SS【未練】#シロクマ文芸部
お題「詩と暮らす」から始まる物語
【未練】(1088文字)
詩と暮らすからには小説とは手を切らなくてはいけない。
「そこまで頑なにならなくてもいいんじゃない?」
お気楽ポエマーのみどりちゃんはそんなことを言うけれど、これまで小説と関わったこともないみどりちゃんに私の気持ちがわかるはずがない。
「二股かけるわけにはいかないわ。私の気持ちがすっきりしないの」
「そんなにいい詩なんだ?」
みどりちゃんが上目遣いで私を見る。私は頬が熱くなる。
「そうよねぇ。小説一筋だったあんたが小説を捨てる決意をするなんて相当なものよ」
そう言われてみれば、たしかに今まで一度も小説と離れたことはない。
でも、一緒に暮らしたいと思ったのは詩がはじめてなのだ。
「小説のことはどんなに好きでも一緒に暮らそうとは思わなかったもの」
「それが初めて会った日から暮らし始めちゃったんだもんねぇ」
みどりちゃんがニヤニヤする。
「まるでさー、性格のいい素敵な幼なじみがいながら、ポッと出のイケメンに心奪われる韓流ドラマの主人公みたいよねぇ」
「それ冬ソナの頃の話でしょ」
「最近のドラマは見てないんだもん」
たしかにそういう面はあるかもしれない。小説には慣れ過ぎていて、単に詩が新鮮だっただけなのだろうか…。
「ねぇ、詩がもうすぐ戻るから、そろそろ帰ってよ」
私はなんだか恥ずかしいような腹立たしいようなモヤモヤした気持ちになって、みどりちゃんを追い出した。詩が戻ってくるまでにはまだ少し間があるけれど。ちょっと落ち着かなくちゃ。からかわれたせいで動揺している。
それに…。
昨日終わったばかりの小説の余韻がまだ少し胸に残っているのだ。
大好きだった小説。でも私は詩と暮らすと決めたのだから。私は首を振った。小説への未練を打ち消すように。
小説は私をいつもワクワクさせてくれた。笑わせてもくれた。時には涙をこぼさせることもあったけれど。長い間一緒にいても嫌にならなかった。途中で離れても次に会うのが楽しみで、待っているのも苦にならなかった。朝も昼も夜もいつでも大好きだったのに。
別れてしまった。
詩に出会ってしまったから。
心を鷲づかみにされた私は、詩とは一時も離れられなくなった…。
それに、ちょうど潮時だったのだ。今しかない、と思った。
その時、スマホがふるえた。…小説だ。
少し迷って出た。
「まだなにか用なの?私たち終わったはずでしょ」
私は冷たい口調を作った。本当は泣きそうだったけど。
小説は甘く軽やかな口調で言った。
「終わったはずなんだけど、実は続編が出たんだよ。シリーズ化するんだ。今から会わない?」
ああ、なんてこと。
私は沼にハマる暗い予感がした。
小説と手を切るなんて、私にはやはり無理なことだったのだ…。
おわり
(2023/11/25 作)
小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました。
久々に恋愛小説を書いてやりました!
と言いたいところですが、これ、そうなのかな……
なんかちがう…?(;・∀・)
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