「新型コロナの検査拒否は「必然」!?」
TONOZUKAです。
新型コロナの検査拒否は「必然」!?
以下引用
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査拒否が増えている。もっとも、この問題は以前から存在し、本連載でも一度取り上げたことがある(関連記事:新型コロナ、患者に検査を拒否させる要因は?)。
最近は、検査拒否どころか、「先週、発熱と咳があってコロナかと思ったんですけど、検査受けたらややこしいことになるでしょ。だから家から出ないようにして休んでたんです。そしたら治りました」と平然と言う患者もいるほどだ。この患者の言うように、現在SARS-CoV-2の検査が「ややこしいこと」になるのは患者目線からすると事実だ。今回は、まず、検査を勧めても拒否する者が多いことを確認し、なぜ検査が「ややこしいこと」になり、我々医師は検査を拒否する患者にどのように対応すべきかについて私見を述べたい。
つい最近経験した検査拒否の事例を紹介しよう(ただしプライバシー確保のため詳細はアレンジしている)。
【症例】当院をかかりつけにしている飲食店勤務の20歳代男性
38℃台の発熱と咽頭痛があるとのことでメールで相談が届いた。翌日の発熱外来を勧め、受診に至った。他覚的に重症感はなく呼吸苦もないが酸素飽和度は92~93%。「コロナの可能性が高いです。無料検査をしましょう」と勧めたところ、「陽性だったらどうなるんですか?」と問われた。「保健所にあなたの名前や住所を連絡せねばなりません。今後どうなるかについては、保健所の判断になりますが、現在オミクロン株が流行っているので、場合によっては入院を強制されるかもしれません。また濃厚接触者がいないかどうか聞かれます」と答えると、「それは困ります。職場には迷惑をかけられません。それに1週間後には大切な検定試験があるんです」とのこと。結局、検査は行わず当院が毎日電話で様子を伺うことにした。
その後、発熱は2日後にはなくなり、呼吸器症状は結局表れないままだった。しかし、確証はできないがこの患者が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、さらに流行状況からオミクロン株であった可能性は高いだろう。なお、当院ではデルタ株も含めて2021年秋以降は酸素飽和度が下がらない事例が(なぜか)多いのだが、本症例は上述のように低下していた。
この男性、仕事は飲食店でのアルバイトで日々大勢の客や従業員と接している。繰り返し尋ねたが、その飲食店でのCOVID-19陽性の事例はないと言う。だが、この男性は一人暮らしで、アパートと職場を自転車で往復しており、食事は職場でのまかないか自宅でのコンビニ食のみだと言う。職場以外での感染はまず考えられない。
この男性がCOVID-19だったとすれば、職場の他の従業員か客、あるいは双方が、ウイルスをこの飲食店に持ち込んだということだ。飲食店の客も従業員もほとんどが若者だそうだ。この男性と同じように上気道炎症状が出ていてもその症状を隠して検査を受けなかった者がいたのではないだろうか(あるいは無症状感染者がいたのかもしれない)。
後から聞いてみるとこの男性、当院でなら検査で陽性だったとしても保健所には黙っていてもらえると期待していたようだ。ここから考えられることは、この男性のようにかかりつけ医を持っている場合は「いつもの医師に相談しよう」と判断することもあるが、かかりつけ医を持っていない者(特に若者)は、上気道炎症状が出現したとしても、検査をして「ややこしいこと」になるのを避けるために症状を隠すことがあるということだ。
では「ややこしいこと」とは何なのか。
厚生労働省は昨年11月末、国内の感染者への対応として、オミクロン株に感染した患者には全員に入院を(事実上)義務付け、症状が回復してから24時間経過後に、PCR検査で2回連続陰性とならなければ退院できない、という非常に厳しいルールを設けた(厚労省の関連サイト)。
1月5日にこの方針は緩和されたが、それでも原則入院のルールは変わらず、ワクチンを完了していることを条件として、発症日または検体採取日から10日経過すれば退院を認めることにし、療養所や自宅での療養・隔離も認めることにはなったが、「病床や宿泊施設の使用率がそれぞれ50%を超えたり、医療機関や保健所がひっ迫したりすることが想定される場合」にのみ適用するとされており、さらに「重症化を防ぐ飲み薬を使える体制の確保や、血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターの配布」が可能な自治体であることなどの厳しい条件が付けられている。
