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舞台『神州無頼街』

3月の終わり、2年前に中止になった舞台を観に行った。満開の桜の目の前にある劇場は、2020年に『キンキーブーツ』を観にきた場所だった。久しぶりの舞台に、春の陽気も相まって浮かれながら劇場に入る。今回は初めて演劇を観る母との観劇で、私自身も「劇団☆新感線」は生だと3回目ほどの初心者だ。

「年齢層高めなんだね」

普段アイドルを推している母は、若い女の子ばかりの現場に見慣れている。年配の方や、ご夫婦でやってくる中年の観客が不思議そうだった。新幹線の分厚くて大判のパンフレットの表紙の手触りにワクワクを膨らませていると、幕が開いた。


唯一無二のキャラクター

新幹線節が効いたと初心者が言って良いのかはわからないが、個性が全面に押し出されたキャラ一人一人に目が離せない。

宮野真守が演じた草臥(そうが)の「口出し屋」という職業がなんとも面白い。冒頭から喋りっぱなし。抑揚をつけて表情も豊かにあっちこっちに飛び回っては口を出す。まさに宮野真守って感じで、マモのファンも思わずコレコレ!となるのではないか。個人的に最後の清水次郎長を説得する際に、このための「口出し屋」だったのかと納得してしまった。それ程に奇抜な「口出し屋」は物語に馴染み、欠かせない言葉を何度も投げかける。

それとは対照的に描かれた、福士蒼汰演じる秋津永流(あきつながる)。心優しく穏やかだが影の見えるキャラクターで、草臥といるとそのコントラストがより濃くなる。彫りが深くシュッとした福士蒼汰に、イケメン好きの母は「やっぱりかっこいいな」としみじみ言っていた。立ち回りも「殺し屋」という背景を感じる俊敏さと、静かな殺意が出ていたように思う。

個人的推しキャラは棺桶屋のお銑(せん)さん。無頼街での喧嘩や博打は死人の出る儲け時。殺されることに潔い男を褒めちぎっては、葬ることは任せろと無性に心強い存在である。金儲けの「死」にも情熱を注ぐ姿は、強かで頼もしく幕末に残る「粋」を感じた。


ド派手な衣装

初めて演劇を観た母は、これでもかってほどにキラキラ輝く衣装が気に入ったみたい。悪役の纏うスパンコールは妖艶さと下品さが混ざり、やりすぎくらいがちょうど良い。翻った地味な着物からド派手な柄がチラリと裏地に見えると「さすが!」となってしまう。

個人的には演者が和服に合わせる奇抜なスニーカーがたまらなかった。江戸のストリート系ファッションとでもいうのか、ロックな音楽とカラフルなセットに映えていて最高。清水次郎長の子分が揃いで着ていたサイケなレインボー柄の着物も、不思議な統一感とそれしかありえないみたいな説得力があった。あの舞台上でしか着れないし、どの衣装もそこで一番光るのがすごい。


清水次郎長

軽快な音楽で進む物語の中で、今回最も「歌舞伎」な要素を感じたのは清水次郎長。歴史上の人物ではあるが、その貫禄や佇まいは一気に愉快な雰囲気を締める。悪役に寝返ったかと思ったが、最後は仁義を通して裏切りを決断。その時の「お控えなすって」の口上でビリリと鳥肌が立った。見事なセリフの後に送られる拍手に、私も顔が綻ぶ。


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私事だが、卒論で江戸のヤクザを書いた。私は国定忠治だったが、清水次郎長も悪役ヒーロー筆頭だろう。劇団☆新感線で度々描かれる無宿人や無頼漢は、しっちゃかめっちゃかで面白く、真面目で憎めない。舞台上で繰り広げられるド派手などんちゃん騒ぎの行く末を見届け、心置きなく拍手を贈ることができる最高の舞台だった。もちろん、母も大満足である。

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