ruff個展《菫色少年秘密倶楽部》|菫色の少年たち
作家のプルーストが『失われた時を求めて』で何度となく形容したモーブ色。
主人公スワンが恋するオデットや、登場する貴婦人たちはモーブ色の化粧着、ハンカチーフ、日傘などをよく身に着けた。
このモーブは自然由来でなく、人工的に合成されたもの。
青みがかった紫はゼニアオイの色から連想されて、アオイのフランス語“mauve”と名付けられた。
ruffは、そのゼニアオイを箱庭に閉じ込める。
箱庭とは囲い込まれた小さな空間にひとつの宇宙を現出させるもの。
ゼニアオイとともにそこに住まう少年たちとは、いかにも世紀末的ではあるまいか。
あのモーブ色のスーツを着たロベール・ド・モンテスキュー伯爵のように。
とはいえ少年たちはずっと若い。案の定、人差し指で秘密の約束をしているではないか。
だが、これはヤン・ファン・エイクの描いた『アルノルフィーニ夫妻』のように、何かの契約の合図なのかもしれない。
ruffの絵には、どこか中世的なところがある。ジョットやフラ・アンジェリコを思い出させたりもすれば、まったくモダーンな現代性も感じさせる。
何なのだろう? この不思議な平面性は。二次元の作品をさらに平面化する意志。
美少年は今風でありながら、平安期にもヨーロッパ中世にも現れそうな感じだ。
きっと少年たちはいつの時代も秘密の約束をしているのだ。
あと数年経って大人になってしまう前の、とても大事で...しかも曖昧で...カタチにもならない約束を。
きっとゼニアオイだけがそれを知っている...
秘密を守るには結社が必要だ。
結社に必要なのはなに? そうだ紋章だ! いや結社名を決めてモノグラムをつくろう!
ゼニアオイが絡みつく、とびきりゴージャスで秘密めいたやつ。
振り返ってこれを見たら、だれもが塩の柱になってしまうような美しいモノグラムを。
いつの時代も少年は野蛮だ。
いや、野蛮ゆえに少年でいられるのだ。
だから試しに花を食そう。食用花なんぞでなく、大きな花を丸ごと食べるのだ。
世紀末の詩人シャルル・クロは、こう書いた。
「少女はよその森がもっと青いことを知っていた」
少年たちは、もっと美しい花が自分たちに食されることを待っている、と知っている。
世界の植物が収集・分類されるようになったのは18世紀の啓蒙時代からだ。
博物学と百科全書の世紀。
ruffは、この収集・分類を現代に持ち込む。
冷ややかに集め、分類する。それはこの作家が宇宙を好むことと通じる。
宇宙の星々から生物の骨まで、自在に行き来しながら、そこに詩想と幾何学を見いだす。
箱庭のゼニアオイはやがて枯れ、地面にモーブ色の染みを残すことだろう。
そのとき少年たちはきっと想い出す。
自分たちが生きたモーブ色の10年...〈décade mauve〉を。
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作家名|ruff
作品名|ゼニアオイの箱庭
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|27cm×19cm
額込みサイズ|37cm×29cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|ruff
作品名|MBSC - 菫色少年秘密倶楽部
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|15cm×15cm
額込みサイズ|22.5cm×22.5cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|ruff
作品名|花食主義
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|20cm×20cm
額込みサイズ|25cm×25cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|ruff
作品名|植物研究
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|20cm×20cm
額込みサイズ|25cm×25cm
制作年|2022年(新作)
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