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短編小説

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2019年3月の記事一覧

カメラ

「ねえ!こっち向いてよ」

「いやだ、どうせまたカメラこっち向けてるんでしょ!」

「それは…そうだけど…」

僕は彼女にカメラを奪われて手持ち無沙汰
まあそのカメラは元々彼女のものなんだけれど

「ちょっと来てよ、これ!きらきらしてる!宝石見つけちゃったかも!」

「あー…それただのガラスだと思うよ、触ったら怪我しちゃうから気をつけてね」

「ちぇっ、夢のないやつ」

そう言って彼

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天井

「なんだかね、狭い部屋にいて天井を感じるの」

彼女は言った

「何をしてても、楽しくても、悲しくても天井があって窮屈なの
どんな感情もそこからはみ出ることがなくて、
あるときはわたしが天井から自分を見ているような気にすらなるの」

「急にどうしたの?」

「ごめん…わたしも上手く説明できないんだけど、今までこんなことなかったから
その、君と…繋がってるときですら幸せなはずなのに天

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言葉

「君は何につけても考えすぎてしまう節があるみたいだね。」

「そう?」

「ああ、僕は基本的に何も考えてないよ。」

「何も考えない?私の頭の中はいつでも思考がぐるぐる巡ってるわ。」

「ほら、ずっとそうしていたら気づかないうちに疲れてしまうよ。」

「そう…なのかしら…」

「もちろん考えることは悪いことではないけれど、大抵のことは何も考えなくても上手くいくものさ。」

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日常のふとしたきっかけでいとも容易く僕の思考は支配される
頭の中は映像で溢れてもう目の前なんて見えなくなる
僕は雨にうたれてずぶ濡れのまま叫んでいたり
運命の奴隷になって打ちひしがれていたり
手に入れられなかったものを思い出しては苦しんだり
そうやって溢れてくる映像にのしかかられて潰されてしまう
もうそうなったら動けない見えない
どうすれば自力で立ち上がれるのかわからなくて
何度考えても答えなんて

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夏恋

もう仲良くなってだいぶ経つ
でも完全に2人きりでどこかに行く、というのはまだだった
わざわざそういう約束をしなくても毎週会えるんだから、いや、そうだからこそわざわざそういう約束をするのが照れくさかったのかもしれない
夏が好きだと度々主張していた彼女も
同じことを考えていたのかもしれない

夏は待ってくれないんだから

僕は恥ずかしい気持ちを何とか押し込めて夏に乗り遅れないように、彼女と花火

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