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魔女の宅急便 [幸福になりたい少女キキ]

スタジオジブリ作品の代表作の1つである魔女の宅急便。この作品の世界における「魔女」は決して華やかな存在ではない。

宮崎駿監督はこう述べている。

「キキは幸福になりたい少女なんです」(アニメージュ1989年8月号より)

魔女であっても、キキは地球上において決して特別な存在ではない。

どこにでもいる普通の少女である。

キキにはあって、普通の少女にはないもの。それはホウキを使って空を飛ぶことが出来るということだけだろう。彼女は普通の女の子と同じように様々な経験をしながら、また魔女という立場があるからこそ味わう苦しみもありながらも、大人への階段を上っていく。

この映画は、13歳の少女キキの人生における冒険と成長を描いた物語だ。

今回はの記事でキキが作中でどんな経験や思いをするのか、また最後には宮崎監督が述べている「幸福になりたい少女キキ」ということについて、それぞれ噛み砕いて分析・考察等を行いたい。

また、今回も物語の流れに沿って文章を構成する。3段落目までは物語の内容と、それに伴う考察などに関すること。一番最後はまとめとなる。


[人生、上手くいかないことばかり]



キキは魔女の仕来りに従い13歳で親元を離れ独り立ちし、修行に励むことになる。この物語はキキが修行へ出発する決断を下すところから始まる。

満月の夜に修行へ出発し、海の見える町に住む。可愛い洋服を着て自作のホウキを携行する。彼女は独り立ちするとき・その後のビジョンを実に明確にイメージしていた。

しかし、その理想は中々叶うものではなかった。

満月の夜に出発することは出来たが、まもなく豪雨に見舞われてしまう。やむなく貨物列車の貨車で一夜を明かすことになってしまった。キキが寝ている間にも列車は走り続け、朝方には海の見える町”コリコ”の周辺にたどり着いた。それと同時にキキがコリコの町を発見することが出来たので結果としては良かったと言えるかもしれない。

また、洋服は仕来りに従い黒い服を身につけることになった。ホウキも自身が作ったものではなく、母が使い込んだ大きなホウキを手に出発することになる。黒服に対しては「黒猫に黒服で真っ黒くろだわ」、自作のホウキを持っていけないことに対しては「せっかく苦労して作ったのに〜!」など、本人も最初こそ不満を口にしていたが、その後の様子を見るとこちらはある程度納得することが出来た点もあるようだ。

しかし、コリコの町で自分自身と同い年くらいの少女達が可愛らしい服を着て歩いている姿を見たり、お店にある新しいエナメル靴を見て憧れている姿を見ると、服装に関しては少なからず不満はありそうだ。オシャレをしたい年頃の少女であれば致し方のないことではある。

彼女の思い描く通りに全ての物事が進んでいることは少ないということはお分かり頂けただろうか。しかしコリコの町では更なる試練が待ち受けていた。

まず最初に挙げられる点としては、コリコの町の人々が”自分を受け入れてくれない”ということである。

ホウキで空を飛んでいたら「魔女」という珍しい存在であることから誰もが興味を示してくれる。笑顔で愛想良く振り舞えば町の人々もきっと受け入れてくれる...と心のどこかで思っていたのだろう。キキは自分自身に少なからず自信があったに違いない。それは田舎の村育ちである点からくる事柄もあるだろう。村では誰もが親切に相手をしてくれていたのは作中でも伺える。しかし、コリコは大きな町で様々な人が居る。村の住民とは違い生まれも育ちも様々で、各々考えも違う。幼いキキにとっては予測しきれなかった部分であるかもしれない。

コリコの街中を飛び回っていたキキであったが、途中でホウキが暴走してしまい、危うく交通事故を起こしそうになる。そこは何とか切り抜け無事に町へ降り立った。その様子を見た通行人は不思議な顔をしてキキを見つめている。彼女は見ず知らずの相手にすぐに自己紹介をし「この町に住まわせて頂きたいんです!きれいだし、時計塔も素敵だし!」と威勢良く言ったが、町の人々は相手にしてくれない。おばさん一言「気に入ってよかったわ…」と口にしすぐに立ち去った光景を見たキキはやがて現実を思い知る。

「魔女は誰にでも受け入れられる存在ではない」と。

やがてパン屋のオソノさんと出会い、パン屋のお客さんに忘れ物を届けたこときっかけでパン屋で働きつつ、宅急便配達の仕事をすることになったキキ。しかし、ここでもまた大きな壁に直面する。

最初はトラブルに見舞われながらも、意気揚揚とお届けものをお客様の元へ届けていき、お礼を言われたり報酬を貰ってやりがいを感じていたキキ。しかしお婆さんが作った”ニシンのパイ焼き”をお婆さんの孫娘に届けた際に「私このパイ嫌いなのよね」と素っ気無く言われてしまい、キキは大きなショックを受けてしまう。そのときは大雨の中を飛んで届けたのだからなおのことであろう。

