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掌編小説【マンダラ】
お題「平面図」
「マンダラ」
彼はもう随分長い間この平面図に取り組んでいる。
なにしろ実に大きな図面なのだ。画面をスクロールしながら全体のバランスを見るのは容易ではない。美しさも備わっていなくてはならない。そして一度描いたものを簡単に消すこともできない。砂絵のようなものなのだ。修正は難しい。
なかなか思い通りにならないのは、描いたものが、その瞬間から「命」を得て勝手に動き出すという性質があるからだ。それらの動きを見ながら作業する必要がある。
海は波立ち、大陸は動き、人間は狂う。
「宇宙」というマンダラプロジェクトの中で彼の担当は「地球」であった。
「あそこは大変だろう」同僚からは揶揄される星であったが、彼のタブレットの中で平面図になっている地球は美しかった。
永い時をかけて「地球」は彼のイメージにかなり近づいてはきた。しかし「命」というのは思うようにならない。彼はそれゆえにそれを愛していたが。
どちらにしても、と彼は思う。地球が完成した時には、誕生日ケーキのろうそくのように、一瞬で吹き飛ばしてしまうことになっていた。
完成したものは消える。
永遠などないのである。
人間たちは知らない。この世界が在るのが神の気まぐれであるということを。
おわり (2021/2 作)
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