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嘘の素肌

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「何者でもない僕に付加価値を与えてくれるのは、いつだって好奇心旺盛な女性達でした。」 桧山茉莉、二十七歳。仕事や人間関係に不自由なく生きてきた"何者でもない男"を取り囲むのは、…
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#先輩後輩

嘘の素肌「第11話」

嘘の素肌「第11話」

 今年度は新卒採用で春から会社に十名の新人が入社した。三、四年目の社員が一人につき二名を抱える形で研修上がりの新入社員を最低半年は教育するのだが、今年僕は新人教育から外れ、新設されたプラットフォーム事業部のSEOリーダーとして抜擢された。昨年に僕が中心となって取り組んだメディアディレクション業が追い風となったのだろう。自己評価と他者評価の差異に気後れしながらも、会社の新たな剣として身を粉にして働く

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嘘の素肌「第30話」

嘘の素肌「第30話」

 新人作家・村上流心の話題は、僕がどれだけ遮断しようとも耳に挟まってくるほど大きなものだった。有名出版社が主催する純文学の賞レースで最優秀賞を獲得した事実そのものは、さして世間へ波風を立てるような話題ではなかった。ただ彼のデビュー作『パープルノイズ』を十万部売れたヒット作へ押し上げる要因となったのは、村上が授賞式に登壇し、そこで常軌を逸するスピーチを披露したことがきっかけだった。誰かが録音した音声

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嘘の素肌「第32話」

嘘の素肌「第32話」

 渋谷から恵比寿に移動し、村上が太鼓判を押す中華料理屋へと足を運んだ。恵比寿駅を出てすぐ、アトレ坂を登った先にある雑居ビルの一室。アパートのような隠れ家的外観の扉を開くと、赤で統一された本格的な内装が視界を埋め尽くした。「ここの火鍋が絶品なんですよ」村上と僕はカウンターの左端席に通され、村上を壁側に座らせた。看板メニューである麻辣香鍋は二十種類以上のスパイスを沢山の具材で食べる汁なし火鍋で、元々付

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