キキに非がある訳では当然ない。送り主であるお婆さんにも当然非はない。

しかし、お届けものを届けても誰もが喜んで受け取ってはくれない。それは現実世界でも同じである。

仕事の理想やお客様の反応など、キキ自らが思い描いていたイメージと大きくかけ離れてしまったことにショックを隠せなかった。

このショックというのは大きなダメージになってしまった。彼女が風邪を引いてしまっただけでなく魔力が弱くなり唯一の取り柄と言っても良い”ホウキを使って空を飛ぶ”ことすら出来なくなってしまった。魔力が弱くなったと同時に相棒の黒猫であるジジとの会話も出来なくなった。(※1)

立ち直れないキキのもとに頼もしい助っ人が登場する。画学生ウルスラである。


[ウルスラの存在]



左側の女性がウルスラだ。作中でキキが彼女のことを「ウルスラさん」などと呼ぶことが1度も無いので、名前を聞いただけではもしかすると分からない方もいらっしゃるかもしれないので念のため紹介させて頂いた。

作中においてウルスラはパン屋のオソノさんと同様、キキにとっては大事な存在となる。親元を離れて生活しているキキにとって、コリコの町で母親的役割を果たしてくれているのはオソノさん。一方のウルスラは姉的存在と捉えても良いだろう。年齢やキキにもたらす事柄等を考慮するとそれらの存在が適当だと思われる。

実家では一人っ子だったキキ。更にウルスラのような年上でかつ姉的存在の友人は作中では居ないと過程する(作中ではどこにも姿が見えないため)。

ウルスラとの出会いは森の中のログハウスであった。宅急便の配達中に上空で落としてしまった黒猫の人形を回収するため彼女を訪ねてきた所から始まる。ウルスラは自分のログハウスを掃除してもらう代わりに壊れてしまった人形を手直しすることしか行っていないため、ここではキキにもたらした影響は最小限に留まっている。

最初の出会いの時に再会を約束していた2人。今度はウルスラがキキのもとを訪ねてきた。

その時キキは非常に落ち込んでおり、危機的状況にあった。(※1)

キキから近況を聞き、事態を把握した彼女は「今からログハウスに行こう!」と誘い出す。

ログハウスでウルスラとキキは様々なことを語り合う。キキが空を飛べなくなったと同様にウルスラも絵が描けなくなってしまったこと、そのような時はどうしたら良いのか。他にも様々なことを人生の先輩であるウルスラはキキに優しく語った。

彼女と話していくうちにキキは徐々に本来の自分を取り戻し、心を落ち着かせることが出来た。

ウルスラはコリコの町に置いてはオソノさんやトンボ・ジジよりもキキの心情や状況をよく理解し、格好の相談者となった。同時にキキは良き「先輩」をもつことが出来た。

ウルスラの存在無しにはこの物語を構成するのは不可能だっただろう。それほど彼女の存在は大きいものである。


[訪れた転機]



ウルスラのログハウスで1晩を過ごしたキキは翌朝コリコの町に戻る。

その足で、以前孫娘に料理を届けてほしいと依頼をしてきたお婆さんの家に行く。お婆さんからお礼のケーキを貰ったキキはとても感激した様子であった。

やがてテレビのニュースを見始めたお婆さんのお手伝い バーサ。そこには風に煽られた飛行船の様子が映っていた。暴走し始めそうな飛行船を止めようと必死でロープにしがみつき食い止める大人達。その中にはキキの友であるトンボの姿があった。しかし、その努力も虚しく飛行船は風に流され飛び立ってしまう。なんとそのロープにぶらさがったままトンボも飛行船と一緒に飛んでいってしまったのだ。

何とか助けなければならない

キキはすぐにそう思い、お婆さんの家を飛び出す。

このとき彼女はホウキで空を飛ぶことが出来ない状況にあり、必死に現場へ走っていく。日頃空を飛んでいる彼女からしたら、これほど必死に走ることは滅多に無かっただろう。

暴走した飛行船はやがて時計塔にぶつかり停止した。トンボは未だロープにぶら下がったまま。いつ落下してもおかしくない状況であった。ー刻も早く助ける為には空を飛ぶしか無いと判断したキキは、街中で偶然遭遇した掃除夫にデッキブラシを借りる。すぐさまブラシにまたがるキキ。集中力を高めるとやがてブラシは浮きはじめた。

物語の序盤では犬猿の仲であったキキとトンボ。しかし物語が進むにつれ2人の距離は縮まっていく。友を思う気持ちが、再び魔力を蘇らせた瞬間でもあった。

彼女はデッキブラシの扱いに四苦八苦しながらもトンボのもとへたどり着くことができた。あとはトンボを連れて地上へ降り立つのみとなった。

キキとトンボは必死に手を伸ばしあう。町の人々は必死に2人を応援している。はじめはキキを受け入れてくれなかった町の人々であったが、ここでは皆キキの味方である。

ロープにぶらさがっていたトンボはやがて力尽きてしまい落下してしまう。しかしキキが間一髪で受け止め無事に2人は地上へ降り立つことができた。

町の人々は安堵の表情を見せるとともに歓喜に沸いている。

この状況下でトンボを助けることができたのはキキだけであったから、なおのことであろう。「空を飛ぶ」という能力を如何なく発揮し、人命救助に努めたキキはトンボだけでなく、コリコの町の英雄的存在になったのである。

