裁判傍聴 国内ロマンス詐欺くんと元上司に学ぶモテ術

 有給休暇を取った。
 
 有給休暇を取った月曜日の朝というのは得も言われぬ幸福感に包まれている。アラーム前の5:30に目を覚まし、濃いめのコーヒーとカステラで朝食を取りのんびり読書をする。
 
 9時頃、裁判所へ向けて家を出る。この日は目当てにしていた裁判が一件ある為、ハズさない。約一ヶ月、この日を楽しみにしていた。開廷し、最前列を陣取る。続々と役者が揃っていく中、検察と弁護士がなにやらポショポショと話している。どうやら証拠不同意で揉めているらしい。
「このままだと4人全員証人尋問で呼ぶことになりますが・・・?」
 半笑いで聞く検察に対して「まぁ、そうなりますね」とどこか挑発的な呆れ笑いを浮かべる弁護士。
 
 少しすると被告人、続いて裁判官がやってきた。
 
 開廷して早々に証拠の提示がされたかと思えばやはり被告人の証拠不同意のくだりへと落とし込まれていく。結局今後の予定を決めるという話へと進み開廷10分で関係者以外締め出しというまさかのエンディングとなってしまった。
 法定前に張り出されたセットリストには1時間の尺が設けられている。こんなことって、というお気持ちを抱えながら少し早い昼食を摂り、一時帰宅した。とはいえ、まだ午後に裁判を一件控えている。それも新件で詐欺だ。これは結構楽しみである。
 
 次の裁判まで2時間ほど間が空いたのでゆっくりと食後のコーヒーを飲みながら読書に耽っているとなんだか嫌な感じが胸のあたりをヒュンッと過る。慌てて腕時計を見ると14時、もうとっくに裁判が始まっていた。なんなら裁判所に就く頃には終わっているまである。
 せっかくの有給がこんな形で崩壊するなんて、という悲しみとアラームをセットしなかった自分の愚かさを呪う。
 
 悔し紛れになにか出てこないかとセットリストに記されていた被告人の名前を検索してみると早速出てきた。
 
 「親族が亡くなり借金が・・・」
 その見出しから始まる記事は街コンで知り合った交際相手の女性から現金800万円以上をだまし取った無職の男性(32歳)が逮捕された。というものだった。
 彼は街コンで知り合った女性に対し「親族が亡くなって借金があり、返済すれば一緒に暮らすことが出来る」と嘘を言い、会社員の女性(32歳)から現金800万円以上を騙し取った疑いがもたれているということだ。
 彼のには実際に借金があり、その上で「遊ぶ金が欲しかった」と犯行を認めており、自宅からは別の女性との間に交わされた借用書が複数見つかっており他にも被害者が居るとされている。
 そしてまた別の女性から動揺の手口で現金を騙し取ったとしてすでに逮捕、起訴されている。
 
 裁判所に張り出されていたセットリストの被告人欄には「〇〇こと■■」という具合に別の名前が書かれていた。それを見て私はどうせホストかなにかだろう、と思っていたところに想像を超えるものが隠されていた。大変興味深い。そして傍聴することが出来なかったという事実がただただ悔やまれる。
 
 とある男性が街コンに応募した。
 
 その街コンは参加してみると男女比に大きな差があり、少数の女性に多数の男性がまるで餌に群がるコイのようになっていたという。幸い、会が始まると席も決まっており、時間制での席替えなどが行われたがそれでも30代半ばアルバイトの彼は誰とも連絡先を交換することが出来ないままその街コンは無慈悲に過ぎ去っていった。
 それから再度別の街コンに参加し、職業も詐称したがそれでも女性相手に手も足も出ず、二回に渡りそれなりの参加費を支払ったがなんの成果も残すことが出来なかったという。
 
 街コンに参加する男性の殆どは交際相手なり結婚を視野にいれた相手を求めて行くことが多いだろう。しかしそれに対し女性は食事目的、人付き合いなど多岐にわたる。その上で街コン内でカップルが成立するのは難しい。
 もちろん、街コンの質だったりそういったものも大きく影響してくるが少なくとも私は街コンに参加して相手を見つける自信がない。
 
 そんな激戦地となる街コンにおいて、無職でありながらも複数の女性と交際に至り、その上で金銭を騙し取る程に相手からの信用を得るというのは容易なことではない。少なくとも週5で8時間労働して給料を得るよりかはるかに難しい。その才能をもう少し別の方向性に活かすことが出来たならばこんな事件にはならなかったのでは、そして合法的にお金を稼ぐことが出来たのではと思えてならない。
 そして、それと同時に800万以上を人に貸すことが出来る女性の経済能力の高さにもただただ脱帽するだけである。私には逆立ちしても無理である。
 ただこの事件を見て、私ももう少し自信を持つことが出来れば彼程とは言わないまでも、もう少しモテることが出来ないかと希望をほんの少しだけ抱くことが出来た。
 
 国際ロマンス詐欺の件数が増え、注意喚起が増えている昨今においても昔と変わらず結婚詐欺、あるいはそれに近いロマンス詐欺の類は後を絶たない。
 ある56歳の派遣社員の男は結婚する意思がない上で、結婚を前提とした交際を続け「空き巣に入られた」「出張で韓国に行く」「韓国で入院した」という嘘をつき、1ヶ月あまりの間に合計120万円を40歳の女性から騙し取ったとして逮捕されている。
 男は、厚労省職員と身分を偽り婚活パーティで女性と知り合ったという。不審に思った女性が問い詰めるとSNSを通じ、男性の友人を装い「男は死にました」と伝えてきた。それを受けて女性が警察に相談したことで彼は逮捕された。しかし彼は「借りていただけ、返すつもりだった」と容疑を否認しているという。
 56歳にしてはやることが大胆過ぎる気もするがこれくらいの大胆さがないと16歳という年の差を埋めることが出来なかったのかもしれない。
 
