難しい。

主要なウェブトゥーンプラットフォームには多くのユニークユーザーが訪れるため、そこでの配信は大きなアドバンテージとなる。しかしその一方で、プラットフォーム手数料が必要となり、各プラットフォームで料率は異なるものの、一般的に高額である。加えて、アプリ配信の手数料も発生し、最終的に製作側に戻される収益は上代売上の数十%程度となる。

主要プラットフォームにおいては、トップランキング入りすれば、数千万円から億単位の売上が期待できる。この背景から、70位という順位の意味する利益の規模を、業界未経験の木村は具体的に把握するのが難しかった。

ウェブトゥーンや漫画だけでなく、映画、テレビドラマ、ソーシャルゲームなどでも、リリース後の初動が売上のピークとなり、更新を重ねるごとに徐々に数字が下がっていくのが通常である。この初動の後の売上減少を如何に最小限に抑え、売上を維持するかが、作品の継続的な成功の鍵となる。

「円卓」の初動での70位という結果から、今後、順位が下がっていくことは予想された。多くのプラットフォームでは、ランキングとして表示されるのは上位100作品までで、それを下回る作品は特定で検索されない限り、目立つことは難しい。この点は、様々な作品が物理的に並ぶ実店舗の書店とは異なる電子書店の特性であり、その大きな違いとも言える。

新作がリリースされる際、独占契約を結んだプラットフォームでは目立つバナーなどの宣伝が得られる。しかし、今回は社長の谷口の決定により、各電子書店での一斉リリースとなり、プラットフォーム内の特別なプロモーションからの読者流入は期待できない。

「どうする?」

木村は悩みながら思った。これは彼のウェブトゥーン編集者としての腕が問われる初めての局面であった。