見出し画像

MyHairisBad恋しがる


予定していた数々のライブを、カレンダーから消していく日々。消し忘れた3月の埼玉スーパーアリーナ公演「My Hair is Bad 」の文字を発見してしまい、思わず2019年にリリースされた「君が海」からはじまる「boys」というアルバムを再生する。

あの日、生で聴く予定だった椎木知仁(Vo.Gt)の声が鼓膜を揺らす。



My Hair is Badに出会うと、日常のどんな時間の中でも何度も「近距離恋愛」をする。イヤフォンから流れてくるその音楽に身を任していると、どうしてもやっぱりライヴが行きたかったと思ってしまう。ライヴが始まる前は当たり前にライヴに行きたいし、終わってからも行きたくなるんだけど。再延期の6月9日を過ぎた今でも、コロナが憎らしかった。私は遠距離恋愛は苦手なのだ。


 今やアリーナを埋める彼らだが、勿論まだライヴハウスでの公演もある。もちろん倍率は恐ろしいほどに高いのだけど。今までで一番印象が強いライヴは2018年に行われた吉祥寺WARPでの公演だった。

収容人数200人、少し斜めになったステージは柵もない。手を伸ばせば彼らは目の前にいて、息遣いも、彼らの熱視線も、勢いも熱量もすぐそばで感じられた。


「ばかエモい、生きれない」

友人がそう小さく呟いた。彼女は瞳に感情をいっぱい溜め込んで、彼らを観ていた。「クズでバカな大好きだった彼氏と別れたばっかりだから、余計に曲たちが染みるの。」そう言ったあの時の顔は今でも忘れられない。
変顔が得意な彼女だったけれど、それよりも印象的だった。

〈セットリスト〉

1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.ドラマみたいだ
4.復讐
5.クリサンセマム
6.ディアウェンディ
7.元彼氏として
8.フロムナウオン
9.いつか結婚しても
10.告白

特に、ライブで歌われるフロムナウオンは歌詞を持たない名曲だ。My Hair is Badが好きでよくライブに足を運ぶ人にはわかってもらえるだろうか。周りが暗くなり、椎木がもつギターだけが会場内に響く。大きく息を吸い、勢いよくマイクに声がぶつかる。その場で紡いでいく彼の叫び。それに心の臓器を掴まれ、息をするのを忘れそうになる。宙を見るような瞳で、椎木を捕らえて彼の姿を目に焼き付ける。恋愛の曲が多い椎木のギャップもあるのかもしれないけれど。

全員かかってこいよ、俺がぶっとばしてやる

といわんばかりに吠える。あれを目の当たりにしたら、好きにならない理由がわからない。圧巻圧倒とはこのことをいうのだろう。
CD音源やパソコンの中でみる彼らとは異なるライブパフォーマンスは、想像以上に牙をむいて噛み付いてきた。

 語彙力を最大限に下げると、エモエモのエモだ。エモーショナルといえよ。英語で書けよって誰か怒ってもいいよ。
 昔の私は想像してなかっただろう。こんなに好きになるなんて。
 [Alexandros]がまだ[Champagne]という名前だった時に「なんだよ。あの洒落た名前のバンド」と食わず嫌いをしていた並に、メンヘラ製造バンドと呼ばれた「My Hair is Bad」は音楽フェスで友人が観たいと言わなきゃ間違いなく観なかった。

第一、どうしたんだよ、バンド名。フェスのタイムテーブルに並んだそのバンド名を指差して「ヤバイTシャツ屋さんと同類的な?」と別の友人が首を傾げてそう言ったが、どこをどう聞いてもヤバイTシャツ屋さんとは別ジャンルだった。

間違いなく、彼らはノリで入籍できない。
月とすっぽんという言葉を人生はじめて、ここで使おうと思ったくらいだ。
(ちなみにメンバーが格闘マンガ「グラップラー刃牙」の主人公範馬刃牙のような髪型で"My Hair is Bad!"と言っていたのをきっかけらしい。ちょっとよくわかんない。)

My Hair is Badはなにより歌詞が良いと言われているって音楽を聴く前に友人から聞いていた。
聴いてみると、椎木の綴る歌詞は「恋」や「青春」の身も蓋もない赤裸々な本音で作られていた。本当に身も蓋もなかったのだ。
「もしも、あの時」と過去を振り返るなよ。さよなら、と切り出したのなら、喧騒の中で幾度も同じ女を追いかけてるんじゃない。なにが、結婚したいと思ってたんだよ、思ってるだけかよと顔面に鞄を投げつけてやりたくなる気持ちにもなった。


女々しいとブチ切れたくなるのだけれど、それが良いのではない、それだけで終わらない彼らが良いのだ。

 彼らが奏でる音楽にはいつもドラマがあって。あの頃の青春を思い出すような、淡くて切なくて青い物語(ドラマ)をあの心地の良い歌声で口遊む。私が日記にしたら黒歴史になっちゃうけど。
 それこそ、人の日記を覗き見ているようで気が恥ずかしいような歌詞も幾つもあるが、一瞬の青春を切り出すような言葉一つひとつに情景と心情が溢れんばかりに表されている。同時に、そんな言葉に同情して救われたりもするのだ。だって人間だもん。わかるんだよ、そのどうしようない赤裸々なやつ。こうすればよかったという後悔も、こうしたら変わっていたかなという疑心も、どうしてできなかったんだろう、わかんないけどっていう一連も。


そんな心情にしてくれる椎木は情景描写が何よりも上手かった、後悔と憂鬱と焦燥と愛情。嘘もないし、背伸びもしてない。ありのままだ。そう思う。

それでいて、わかっていてほしいのは、椎木だけがいて「My Hair is Bad」ではないということだ。

 脳内の記憶がフラッシュバックするようなあのバンドサウンドは、山本大樹(Ba.cho)と山田敦(Dr)ありきで成り立っている。寄り添うように鳴らす3人のアンサンブルはドラマチックに補強され鳴り響きあるべきところにおさまる。

 椎木の歌詞は自分に向けて歌うものが多い、独り言のようなものだ。しかし、それは私の心のずっと奥を掴んでくる。あの日もそんな気持ちで彼らをみて、涙をのんだ。

「命を歌ってんだよ」

叫ぶように言う彼のその言葉はいつまでも忘れられない。
 彼の叫びはいつまでも忘れられない。忘れたくないよな。

はやくライブに行きたい。
この目が、この耳が、また彼らと近距離で分かち合いたいと言っているのだから。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?