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本読みの履歴書 5

5回目になってもまだ小学校時代。小学生の頃って何であんなに時間があったのでしょう。本の虫とは言うものの友だちとも遊んでいたし稽古事もしていたし夜はグースカ寝ていたし。
そして大人になった今は何でこんなに何もしないまま一日が終わってしまうのでしょうか。

前回はこれです。

さて前回まで書いてきたように、創元社(のれん分けした東京創元社も含む)はいろんな意味で自分の背骨なのですが、もちろん他の出版社の本もたくさん読んでおりましたとも。

<少年少女世界ユーモア文学全集(ポプラ社) 全10巻>

おもしろ楽しいお話ばかり集めた子ども向けの全集でした。やはりそれぞれの巻が「英米編」「フランス編」「東洋編」なんて分類されていて。この当時の流行だったんでしょうかね、全集もの。今思い出せるのは収録されていたお話のうち、3つだけ。あ、ついている番号はこの「本読みの履歴書」シリーズ全体での通し番号なので出版社や本自体とは関係ありません。

27.佐々木邦 「苦心の学友」
明治時代の少年小説? 内藤くんというフツーの男の子が、花岡伯爵家の三男坊、照彦様の「ご学友」として奉公に上がる(?)話。でもコメディなんです。この照彦様がほんっとにヘタレで腰抜けなやつで(笑)、それを陰に日なたに助ける賢い内藤くん。でも中間管理職みたいでいろいろ大変……という内容でした。なんだか書いてて源氏鶏太のサラリーマンものを思い出しちゃった。

源氏鶏太は中学生くらいで読んでましたね。おばあちゃんちによく週刊新潮とか週刊文春があって、そこの連載小説にあったんです。それで文庫本を何冊か買うようになったんだったか。ちなみにこの作家とは関係なく週刊新潮でこっそり楽しみにしていたのは「黒い報告書」っていう下世話なゴシップ記事のシリーズでした。殺人事件とか不倫とか満載でね。

28.鼻
これは芥川の小説ではなく、今昔物語にのってたものを子ども向けにリライトしたようでした。詳細不明。

何がおかしかったかって、三井寺のえらい坊さんの鼻が腫れてかゆくなりすぎると、まず鼻をぐつぐつと茹で、真っ赤になったら小僧さんに踏んでもらい、鼻の毛穴らしきところからむにゅ、むにゅと出る白い糸みたいな虫みたいなもの(きっと脂肪だわ)をひとつひとつとって、そのあとまた湯で洗うとすっきり…………というその手順。花粉症みたいですね。気持ちはわかります。

29.寿毛無
この全集には落語がいくつか、お話になって収録されていました。寿限無は何だか急に覚えたくなって覚えたんです。意識して暗記したのはあれが生まれて初めてじゃなかったかなあ。小学校の4年生くらい。

じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところ……

よく覚えていたのはこの寿毛無と「あたま山」でした。落語というものを全然知らないままただストーリーを楽しんでいましたね。いまだに本物の落語で「寿限無」を聞いたことがありません。

30.「名探偵ホームズ」シリーズ 全20巻 ポプラ社 山中峰太郎(訳)
この後の長いミステリ生活を方向付けた記念すべき全集。

この訳者は戦前に軍部に協力していたり訳自体が完全でなかったりで、このあと出てこなくなっちゃうし本も復刊されないようですが、なんか凄く面白かったですよ。挿絵もおどろおどろしくて怖かった。挿絵は見ないようにページを折って隠して読んでいました。

現在ちくま文庫からすんごい詳細な注釈の入ったシャーロッキアン(=シャーロック・ホームズのマニア)向けの全集が出てまして、それも一部持ってるんですが、確かに今読むと微妙にディテールが違う部分があります。ディテールどころか事件全体の雰囲気が全然違うことも。まあいいや。好きだったから。

31.ヴィルヘルム・ハウフ 「鼻の小人」 書誌情報不明
マイナー作家のマイナーな作品。でもハウフは割に日本で好まれた作家だと、どこかに書いてありました。

なぜこれが好きだったかって、中に出てくる「ハンブルグの肉団子」(当時読んだ本にはそう訳されていた)って料理がね、実にうまそうだったのです。ああ肉だ。肉は記憶に残るんです。牛でも豚でも鶏でも羊でもジビエでも。(西欧のお話を読んでるとよくウサギとかハトとかウズラとか出てきます。食べる方で。)

わたしの場合とにかく「食べ物」で、「肉」が脳に直結して反応するみたい。お話自体を忘れても肉が出てきて美味しそうな所はみんな覚えています。

ところでハンブルグって「ハンバーグ」ですよね?
じゃあ「ハンバーグステーキ」ってハンブルグの肉料理ってことですか?

32.エーリヒ・ケストナー 「5月35日」 書誌情報不明
ケストナーでこの選択もマイナーだな。ケストナーと言えば、「エミールと探偵たち」とか、「点子ちゃんとアントン」、「ふたりのロッテ」などが有名ですが。これはタンスの奥がジャングルに続いていて……というお話。

タンスの奥がどこか違う場所に繋がるどこでもドアになっているのはC・S・ルイスの「ナルニア」シリーズが有名ですが、どういうわけかナルニアは読まなかったんですよね。存在すら知らず、ずいぶんな大人になってから読みました。アラフォーくらいの時。そうするともう子どもの時に読んだら感じたはずのドキドキ感とか没入感てのは得られなくてちょっと残念。

33.T・R・R・トールキン 「ホビットの冒険」 岩波書店
さっきwikipediaを見てみたら日本語の初版は1965年だということですから、出たばっかの頃に買ってもらったようです。

で、はまりました。ビルボおじさんの方の話です。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」の前章譚で、ビルボおじさんが例のアレを持ち帰っちゃった物語です。ずっとガンダルフが一緒にいてくれればいいのに、どうしていなくなっちゃうのだろうと読んでいる間中とても不満だったですね。

でもこのホビットにしても最も印象に残っているのは、霧ふり山脈をやっとの思いで越えたビルボたちがエルロンドの館にたどりつき、白パンと糖蜜……だったかなあ……を振る舞われる場面。おいしそうだなという気持ちと、パンと蜂蜜だけで肉はないのかと思ったのと、両方で。

もちろん、瀬田貞二(訳)です。「ゴクリ」も出ます。いとしいしと。

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