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カフェオレと塩浦くん #24

「くそ、あの野郎どうやって」

 東条は彼を見るなり舌打ちし、額に血管を浮かべた。
 私の肩を握る右手に力が入り、洋服越しに爪が食い込む。

「おい、少し抱きかかえるぞ」

 そういうと、東条は私の膝裏に手を伸ばし、お姫様抱っこをする形で抱きかかえ、そのままエレベーターへと走っていった。
 私は何が起こっているのか分からずに動転する。
 エレベーターへと乗り込み10階のボタンを押すと、東条は閉まるボタンを連打する。

「待てえええ!」
 塩浦くんが東条を追いかけるが、寸前のところでエレベーターは閉まる。
エレベーターの滑車が回り、モーターの音とともに10階へと昇っていく。

「こんなことして……ただで済むと……思ってるの」
「そんな言葉、もう何百回と聞いてきたさ」

 彼は口角を吊り上げ、口を歪めながら笑った。
 その不気味さに、私の背筋が凍る。
 チンという音がし、エレベーターは10階へと到着する。

 私は東条から逃げないとまずいと思いながら彼の腕の中でもがくも、男の力というのはそう簡単に振りほどけるものでもなく、一向に逃れることが出来ない。

 私はそのまま取り押さえたまま、東条は1003号室の扉の前まで到着し、カードキーで扉を開けた。
 中へ入ると、ガチャンと扉が閉まり、オートロック機能でロックがかかる。

 私は絶望した。
 完全なる密室に閉じ込められたのだ。
 やめてと騒ぎ立てるも、なぜだか体が思うように動かない。

「無駄だよ空季さん。君には睡眠薬を飲ませているからね」
 彼はにっこりと私を見て笑う。

「睡眠薬……?」
 
 私の頭の中が混乱する。
 そんなものを飲まされた記憶などない。
 そんな時、昔見たテレビニュースの映像がフラッシュバックした。

 その映像とは、大学生がお酒に睡眠薬を粉状にすり潰して、女性を泥酔させ、暴力をふるったというニュースであった。
 その大学生は書類送検されたものの、こんなことって現実にあるんだとぐらいしか思っていなかったものの、身に起こるとまったくもってそれが実感できない。

「なんで……そんなこと……するの」
 私は東条を睨みつける。

「そんな怖い顔しないでよ空季さん」
 東条はパチンと部屋の明かりをつけた。
 窓からは都会の夜景が一望でき、その横にはクイーンサイズのベッドが配置されていた。

 彼はベッドの前に私を運ぶと、そのまま私をその上に投げ捨てる。
 そして彼もその上に乗ると、私をうつ伏せにした。

「あいつが来ると厄介だから、早く済ませようか」
 そういうと、彼は自分のバッグから、銀色に光る何かを取りだした。
 彼は私をうつ伏せにされたまま、後ろ手に両手の手首を強く握る。
 カチンカチンという音がし、手首に冷たい感触が走る。

「ねぇ、なんでこんな……」
 私の顔からみるみる温度が消えていく。
 目線を下に向けると、そこには銀色の手錠がしっかりと私の手首を固定していた。

 手首を振りほどこうとしても、チェーンがそれを邪魔して、一向に外れない。
 私は必死に藻掻くが、彼はそれを抑えるように、私の腰の上に乗った。

 彼の体重で完全に身動きが取れない。
 そして彼は私の耳元に顔を近づけた。

「僕はね……君が欲しいんだよ」

 東条が耳元で甘く囁く。
 生温かい吐息が耳にかかり、私の首筋を気持ち悪く撫でる。

 東条はうつ伏せになっている私の腕をつかむと、それを力づくで引っ張り、無理やり私の体勢を仰向けに変えた。
 東条は私の首筋に舌先を伸ばし、首筋をゆっくりとくすぐる様に舐める。

「あ、やめ……て……」
 恐怖と悔しさがこみ上げ、目頭が潤んでいく。
 視界がぼやけ始め、私は現実を見ないようにギュッと目をつむる。

「可愛いよ、空季さん」

 甘い囁きは、餌を待ちわびた獣の声そのものであった。
 東条の指が、鎖骨に置かれ、そのまま下へとなぞっていく。

 ちょうど腰のあたりにある、スカートとセーターの間まで一直線に指を下げ、そこで止める。
 そして、ゆっくりとセーターと中に着ているブラウスに手を滑り込ませ、そのままたくし上げていく。

 彼の手は冬の空気に触れていたせいか、氷のように冷たい。
 その冷たさが私の素肌に当たり、私の温かさを奪っていく。
 腰骨から少し外れた柔らかい場所に彼の指が当たり、筆でなぞるようにして、するすると昇っていく。

 私の心拍が荒らげるように高鳴る。
 下唇を噛み、嫌悪感を押さえつける。

 右の乳房の下弦の輪郭をその指は撫でまわし、そのまま果実をもぎ取るように、がっつりと乱暴に鷲掴みにされる。

「いたっ……!」

 私は小さな悲鳴を上げ、歯を食いしばる。
 指は何度も握っては緩め、握っては緩めを繰り返す。

 白い乳房に彼の指の冷たさが張り付き、赤みがかったピンクに色を変えていく。
 赤子のように何度もそれを繰り返していたが、彼はそれに飽きたのか、乳房から手を離すと、するりと服の中から手を抜き出した。

 そしてその手はスキップするようにリズムを刻み、軽快な足取りで太腿を跳ね、そのまま蛇行しながらそっと私の太腿の内側に右手を当てた。

「や、やめ……」
 私は涙ながらに訴えるが、彼はそれに興奮するかのように息を上げる。
 その右手は優しく内側を撫でまわし、それはゆっくりと上へと昇っていく。
 
 スカートの内に履いている黒いタイツが、太腿の感触を邪魔していることに気に食わなかったのか、指先の爪をタイツの網目に突き立て、捩じる様にして小さな穴を空ける。

 彼はその小さな穴に人差し指と中指を無理やり突っ込み、にやりと笑いながら、穴を広げようと引き延ばす。
 それが拳大の大きさになったところで、右手を突っ込み、勢いのままにビリビリビリとタイツを思い切り引き千切る。

 無残な姿に破れたタイツの中へと無理やり手を突っ込み、それは奥へ奥へと突き進んでいく。

 スカートが徐々にせり上がっていく。
 温かな太腿の温度に冷たい彼の指が伝う感触が、私の背中に悪寒を走らせ、その恐怖に耐えながら涙を流した。

 もはや私には泣くことしかできない。
 抗うには、私はあまりにも非力すぎた。

 東条の右手が、太腿と股関節の付け根のあたりまで到達する。
 せり上がったスカートから白い下着が見え、彼はその下着のラインに人差し指の関節部を挿れた。

 あと数センチで私は穢されると悟った。
 私はいよいよダメだと覚悟を決め、唾を飲み、下唇を噛む。

 「もうダメだ」と諦めかけたその瞬間、ピピピという電子音が聞こえ、ガチャンと部屋の扉のロックが解除された音がした。

 (つづく)

※第1話はこちらから

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