立ち止まる(ショートストーリー)

凪は浜辺を歩いていた。

朝の冷たい潮風がジョギングで火照った頰に気持ちいい。

足を止め、う〜〜〜〜〜〜ん、とめいっぱいの伸びをして、太陽に向き直る。

これからまた、新しい1日が始まるのだ。


ワンワン、とゴールデンレトリバーのジュリーがかけてくる。

どうやら父が鎖を外してやったらしい、凪を追って追いついて来た。

「ジュリー、おはよう。」

凪の頰をペロペロと舐めながら、尻尾をぶわんぶわんとお尻ごと大きく振っている。



ふと、風の中に何かを感じて凪は顔を上げた。

群青色の空と海の間に、熱して燃える鉄のような雲が広がり

遠くには大きなタンカーが、おもちゃの船みたいな大きさで浮かんでいる。

凪は目を閉じてゆっくりと肺の空気を吐き出すと、すうっと深く息を吸った。



ざあぁん……ざざあぁん……

波の音が聞こえていたことに改めて気づく。

みゃあ、みゃあ、みゃあ、みゃあ……

ウミネコがずっと向こうの島で鳴いている。

びゅう……びゅうううう……

風が凪の全身をすり抜けていく。

どくん、どくん、どくん

自分の心臓が鼓動しているのが聞こえてきた。


生きている。

うん。

いきている。

ワタシ、生きているんだ。


ハッハッハッハッハッ……

足元のジュリーも、生きている。


今日の1日が、また与えられたんだ。

感謝、しよう。

そして今日も、最高の自分で生きて行こう。

ありったけの笑顔を、人にあげよう。

うれしいことも、たのしいことも、いっぱいしよう。

友達と笑いあって、最高の時間を過ごそう。


「神さま、今日も新しい1日を創ってくれて、本当にありがとう。
 喜んで、たいせつに生きるからね。」



「きゅ〜ん」

ジュリーが「そろそろ構ってほしいな」と催促する。

「よし、ジュリー!家まで走るわよ!」

凪が勢いよく駆け出すと、ジュリーが待ってましたとばかりに全力で後を追う。

彼らが走り去った後も、波が繰り返しくりかえし寄せては返し

あの心地良い音を立て続けていた。









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