マガジンのカバー画像

嘘の素肌

48
「何者でもない僕に付加価値を与えてくれるのは、いつだって好奇心旺盛な女性達でした。」 桧山茉莉、二十七歳。仕事や人間関係に不自由なく生きてきた"何者でもない男"を取り囲むのは、…
運営しているクリエイター

#不倫

嘘の素肌「第8話」

嘘の素肌「第8話」

 目覚めると既に梢江は部屋を出ていた。宅飲みで捻出されたプラゴミ類は一つのビニールに纏められており、ローテーブル上には空き缶を文鎮代わりにしたレシート裏の書置きがあった。案外達筆な字で「お邪魔しました。セックスは七十九点です」という文言が、電話番号の隣に小さく添えられていた。二日酔いの頭痛をロキソニンで流し、まだ梢江の香りが沁み込んだままの枕へ後頭部を埋める。壁掛け時計の短針は7を差している。始発

もっとみる
嘘の素肌「第12話」

嘘の素肌「第12話」

 雨と金曜が邪魔をしていた。タクシーがなかなか捕まらず、予定より三十分の遅刻で池尻大橋に到着した。自衛隊中央病院前で下車し、大粒の雨が降りしきる中、約束の店へ急いだ。

 入店してすぐ従業員に「川端の待ち合わせです」と告げ、完全個室の部屋へ案内される。仕切りをスライドし開口一番に謝罪すると、麻奈美さんは自分が座っている二人掛けソファの空きスペースをポンポンと叩き、隣へ来るよう催促した。顔が火照って

もっとみる
嘘の素肌「第21話」

嘘の素肌「第21話」

 ホテルへ着いてから、僕は近隣のコンビニで買ったウイスキーをひたすら痛飲し、何度も吐いて、便所を吐瀉物臭くするだけの時間だけを過ごした。麻奈美さんはそんな僕の醜態を止めるつもりはさらさらないみたいで、僕が便器に顔を突っ込んでいれば背中を摩り、ベッドに寝転がるときはいつものように膝を貸してくれた。

「何があったのか、訊いたりしないんですか」

 僕の問いに、麻奈美さんはペットボトルのミネラルウォー

もっとみる
嘘の素肌「第32話」

嘘の素肌「第32話」

 渋谷から恵比寿に移動し、村上が太鼓判を押す中華料理屋へと足を運んだ。恵比寿駅を出てすぐ、アトレ坂を登った先にある雑居ビルの一室。アパートのような隠れ家的外観の扉を開くと、赤で統一された本格的な内装が視界を埋め尽くした。「ここの火鍋が絶品なんですよ」村上と僕はカウンターの左端席に通され、村上を壁側に座らせた。看板メニューである麻辣香鍋は二十種類以上のスパイスを沢山の具材で食べる汁なし火鍋で、元々付

もっとみる