そしてそのときは、ようやくキキがコリコの住人として「正式に受け入れられた」瞬間でもあった。


[キキにとっての幸せとは]



キキは幸福になりたい少女である。これは宮崎駿監督が度々口にしている言葉であるが、具体的な内容に関しては言及されていない。もう少し噛み砕いてこのテーマに関して分析できないかと思い、この記事を作成し始めた。

物語の内容に合わせてキキの行動や心情面を分析・考察を行ってきた結果、この答えについて一つの仮説を立てることができた。それは・・・

キキは、他人が幸せになることにより、自らも幸福になれる少女

ということである。

彼女は自分自身だけが幸せになろうとは思っていない。その姿勢はオソノさんと出会った時から現われている。

困っていたオソノさんをみて率先して手助けしたキキ。お客さんの忘れ物を届けてお礼の手紙を貰っただけでなく、それをオソノさんに共有するところまで彼女はやり遂げている。その行動や人柄を見たオソノさんはキキに対して信頼感を抱くことができた。やがて「私はあんたのことが気に入ったよ」とキキに伝え、パン屋の空き部屋に住まわせようと思ったのもこの信頼感から来るものであろう。

宅急便の仕事を開始してもその姿勢が崩れることはなかった。始めのうちは代金をもらい実直に仕事をこなしていた。やがて彼女は単に荷物を運ぶだけでなく、「他人のために何か尽くせないか」と様々な試行錯誤を凝らそうと試みる。顕著に表れた場面としては”ニシンのパイ焼き”を焼くシーンだ。

「オーブンが故障してしまったので、パイは焼けないから諦めましょう。でも約束通りお礼はお渡しするわ」と依頼主であるお婆さんはキキに申し出たが、彼女はその申し出を断ることが出来る少女であった。

薪のオーブンを使うことを提案し、下準備から着火まですべて担当した。さらに待機時間に細かな家事も率先して行うキキ。2人暮らしのお婆さんにとっては助かった部分も多くあることだろう。

ただ単に荷物を運ぶだけでなく、少しでも役に立とうと行動する彼女の姿勢や、お代を少し可愛らしく、かつ謙虚に受け取る姿勢も相手にとっては嬉しく見えることであろう。

些細なことでも他人のために役に立ち、他人が少しでも幸福になってくれる。そして「ありがとう」など、お礼の一言を貰うことが宅急便の仕事をする上で何よりも嬉しく、やりがいの源であったに違いない。

また危機的状況にあったトンボを救出し、思わぬ形で町のヒーローになったキキ。彼女は祝福する町の人々を見て一瞬戸惑った様子を見せている。それはなぜか。他人の手助けすることが習慣付いているからだ。空を飛んで助けたとはいえども、彼女にとってそれは当たり前のことであるに違いない。

上記の写真でもあるように最後は満面の笑みを浮かべるキキ。トンボを救った安堵感からくる笑みもあるとは思われるが、一時期心を通わせられたかったジジがキキのもとへ帰ってきてくれたことによる笑みの方が比率的には多いであろう。

キキは天真爛漫な心の持主だ。嘘をついたり自らを着飾ったりすることは1度もない。彼女の親切な心と行動が様々な人を助け、手助けたし相手が喜ぶその様子をみることにより彼女も幸福になれる。それと同時に、同世代の少女たちと同様に様々な経験をしながら、彼女も少しずつ大人へと成長していくのだ。

魔女の宅急便という映画は13歳の少女キキの成長の物語であると同時に、彼女が徐々に幸福になっていく心温まる物語である。私はキキの素直で可愛らしい姿と偽りのない心が大好きである。



・・・編集後記・・・


かぐや姫の記事を投稿する前日くらいから旅行やら仕事やらで忙しくなってしまい、少し記事投稿が滞ってしまったことを反省しています。三日坊主にならまいと心を奮い立たせ、なんとか今回も投稿にこぎつけることができました(苦笑)

今は趣味の延長線上でスタジオジブリ各映画の映像分析や研究という体で記事を投稿していますが、ゆくゆくはこういった形で、少しでもお金を貰えるような質までレベルを上げて知識を増やせて行けたら・・・と思っています。

とはいっても、私はその道の人ではありませんので、まずは皆さんに読んでいただけるような記事づくりを心がけていきたいと思っています。究極の目標はその人達に追いつき追いぬく…こと!

皆さんの意見なども伺ってみたいと思っておりますので、感想等ありましたらどんどんコメントにお寄せいただければ幸いです。批判やクレームでもかまいません(笑)。

「幸せ」というテーマが少し続いてしまったので今度は人物に絞って何か書けないかな・・・なんて模索してます。これが書きたい!というのがそれにしますので、次回予告は未定とさせていただきます(苦笑)。


2018年5月10日投稿

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