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掌編小説【ダンス】

お題「疼痛」

「ダンス」

それは私の中をダンスする。
「あなたはなにを表現しているの?」
それはなにも答えない。ただダンスしている。あるいはこう言っているのかもしれない。
「言葉にならないから踊っているんだ」
それなら、と私もダンスする。立ち上がり、つま先を前に進め、両手を軽く広げる。すぐに手を下す。しゃがみ込む。ゆっくり床に寝そべる。しばらくしてから反対方向に身体をすべらせてまた立ち上がる。頭に手を置きゆっくりと歩く。部屋の中を大きく、ぐるぐると。回遊魚みたいに。立ち止まり、手を下す。それは私の中でまだ踊っている。それの動きを感じながら片方の手を壁に添わせて歩く。それはまだ飛び跳ねている。私は床に座り込む。
「疲れたから、私はあなたのダンスを観ているわ」
床に寝そべり、頭に両手を当てる。
ダンスは続く。延々と続く。
「あなたのダンスは見飽きたわ」私は言ってみる。
「君が僕を閉じ込めるからさ」それは答える。
痛みのことを医学用語で「疼痛」と言う。やまたいだれに冬と書くのは、寒い時期に古傷がうずきやすいからだろうか。
私は古傷のダンスに飽きて、雪が降り続ける窓の外に目をやった。
雪が降り積もる、私の傷に。私の閉ざされた思い出に。

おわり (2020/2 作)

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