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掌編小説【禅語】♯毎週ショートショートnote

お題「執念」「第一」

【禅語】(410文字)

「ご住職、この言葉はどういう意味でしょうか?」
「どう思われる?」
「禅寺の掛け軸の言葉とは思えません」
「うむ。しかし、緊張を解く為には一度全身に力を込めなければならない。それをご存知かな?」
「そういえば、肩の力を抜くにはまずグーッと肩を持ち上げて、ストンと落としますね」
「そうじゃ。悟りもまた然り。まず何かに全力で執着する必要がある。その後に捨て去るのじゃ」
「なるほど…」
「そなたは何かに執着しておられるのかな?」
「はい」
「単なる執着ではないぞ。『執念第一』と呼べるほどの激しい執念じゃ」
「別れた恋人のことが忘れられません。つい後をつけたり、電話をかけたりして先日は通報されました」
「なかなかじゃな」
「ですから、ここに来たのです」
「よい。今後も執念第一とせよ」
「いいのですか」
「その後それを手放せば、そなたは悟る」
「はい!」

数か月後、ストーカー殺人事件が報道されたが、ニュース断食をしている住職がそれを知ることはなかった。


おわり (2022/12/22 作)

上記の『たらはかに』様の12/18~12/24のイベントに参加させていただきました☆
「執念第一」なんていう禅語は、もちろんありません……(;・∀・)

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