※本記事はシリーズ記事です。
2023年1-3月期の新規上場企業の成長可能性資料一覧とポイントまとめは下記からご覧ください。
成長可能性資料は、自社の魅力を伝える最も重要なマテリアルの一つ
成長可能性資料とは、東京証券取引所の定める「事業計画及び成長可能性に関する説明事項」に基づき、企業が東証グロース市場に上場(IPO)する際に公開する資料です。ビジネスモデル/市場環境/競争力の源泉/事業計画/リスク情報等が掲載されており、株式投資家がIPO企業への投資を検討するにあたって最も参考にする資料の一つです。また実務的には、公募価格決定プロセスの一つである対機関投資家向け1on1プレゼンで利用するロードショーマテリアルとほぼ同内容であることが多いです。
IPOは、企業にとって初めて不特定多数の株式投資家に価値評価される一世一代のビッグイベントです。そのため、企業経営者は「如何に自社の魅力を伝え切り、正当な価値評価を受けるか?」を考え抜き、成長可能性資料を作り込む必要があります。ただし、株式投資家の目線をもって「自社の魅力は何か?」、「何をどのように伝えるべきなのか?」を適切に判断し資料に盛り込むことは容易ではありません。
今回は、23年4-6月に新規上場したIPO企業の成長可能性資料を参考に、「IPO企業はどのようなポイントを投資家に説明しているのか?」、「上場後、投資家から高評価を受けたIPO銘柄は何を訴えていたのか?」を探ってみたいと思います。
23年4-6月期IPO企業の事例から、成長可能性資料のポイントを読み解く
23年4-6月期に新規上場を果たしたIPO銘柄は以下表の24社です。宇宙開発のispace(9348)や、AI/DX関連のRidge-i(5572)、ABEJA(5574)、アイデミー(5577)といったテーマ性ある企業が多く、公募価格からの株価上昇率(上場1ヵ月後)は、これら銘柄群が上位を占めました。ただし、これら人気化しやすい企業を除くと、「強み・優位性の示し方」が分かり易かった企業が上位に散見されると見ております。
成長可能性資料は上場当日朝に一般公開されますので、このマテリアルから読み取れる企業の魅力度が高ければ高いほど、株価に押し上げ圧力が掛かると言えます(当然、株価は複合的な要因で決まるため、あくまで一要素としてご理解下さい)。そのため本稿では、成長可能性資料のコンテンツの中でも「強み・優位性」にフォーカスして、評価上昇した銘柄の示し方・パターンをいくつか列挙します。
【事例-1】ジェノバ(5570)
ジェノバは、位置情報等を必要とする顧客に対し、衛星測位による測量、GNSS(Global Navigation Satellite System)測位により発生したメートル級の誤差をセンチメートル級までに補正する「GNSS補正情報配信サービス等」を提供する企業です。公募価格ベースでP/E14.8倍で株式上場を果たしましたが、1ヵ月後株価ベースでは33.9倍まで評価が高まっております。
この会社は「強み・優位性」「市場環境」「成長戦略」を「カンパニーハイライト」としてまとめる資料構成を採用しておりますが、章の冒頭に「強固な顧客基盤」や「持続的な収益成長」といった「分かりやすい結果」を提示することで、その後に掲載している「高精度且つ安定的なデータ提供」や「市場の拡大」、「高いストック性と費用構造がもたらす魅力的な利益創出力」といった背景・真因に迫る説明の説得力を引き上げることに成功していると言えそうです。
【事例-2】シーユーシー(9158)
シーユーシーはエムスリー(2413)の子会社で、医療機関の運営・売上成長支援や訪問看護サービスの提供、在宅ホスピスの運営を営んでおります。公募価格ベースでP/E25.4倍で株式上場を果たしましたが、1ヵ月後株価ベースでは41.0倍まで評価が上昇しました。
この会社は「市場環境」と「強み・優位性」の項を一纏めにしておりますが、①医療システムが抱える社会課題の提示、②事業領域、及び垂直統合されたサービス提供による広大なTAMへのアクセシビリティ、④それを実現するための人材確保面での優位性、といった一貫したストーリーをコンパクトに示すことで、成長可能性をシンプル且つストレートに訴えられています。
【事例-3】ARアドバンストテクノロジ(5578)
ARアドバンストテクノロジは、クラウド技術とデータ・AI活用によるDXソリューションを提供しております。公募価格ベースでP/E13.7倍で株式上場を果たしましたが、1ヵ月後株価ベースでは33.8倍まで評価が高まりました。
この会社は前掲2社と異なり、「競争力の源泉」と銘打ち1章まるごど「強み・優位性」の説明に割いています。同章だけで計13枚のスライドがあり分量は相当に多いのですが、冒頭で、「BTCアプローチ」と「ハイブリッドアプローチ」が収益最大化の源泉だ、と「会社独自のキーワード」でシンプルに特徴を要約してあげることで、その後の主張ポイントの腹落ち感を高めています。
「強み・優位性」の示し方をストーリーや資料のまとめ方の観点から見てみよう
本稿では、ジェノバ/シーユーシー/ARアドバンストテクノロジを例に、成長可能性資料のうち「強み・優位性」の項の訴え方の例を挙げましたが、その他IPO企業の成長可能性資料にも数多くの工夫が見られます。「強み・優位性」の項は、発行体にとって最もオリジナリティが出る要素ですので、他の企業がどのように成長可能性資料に落とし込んでいるのか見てみると、勉強になる点も多いでしょう。以下に、23年4-6月にIPOした企業の成長可能性資料のうち、特徴的なスライドの頁番号とポイントを整理しておりますので、気になる企業の資料は巻末URLから遷移して確認してみてください。
なお、株式会社KINOCOSでは、ロードショーマテリアル・成長可能性資料の作成について、エクイティ・ストーリーの構築段階から多数ご支援させて頂いております。「自社だけでは投資家目線に沿ったマテリアル作成はハードルが高そう」、「マテリアルは作成したけれども、これで適正に評価してもらえるか不安」、「IPOは果たしたものの、株価は正当な評価を受けていない気がする」といった経営者の方は、お気軽に弊社(https://kinocos.com/)までお問合せ下さい。
2023年4-6月期 新規上場企業の成長可能性資料一覧
トランザクション・メディア・ネットワークス(5258)
ispace(9348)
ジェノバ(5570)
エキサイトホールディングス(5571)
南海化学(4040)
楽天銀行(5238)
レオス・キャピタルワークス(7330)
Ridge-i(5572)
A B E J A(5574)
Globee(5575)
シーユーシー(9158)
オービーシステム(5576)
アイデミー(5577)
リアルゲイト(5532)
ARアドバンストテクノロジ(5578)
ブリッジコンサルティンググループ(9225)
エリッツホールディングス(5533)
クオリプス(4894)
プロディライト(5580)
ノイルイミューン・バイオテック(4893)
W TOKYO(9159)
ノバレーゼ(9160)
ジーデップ・アドバンス(5885)
クラダシ(5884)
KINOCOSについて
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