 他にもマッチングアプリを通じて知り合った女性から150万円を騙し取ったとして住居不定無職、34歳の男性が逮捕されている。彼も「キャッシュカードが止められた」といった寸借詐欺の類である。家も職もなくても出会いはあるらしい。調べてみると想像以上に跋扈している現実が広がっていた。
 
 ここで大変興味深かったのは、当然ながら男前だったり整った顔立ちの男性も多かったが結構そのへんに居るおっさん顔だったり、実家ぐらしでまともに働いていない上に某生配信サービスに張り付いて若い女性配信者に粘着していそうな顔立ちの男性も多く居いたことだ。その上、無職だったりするものだからもう目も当てられない。
 しかし、それでも多くの女性を虜にし続ける彼らにはどんな魅力があったのだろうか。
 
 後日、このロマンス詐欺くんの裁判、判決公判を見ることが出来た。彼は傍聴側の入口から大きなキャリーケースと大学生的なリュックサックを持って入ってきた。
 オーバーサイズの黒Tに色落ちした黒のカーゴパンツ。靴はベージュのニューバランス。少しニキビの残る幼い印象を受ける顔はどこか嵐の相葉くんのエッセンスを感じる。無農薬で作られた相葉くんといったところだろうか。32歳というには随分と若々しく見える。
 判決は懲役1年4ヶ月。仮釈放中での犯行だったという。この事件では被害金額が20万と少額だった事と被害金額を全額弁償済みということでこの判決である。
 また、現在交際している女性が出所後の監督者となるという。それを聞いて耳を疑った。ロマンス詐欺をした男性と(そしてその事を知った上で)交際し、今後将来を共にしようとしている女性がいるのだ。
 やはり彼はモテるらしい。この事実に関してはただただ脱帽する限りだ。是非とも彼にその秘訣を聞きたいものである。
 
 私の元上司であるやっさんはバツイチで収入もお世辞には良いとは言えない中で、当時は住んでいない家のローンと慰謝料、養育費の三重苦でありながらも妙にモテた。私が記憶している限りでも当時不倫相手から交際相手となった女性と別れてからも1ヶ月以内に新しい女性と交際していた。
 服のセンスは良かったが特にブランドものというわけでもなかったし、当時彼が乗っていたワゴンRからは不穏な音が響いていた。それでも彼は間違いなくモテていた。
 そして交際相手に対してマメになにかプレゼントを送ったりとかそういうこともなく、たまに擁護のしようのないドくず発言なんかも交際相手に対して発しておきながらもやはりそれなりに長く交際は続いていた。
 
 私と、やっさんやロマンス詐欺くん達との間にある決定的な違いは恐らく”自信”と”フットワーク”では無いだろうか。ロマンス詐欺くん達に関しては詳しいディテールがわからないのでこの考察をする上でやっさんとロマンス詐欺くんは同等とする。実際、やっさんも相手によってはバツイチであることを隠していた(本人としては否定も肯定もしていない、と供述していた)ので大体同じようなものだろう。
 
 やっさんはいつも「だってしょうがないでしょ」といつもへらへらと笑っていた。その笑顔には”シミ”一つなく、ここに何かを打ち込んでも勝てないと思わせる程の面の皮の厚さがあった。
 そして妙にそのキャラクターが彼のビジュアルとマッチしていた。絶対に引かないであろう、という堂々たる姿が女性を引き付ける要素の一つになっているのだろうと思う。少なくとも私は彼のそういうところが大好きだ。
 そして、次にフットワークの軽さである。彼は仕事終わり(それもそれなりに遅く)であっても相手の都合さえ合えばタイムカードを押すと、そのまま不吉な音を響かせつつ車をぶっ飛ばしていた。
 また、あるときには転勤で交際相手が隣県に転勤したとしても変わらずぶっ飛ばしていた。その頃、車の整備士からは「あぶないから高速道路には乗らないように」と念押しされていたにも関わらずだ。

 この筋斗雲ほどのフットワークはそう真似出来まい。
 
 そういった彼の類稀なる特性が一部の女性を魅了するのだろう。そして彼はそういった女性を見つける嗅覚が凄まじく、交際相手と別れた翌日には出会いを求める努力を一切惜しまなかった。
 
 他にもミスチルの楽曲を歌うと本当に桜井氏なのではないか、と思える程の歌声の持ち主であったり、彼固有の魅力は枚挙に暇がない。
 
 結局のところは魅力の多さだ。ビジネスと何ら変わりがない。どれだけ与えることが出来るかということである。やっさんには話の上手さやエンタメ要素とフットワーク、そして堂々たる立ち振舞からくる楽観思考、そこに救われる人は多いだろう。
 それと比べて私はどうだろう。何があるだろう。考え始めると酷く落ち込んでしまう。
 
 もし、私書いてきたnoteの文章を読んで魅力を感じた人が居たならばそれを積極的にアウトプットして私の地に落ちた自己肯定感を上げる手助けをしてほしい。
 また、現在時点で独り身な為に交際相手も募集中である。戸籍にバツもついていないし、借金もスマートフォンの分割くらいしか持っていない。
 
 尤も、人との共存能力も持ち合わせていないが。

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