見出し画像

ブータン旅行記 第2章 お寺の本当の魅力

ホテルで朝食を食べていたら、一人旅らしき日本人女子に話しかけられた。
第一声が「今日はどこいくんですか?」
これだから一人旅の人は好きだ。
変な気遣いや遠慮がなく、一瞬にして仲良くなれる。
空気を読まない私には、まことにやりやすい人種だ。
お互いの旅についていろいろ話していると、いつの間にかサンゲが彼女の隣に立ってニコニコしていた。
「おいしかったデスカ?」屈託のない笑顔がかわいい。
はい、おいしかったデスよ。
ホテルを出ると、これまた笑顔のキンガさんに
「おはよごじゃます~」と言われて、萌える・・・。
この二人は本当にかわいいところがあって、私は二人の言動に日々きゅきゅーんとしていた。
しかし、そんな私をさらに身悶えさせる存在が、この国にはあったのだ。

ブータンのもうひとつの観光名所は寺院だ。
というか、観光地のほとんどはゾンか寺である。
私もわずか5日の滞在の間に、たくさんのお寺を見て回った。

チベット仏教のお寺には独特の雰囲気がある。
仏像からして、日本のものとはまるで違う雰囲気を発している。
日本の仏像は穏やかだ。
たいていはシンプルで丸みがあって、見ていてほっと落ち着く感じのするものである。
対してチベット仏教の仏像は密教のテイストが強い。
一目見ただけで、発するエネルギーの力強さがわかる。
日本の仏像が包み込むような静のエネルギーなら、チベット仏教は動だ。
極彩色に彩られた仏像には躍動感があり、華やかで豪華で、圧倒的な迫力がある。
また、仏像の周りに飾られた神々の像は、まさに荒くれ者の集団といった体である。

ちなみにサンゲの解説によると、仏は悟りを開き解脱した存在だが、神は仏と人間の間にいる存在であるらしい。
天界にいるものの、まだ悟りには至っておらず、人間と同様に転生を繰り返している。
確かに、多種多様な神々の性格は、聞いているとどこか人間くさく身近に感じられるものがある。

お堂の中にはそんな仏と神々のオーラが隅々まで満ちているのだ。
一歩足を踏み入れただけで、その空気の異質さに気付く。
靴を脱いでひんやりと冷たい床に足を下ろした瞬間、異次元の世界に迷い込んだような感覚を覚える。
蝋燭やバターランプの灯りに照らされた薄暗いお堂の中。
壁にびっしりと描かれた絵や異様なまでの存在感を放つ仏像たちが宇宙のように混沌としている一方で、たくさんのお供えものでいっぱいの祭壇や静かに淡々と立ち働く僧侶たちの姿は美しく秩序だっている。
総合的には全てのものがあり、かつ無駄なものなど何ひとつない気がする。
その時空を超越したような空気に私は強く惹かれた。
いつまでもここにいたいと思うような、不思議な静寂があった。
ここにいたい。
ここで自らの仕事をし、静かに祈り続けたい。

僧侶たちがお経を上げている場面も何度も見たが、その声はとても心地よく、いつまでも聞いていたいような、一緒になって唱えたいような、なんとも不思議な気分になるのだ。
男性の僧侶達の声は朗々と腹の底に響き、尼僧のお経は美しい歌のようだった。
もしも前世が本当にあるのなら、私はいつか僧侶としてチベットのお寺で修行をしていたんじゃないかと思うほど、ブータンの寺院の空気は私の心を落ち着かせた。
 
そんなお寺を回るうち、自分がひときわ熱心に見つめているポイントがあることに気付いた。
お坊さんである。
チベット仏教のお坊さんはかっこいい。
臙脂色の服を身にまとい、日に焼けた腕は無駄なく引き締まっていて、精悍な顔つきから時折こぼれるはにかんだ笑みは美しい。

あ・・・私、お坊さん、好きなんだ。

自覚してからはもうブレーキが利かなくなってしまった。
視界にお坊さんが映ると、食い入るように凝視してしまう。
ああ、かっこいい。ステキ。お友達になりたい・・・!

ブータンの僧侶は一生を仏に捧げる。
一度仏門に入れば死ぬまでお坊さんだし、結婚もできない。
しかし仏教国であるので、僧侶の地位は高い。
職業としては最高位にあるのではないだろうか。
厳しい制度やしきたりが生み出すお坊さんたちのストイックな雰囲気。
それが私のツボを猛烈に刺激するのである。
お寺でお坊さんを見かけるたびにガン見である。
特に20~30代くらいの人たちはステキだ。
彼らは私と目が合うとぱっとそらしてしまう。
その照れたような感じがまた私を萌えさせるのである(変態ではない)。
身のこなしの軽さ。お経を唱える時の渋い声。淡々と日々のお勤めに励む姿。
歩いているだけでもオーラがある。

一度、そうやってお坊さんを見ているときに、偉い地位にありそうな感じのやや年配の僧侶に話しかけられたことがあった。
どこから来たのかとか、この寺は初めてかとか、軽くお話させてもらった。
その声はやっぱり渋くてかっこよかった。
彼が去っていく姿を見ながら、お坊さんってかっこいいねぇー、とため息まじりに私が言うと、サンゲはあわてて「お坊さんはケッコンできませんカラネ!」と釘を刺すように言う。
わかってるよー、と答えながらなおも彼に釘付けの私を、サンゲは不安そうな顔つきで見ていた。
 

歓迎ムードが半端ない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?