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境界線

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大学生・桐山もみじは化物退治の資格を持つ魔導書使い。授業終わりに"地下室に化物が潜んでいるかもしれない"という依頼を受けてとある家を訪れる。 早速仕事に取り掛かるもみじだったが、… もっと読む
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記事一覧

境界線 第一話

「現在のサイエンスにおける、まぁある意味一番根本的な、根幹的な部分を占める学問のひとつとして”物理学”があるということは…」  ”物理のカリスマ”によるオリエンテーションを、桐山もみじは重たい目でじっと見つめていた。  適当に決めて入学した大学で適当に授業を選択した。教養科目は必須だったので、己の知識でなんとかなりそうな科目だけピックアップした。その結果がハズレだ。 「人に働く力を探してください……!! どうやって探すか…?」  空気と人の接触面にも力がある。地球から重力が発

境界線 第二話

【これまでのストーリー】  丸メガネの案内で、もみじは地下室に足を踏み入れた。思ったよりも広々としている。 「この地下室はね、建築家の先生に『地下室を作れば広さは確保できる』と言われたもので作っちゃったんですよ。最初はファミリーシアターにでもしようかと考えていたんですが…現実はそう甘くないですね。今やこんな有様です。本当に"構想"で終わっちゃいましたよ」  もみじは丸メガネのうんちくを受け流しながら、状況を目視する。地下室には照明がない。正しくは、電球が切れてから長らく放置

境界線 第三話

【これまでのストーリー】  吸血鬼は理性を取り戻したのか、もみじに語りかけた。発見時の獰猛さが嘘みたいに消えている。しかし、白濁した目からは冷たさしか感じられない。もみじは魔導書を開き直して、警戒を続けた。 「起き上がって来たと思えば今度は何!? さっきかけた封印術、結構強力だったのに!!」 「封印? 何の話だ」 「とぼけないでよ! お高そうな家だから狙ったんだろうけど、そこを"退治屋"に見られたが運の尽きだって言ってんの!」 「"退治屋"…あぁ、お前がそうだったのか。てっ

境界線 第四話

【これまでのストーリー】 「いやぁすみません…あまりにも怖すぎちゃって、桐山さんを置いてけぼりにしてしまいました。しかしさすがは"天才"と謳われているだけあって…」  丸メガネはオーバーすぎるリアクションでもみじに平謝りした。もみじは一気にボルテージが上がって、大爆発を起こした。 「なんであたしを地下室に閉じ込めたんですか!! 幸い化物はおとなしかったですけど、万が一のことがあったらどうするつもりだったんです!? 下手すれば丸メガネさんたちにも危害が及んでたかもしれないんで

境界線 第五話

【これまでのストーリー】 「やめろ! やめてくれ!!」  丸メガネの悲鳴が家中に響き渡る。もみじが駆け付けると、丸メガネが玄関まで後ずさりしていた。そこにマキビがゆっくりと丸メガネに近づいていく。その姿に理性は見受けられず、殺気だけがひしひしと伝わってきた。地下室のドアは鍵が壊され、結界も破られていた。  マキビは丸メガネの首を両手でがっつり掴み込んだ。鋭い爪が首の皮膚に食い込んでいる。丸メガネはじたばたしてマキビの手を離そうとした。しかし、丸メガネが暴れる度に爪が皮膚を食

境界線 第六話

【これまでのストーリー】 「お前…結局は何がしたかったんだ…」  地下室の化物は息を荒げながら西日が差すリビングにやってきた。そこら中の皮膚がドス黒く割れている。 「ひっ、ば、化物!!」  丸メガネはソファに向かって後ずさりした。"退治対象"ではない可能性があるとはいえ、その怯え方は尋常じゃないくらいわざとらしかった。 「丸メガネさん、クサい芝居はもういいです。あたしはもう、分かっていますから」 「分かっているって、どういうことですか!?」  丸メガネはソファの背面に隠れ込

境界線 第七話

【これまでのストーリー】 「どうした…どうしたよ…」  魔導書を持つ手が震えている。今この時、マキビ以外で"化物特有の殺気"は全く感じていなかった。しかし、地下室で感じた"殺気"は紛れもなく陽芽のものだと確信もしていた。何故なら、"人間としての陽芽"の気配を読み取れなかった―即ち、"人間の匂い"が今の陽芽になかったからだった。そのせいでもみじは陽芽が紅茶を出してくれるまで、"人間が二人いる"ことに気付かなかったのだ。そしてそれは、マキビにも"別の意味"で当てはまった。  "

コンビニ徒歩5分の公園にて

桐山もみじは考えていた。 「あたしは何のために退治屋をやっているんだろう…」 鳥井家での出来事は心底胸糞悪く感じた。 当たり前を過ごしたかった願いが歪み、果ては化物に変わってしまった。 いや、化物に蹂躙されたのか―オブラートは、人間の形をした化物を間違いなく映し出していた。 どうして丸メガネはマキビを地下室に閉じ込めたのだろうか?―もみじの疑問は大きくなるばかりだった。 それもそのはず、もみじは西日指すリビングで重大なミスを犯していた。 マキビとの関係性を聞かなかったこ