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男と女~そこに愛はあるんか?~ショートショート

『そこに愛はあるんかっ?』

「愛なんかねえよ」

男はテレビにぼそっと呟くと冷蔵庫からビールを取り出した

薄っぺらいカーテンが掛けてある部屋には、夕方だというのに異常な暑さと西日が襲いかかる

ビールを1本飲んだくらいじゃ喉の渇きも癒せない

ため息をひとつつき、ふと男が見たその先には埃を被った色褪せたカップがふたつ並んでいた

「愛なんか…もうねえよ」

また男が呟いた

その昔、男には好きな女がいた

綺麗な女だった

少し勝ち気なその女は皆から好かれていた

しかし、その女には好きな男がいた

男はその事を知っていたが、女の事を忘れられずにいた

ある時、運が男に微笑んだ

女が好きだった男は、別の女と結婚した

皆が驚いた

女が悲しんでいることは誰もがわかった

男は女を慰めた

女は徐々に男に心を開くようになり、ふたりはこの部屋で暮らし始めた

思えばあの頃が男は一番幸せだった

好きな女がそばにいる

それだけで男は幸せだった

それなのに…

女は愛嬌が良く、誰とでも話す

そのうち、男は嫉妬するようになった

ある日、女が楽しそうに他の男の話しをしているのが気に入らなくなり男は機嫌が悪くなった

それでも女は話しを止めなかった

男は思わず女の頬を叩いた

「うるさい!そんな話し聞きたくもない!」

女は驚き、そして泣いた

これまで。女のことを叩くなんてことは無かった

男は黙って部屋を出た

いつもの店に行き、女が寝てしまった頃に家に戻った

翌朝、女はいつものように起きて、いつものように仕事に行き、いつものように帰ってきた

女が男を責めなかったことに男は心の奥でほっとしていた

それで止めておけば良かった

男はその後、時々女に手を上げるようになったのだ

ある日、家に戻るとそこはいつもの部屋ではなかった

女と女の荷物が消えていた

男は呆然とした

とりあえず座り、タバコに火を着けようとするが手が震えて上手くいかない

「チクショウ!」男はライターを壁に投げつけた

「チッ、仏の顔も三度まで、か?」

そう、三度だ、女に手を上げたのは

部屋の片付きようから女が帰ってこないであろうことはわかった

それでも翌日から男は女を探した

仕事場、近くのスーパー、商店街を何度も行き来した

毎日、探しても探しても女の居場所はわからなかった

そのまま、女が部屋に戻ることはなかった

男は女のことを忘れられずこの部屋に住み続けた

いつか帰ってくるような気がして離れられなかった

だが、それももうおしまいだ

ここは再開発とやらで立ち退きになる

男はまだ新しい部屋を探せずにいる

(おしまい)


ヘッダーはみんなのフォトギャラリーより❤️

読んでくださってありがとうございます☘️

企画でも何でもありません。

『そこに愛はあるんか?』で、何か書けないかなぁと思って書きました。

昭和っぽい男と女のお話しです。


あれもこれも、と気を付けることばかりで疲れちゃいますが、くれぐれもご自愛くださいね☘️


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