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カフェオレと塩浦くん #30

「大丈夫ですか?」

2日ぶりにスマホを開くと、加藤さんからメッセージが飛んできていた。
ちょうどお昼ご飯を食べてきて、眠くなりかけた午後2時のことだ。
大丈夫なわけがないでしょと呟き、既読をつけたままスマホを枕元に放り投げる。

私はあの後、体調不良を申し出て会社を早退した。
ゲロを吐いた身体で仕事なんて出来るわけないし、東条が見えるたびに、心臓が鷲掴みにされ呼吸困難になるほど呼吸が浅くなり、とてもではないがその場にはいられなかった。

職場には迷惑がかかるかもしれないが、自分の命を天秤にかけたとき、断然自分を守ることが優先事項となり、なりふり構わず今日も休みの連絡を入れた。

生まれてからこの方、優等生で生きてきた私にとって、自己都合の仮病で休むなど初めての不良行為に等しく、感じなくてもよい罪悪感を感じていた。
だがそれは同時に、優等生という私の殻を壊す出来事もなり、私は職場というものを初めて客観的に考えることが出来た。

メッセージの既読無視をしていると、画面上にまたメッセージが表示される。

「話し合いがしたいんです」

話し合いってなんだよと思ったが、私には少し引っかかるところがあった。
昨日といい、今日といい、塩浦くんのことで頭がいっぱいになっていた。

彼に「大丈夫?どうしたの?」って苦し紛れにメッセージを送ってみたけれども、既読すらつかないまますでに2日目が経過しようとしている。
一瞬、メッセージの表示に胸が高鳴ったが、加藤さんであったことにがっくりと肩を落とした。

だがこのタイミングで加藤さんが私にメッセージを送ってくるということは、彼女は東条について何か知っているのではないかと考えた。

「話し合いってなんのですか?」
私はぶっきら棒に返信をする。

「東条さんのことです」
やはり私の予想は当たっていた。

「いいですよ。いつにしますか?」
「今日……なんかはどうですか?体調が悪いようならまた改めます」

私は少し考え込んだ。
精神的な気分で言えばそんなに良くないものの、体調の悪さは少しづつであるがなくなってきていたため、彼女の誘いに乗ることにした。

遠出することは少し厳しかったため、私は彼女を私の家の近くの最寄り駅まで呼び出し、近くの喫茶店で落ち合う約束を取り付ける。
彼女は「大丈夫です。仕事終わりに寄ります」とだけ返信があり、それ以上メッセージが来ることはなかった。

私はベッドにごろんと寝っ転がり、頭の中の散らばったパズルたちをかき集め一つずつ整理していった。
記憶というパズルを埋めれば埋めるほど、それはぴったりと重なり合っていく。

それはあまりにも不自然なほど綺麗に。
果たして、あのバレンタインは本当にすべてが偶然の出来事だったのであろうか。

加藤さんと塩浦くんと出会う確率なんて無限大分の1に等しいはずだ。
もし、それが運命の悪戯なのだとしたら私は神様というものを本気で信じてみようと思うが、もし、狡猾に仕組まれた罠であったのなら、それはとても恐ろしいものである。

私は天井に向かってため息をついた。

こんなことを深く考えても仕方がないのはわかっていても、どうにかして私は塩浦くんを救いたい。
なぜか私には直感めいた使命のようなものを感じていた。

加藤さんの仕事が終わるまであと4時間。
それまで目をつぶって考えよう。

私はそうしてゆっくりと瞼を閉じて、記憶の深海へと潜っていった。

(つづく)
※第1話はこちらから

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