昔住んでた町で起きた殺人事件 その後

 以前投稿したこの事件。
 先日、進展があり容疑者と被害者の実名報道と顔が公開された。

 報道カメラに映された赤味が強い茶髪と黒々とした太い男らしい眉毛のアンバランスさが際立つ男性は38歳というにはあまりにも老けて見えた。それは事件によって疲弊したせいというより元から老け顔だったという様な、中学生の頃からずっとこの顔である様な、そんな顔立ちだった。
 警察関係者に連れられて歩く際に報道カメラに向けてぎょろりと大きな目を向ける姿が印象的だった。まとったレトロなデザインのニットはどこか野暮ったく時代遅れの産物に感じる。私ならもう少しそれっぽく着こなせる自信がある。
 
 実名が報道された事により、ネットでは様々な憶測と意見が飛び交っていた。
 浅はかで安直な性質を持つ私も早々に名前で検索してみた所、今回発覚した事件の昨年7月に容疑者と同姓同名の男性が同居していた交際相手に対しての殺人未遂容疑で逮捕されていたという記事に辿り着いた。
 今回の事件現場とその殺人未遂事件が起きた場所は大体30キロ程しか離れておらず、殺人未遂事件の被害女性と今回の時間が明るみに出たきっかけとなった女性監禁事件の被害女性の年齢も一致している。こんな偶然があるだろうか(そういう決めつけが誤った情報の錯綜や陰謀論などにつながるのだが)、と思わずにはいられない。
 
 死体遺棄の容疑で逮捕されていた容疑者の男性は、今回強盗殺人の容疑で再逮捕された。それに対し「事実ではない」と容疑を否認しているということだが素人目に見ても物的証拠が多すぎる事とそれに至るまでに元交際相手の女性に対しての監禁容疑でも逮捕されている。それ以前に殺人未遂まであったらもうどうしようもない。
 もし、今回の強盗殺人と以前の殺人未遂の事件まで彼の犯行であったならば今回の事件は以前の事件の執行猶予中の出来事だろう。
 その結果を受け、彼が女性に対して恨みだったり様々な感情を持っていても何ら不思議ではない。
 また、以前の殺人未遂事件の際の報道では「職業:作業員」となっていたが今回の事件では「職業:無職」という肩書に変わっていたところを見ると7月〜1月までの間に仕事も失ったことになる。
 殺人未遂で逮捕されたとなると同じ職場に勤め続けるというのは難しいものがあるだろう。そして生きていくためにはどうしても金銭は必要になる。私が今の世界の果ての様な職場にみっともなくしがみついているのもそれが理由だ。仕事という生活を支えるものがなくなったとなると、そして犯罪歴により再就職が難しいという現実に直面したならば彼の感じた絶望は大きなものとなっただろう。それがたとえ自業自得によるものであったとしても。
 
 仕事を失い、生活苦の中で窃盗。そして人を殺してしまったことで転落のきっかけになった元交際相手の監禁へと走ったと思うとなんだかありそうな話に思える。
 因みに逮捕当時、容疑者が乗っていた被害男性のものとされる車は時価35,000円相当だったという。型落ちの軽自動車であるがなんとも世知辛い。それと併せ運転免許証、他9点の窃盗容疑ということであるが他9点が気になるのは私だけではあるまい。また、事件現場となった民家は荒らされており、それにより金品を狙った強盗目的の犯行とされているが”金品”があったかどうかは現場となった民家を見る限り怪しいものだ。
 
 奪ったものの価値がその程度であっても強盗は強盗だ。
 強盗殺人の量刑は「無期懲役もしくは死刑」である。執行猶予中の犯行で死体遺棄も加われば重くなるだろう。どちらにせよ38歳がスタートラインならばもう社会に再び出てくることは無いだろう。
 奇しくも、先日私の勤める職場に新入社員が入ってきた男が38歳である。珍しく服装にも会話をする中での日本語にも何一つ違和感がなく、冗談まで(それも独りよがりなそれではなく、ちゃんと成立した冗談だ)話せる男性だ。同じ38歳。綾瀬はるかも松山ケンイチとも同い年と思うとその容姿を見比べると脳が混乱する。
 とはいえ、私自身も菅田将暉と同い年だ。そういう意味では同じに思えるが私は幸運にも刑務所暮らしではない。それだけで十分だ。
 
 また、新たな報道で容疑者男性は犯行時手袋をして室内を物色していた形跡が残されていたという(どういう形跡なのだろう)。それにより計画的な犯行であったという証拠が上がった。こういった突発的なものではなく、考える余地のあった犯行というのは裁判の際に詰められる要素の一つだ。
 罪が重くなる要素がどんどんと集まっていく。

 男性を殺害後、マットレスの下に隠したり失踪宣言をするような書面を作ったりと様々な工作をしている印象だがそれが何一つうまく機能していないところが容疑者の男性の全てを物語っているような気がする。
 本人としてはうまくやっているつもりでも何一つ上手くはまらないような、本人は軽快なタップダンスを踊っているつもりでも傍目にはそれが連続して躓いているようにしか見えないような根本的なセンスの無さを感じる。
 そういった宿命的なセンスの無さを持つ人間というのは世界の果ての様な職場に勤めているとよく見る。そういう人たちは「上手くやってやった」みたいな顔をして論理的にどう考えても悪手である、というようなことを繰り返し続ける。それ故にどうしてもそのうちにほころびが生まれて居づらくなり、結果仕事が続かないという生活様式を持っている。
 仕事が変わる度にゆっくりと生活が下降していく、俗にいうスキルアップ転職とは真反対の転職により最終的にはこれ以上無いところまでダウンし続けることになる。
 その結果この一件の容疑者男性もこれ以上無いくらいのスキルダウン転職をすることになった訳だ。
 
 最近、職場で日本語が通じないことや、従業員の訳の分からない理屈に心底嫌気がさしてきていよいよ転職をするべきかと悩み始めた。
 しかしここで転職をして私はどこへ流れていくのだろう。彼のようにどんどん坂道を転がり落ちて行くだけで彼は私の未来ではないだろうか、と思えてならない。
 なんだか先のことを考えるのが億劫だ。
 
 実家の猫ちゃんに会いたい。

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