見出し画像

SS【祝日】#シロクマ文芸部

お題「私の日」

【祝日】(711文字)

『私の日』が制定され、祝日となった。
 父でも母でも子どもでもなく敬われるような老人でもない私でも、『私』を祝っていい日である。
 ばんざーい!
 私は浮かれて早く寝た。祝日は早起きして一日たっぷり楽しむために。

 しかし、目が覚めると私はなにも考えられない状態だった。考えるどころか感じることも…。
 抜け殻のような状態で、ポカンとしたまま一日が過ぎた。
 そしてその日が終わる頃、ようやくその理由がわかった。

「ただいまー」
 帰ってきたのは自我真我だった。

「どこ行ってたのよ!」
ほろ酔いで上機嫌な自我に私は聞いた。
「『私の日』だから遊びに行ってきましたー。『私』って自我のことでしょ?」
 自我が答えて私はゾッとする。

「…なにしてきたの?」
 恐る恐る聞いてみる。
「へっへ。やりたい放題してきちゃいました。どこの自我もそうみたいで、町は大混乱でーす」
 理性から離れた自我がなにをしてきたやら。私は頭を抱えながら今度は真我に訊ねた。真我はシラフのようだ。

「あんたはなにしてきたの?」
「『私』とは真我のことです。間違えてはいけません。わたしたちはひとつなのです」
 なんか、よく意味がわからないけれど…。自我よりはまともそうだ。
「だからなにを…」
「あるがままに」
 ああ…真我ってそんなやつだわ。私はさらに頭を抱えた。

 おそらく全国で似たようなことが起きていたのだろう。
 翌日の大混乱は、とても表現できない。あの一日であらゆる人の自我が本音を暴露しあい、やりたい放題ふるまったのだから…。

 とはいえ、なんとか収束したのは真我の意見が一致していたからだ。
「それでも『私』たち、ひとつだものね…」

 そうして再び人々は日常を取り戻した。
 もちろん『私の日』は、その年一回限りで暦から消えた。


おわり

(2023/7/7 作)

小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました。
うむ…、こんな話になりましたか。
って、他人事のように(;・∀・) 『私』ってなんでしょうねぇ。

おもしろい!と思っていただける記事があれば、サポートはありがたく受け取らせていただきます。創作活動のための心の糧とさせていただきます☆