また、濃厚接触者は接触後14日間の隔離が求められる(その後10日に短縮されることになった)。
これを症例の男性の目線から解釈すると次のようになる。
・オミクロン株に感染すると厳しい措置が取られる(既に従来の株がオミクロン株に置き換わっていると報道されており、自分もオミクロン株の可能性が高い)
・自分は年齢が若いし軽症だけれども「病床などの使用率が50%を超えている」などの条件を満たしていなければ入院を強制される
・ワクチンは接種済だが、検査を受ければ(陽性となるだろうから)最短でも今から10日間は自宅療しなければならない(1週間後の検定試験は受けられない)
・検査を受ければ(陽性となるだろうから)少なくとも前日と前々日に一緒にまかないを食べた職場の仲間は「濃厚接触」になり14日間(10日間)の隔離を強いられることになる
・検査を受けずに黙っていれば自分も職場の仲間も隔離されなくて済む。自分も仕事の同僚も若くて健康だし、ワクチンは全員が2回接種済だ。重症化するリスクはほとんどないだろう
検査を強いることが「不平等」の現実
さて、これを読まれているあなたがこの男性だったとすれば「先生が勧めるなら検査を受けます」とちゅうちょせずに言えるだろうか。
もしもあなたが「言えない」と感じたのならその理由を考えてほしい。「職場の仲間に迷惑がかかる」「検定試験を受けられない」といった理由もあるだろうが、「同じ状況なら検査を拒否する者が多いはずだ」というのもその一つではないだろうか。
間違いなく検査を拒否する者が少なからずいる現状で、自分は検査を受けて、経済的に損をして(給料が入ってこない)、仲間に迷惑をかけて(仲間も無給になる)、社会的に損をする(検定試験を受けられない)ようなバカ正直なことはできない、と考える者がいたとして誰が責めることができよう。
もちろん、この男性が寝たきりの高齢者と暮らしているとか、医療機関に勤務しているといったことがあれば話は変わってくるが、この男性の状況であれば検査を強制することはできない。なぜなら、症状があっても黙っている者が大勢いる中で、この男性に検査を強いることは「不平等」に他ならないからだ。
オミクロン株のような軽症のウイルスに対し、日本のような「自由」が尊重され行政に強制的な執行力のない国で、現在のような厳しいルールを継続すれば「不平等」が加速されるばかりとなる。そして、この「不平等」を解消する方法は2つしかない。1つは国民に「自由」を許さず検査を強制し徹底的に管理する社会だ。しかし、民主主義をうたう我が国では軽症者や陽性者の周囲にいた者全員に強制検査ができないのは自明だ。もう1つは「自由」を尊重し国民の自主性に期待する方法だ。もしも国民ひとり一人が高い倫理観を持ち、自らの検査や自己隔離が必要かどうかを公衆衛生学的な視点から判断し誰もが同じように行動できるのならば不平等が解消された理想の社会となるだろう。だが、実際にはそのような夢物語からはほど遠いのが現実だ。さらに諸外国に比べて厳しすぎる現行ルールがそれに拍車をかけている。
さて、GPである僕の立場から見た「不平等さが明白な現在のルール下での有症状者への対応」を述べておきたい。当院では、発熱、咽頭痛など上気道炎症状を呈した患者が受診したときや問い合わせがあった場合、軽症でもCOVID-19の可能性があることをまずは理解してもらっている。そして検査実施については患者の希望を尊重すると伝えている。検査の有無に関わらず、症状が消失するまではオンライン診療もしくは電話で様子を伺っている。
「疑えば検査を促し早期発見に努めるのが診療所の役割なのに患者の検査拒否に加担するお前はそれでも医者か!」と、行政の方々や、あるいは感染症専門医の先生方からはお叱りを受けるだろうが、黙っている者が得をして正直者がバカをみる現行ルールの不平等さが解消されない限り、患者の希望に沿うこの方針を僕は変えないつもりだ。
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