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「ポストコロナ症候群の患者指導にウエアラブルデバイスを活用」

TONOZUKAです。


ポストコロナ症候群の患者指導にウエアラブルデバイスを活用

以下引用

ポストコロナ(ワクチン)症候群の診察には時間がかかる。ポストコロナ症候群の場合は、胸部X線上の異常陰影が残存していたり、Dダイマー高値が持続していたりすることもあるが、それらは少数であって、たいていは検査をしても何の異常もない。ポストコロナワクチン症候群の場合は接種側の腋下リンパ節腫脹が持続していることがあるが、その場合でも主訴は、動悸、倦怠感、息切れなどであることが多く、これらは検査による他覚的な評価が困難だ。

 動悸の場合、心電図をとっても解決するわけではない。たしかに経過観察が必要な洞性頻脈を呈することもあるにはあるが、その場合でもそれ以上の精査はたいては不要だ。しかし患者の訴えは切実であり、そのつらさの理解に努めなければならない。ではどうすればいいのか。今回は、当院が実施している“医療機器”を用いた様々な「不定愁訴」への対処法を紹介したい。

 当院は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前から、もっと言えば15年前の開業時から不定愁訴の患者が少なくなかった。倦怠感、動悸、息切れ、めまい、頭痛、腹痛など、他覚的に評価しにくい症状を繰り返し訴える患者が少なくないのだ。「動悸で苦しい」と主張するが心電図で異常が出ない。ホルター心電図目的での循環器科への紹介を検討することもあるが検査前確率は低いだろう。

ウエアラブルデバイスの精度はプライベートで確認


 Fitbitを僕が初めて手にしたのは2015年。購入当時は仕事以外の時間は常に装着するようにしていた(診察時には感染予防上腕時計をすべきでない)。予想以上に便利で使いやすいことにすぐに気付いた。なにしろ、装着している間は継続して心拍数(脈拍数)が記録されるのだ。睡眠時にはレム睡眠の時間など睡眠の深度を計測できる。ランニングをする際は、開始時と終了時にボタンを押すだけで、走行距離、速度、消費キロカロリーなどが自動的に記録される。

 問題は精度だが、結論から言えばかなり信頼できると考えている。脈拍数は実際に計測してみると表示される数値にほぼ一致した。睡眠の程度は証明のしようがないが、「よく眠れた」と感じた時間帯は「deep」と表示され、夢で目覚めた直前には「REM」となっていることが多い。それに「deep」と表示されているときは心拍数も低下している。ランニング時は走行した地図が表示され、スピードを上げると記録される「速度」が上がり、また心拍数も上昇しているのだからこちらもある程度は正確だと思われる。


もうお分かりだと思うが、心電図で異常の出ない「動悸」を訴える患者に僕が推薦しているのは「FitbitやAppleWatchなどのウエアラブルデバイスの購入」だ。「心電図をとるときにはなくなっていたんですけど、動悸で苦しいときがあるんです」と主張する患者に対し、「では(Fitbitなどで)24時間測ってみましょう」と言えばいい。このときに「もしも就寝時に心拍数が上昇していれば放っておいてはいけません。歩いているときや仕事でバタバタしているときには100/BPMを超えても問題ありません」と予め伝えておくのがコツだ。

 その結果、「先生の言うとおり、寝ているときの心拍数は正常でした。心配ないということですね」と、あれほど苦しんでいた訴えがあっさりと解消することもある。逆に、安静時の心拍数が突然上昇する場合は「注意深い経過観察が必要」と説明している。実際にポストコロナ(ワクチン)症候群ではこのように経過をみるべき頻脈が記録されるケースもある。このような場合は、次回再診時にスマホの画面を見せてもらっている。


「頻脈とは言えないが就寝時の心拍数が不安定」な場合は、Fitbitで睡眠レベルを確認するのがお勧めだ。睡眠のレベルが浅く熟睡できていないことが分かるはずだ。それを示して、COVID-19のことはひとまず置いておいて、「規則正しい生活ができているか」、「昼寝をしすぎていないか」、「過重労働はないか」、「精神的なストレスはどうか」といったことを確認してみるのがいい。「規則正しい生活をしてください」では説得力がないが、スマホの画面を一緒に見ながら、「ぐっすり眠れているときは心拍数も下がっているでしょ」と説明すると生活習慣を見直す患者もいる。


息切れを訴える患者にはどうすればいいか。この場合、AppleWatchなどで酸素飽和度を計測すればよい。デバイスを規定通りに15秒間保持すればそれなりに正確な結果が出る(実際にパルスオキシメーターを使用して比較してみた)。「コロナ(ワクチン)で息切れする」という患者にはこの方法を勧めている。AppleWatchは高価なため(Fitbitは酸素飽和度が計測できない)、廉価なパルスオキシメーターの購入を勧めることもある。また、就寝時の酸素飽和度も知りたいときはAppleWatchのデータは当てにならない(実際の値よりも低く出てしまう)。

 睡眠時無呼吸症候群疑いとして、腕時計型のパルスオキシメーターを患者に貸し出せばこの問題は解決し、保険請求が可能になる。そこで当院でも導入を検討したのだが、結論から言えば断念した。当院は患者から「薬を電車の中に忘れた」とか「飲みに行ったときに薬を盗まれた」とかいった訴えをよく聞くし、患者が電車に置き忘れた薬袋を見つけて丁寧に当院に電話をしてくれる人もいる。当院の患者(の一部)に高価なパルスオキシメーターを貸し出して無事に帰って来る保障はない。そういったときに保障してくれる保険を探してみたが見つからなかった。

 そこで、安くはなく少しハードルが高いが就寝時の酸素飽和度も知りたいという患者には「リングO2」を勧めている。Amazonでも購入できるこの便利なデバイスは正確な酸素飽和度を就寝時にも測定できる。

 このように、積極的にこういったデバイスを医師が患者に勧めているという話はあまり聞かないが、完全に僕のひとりよがりの方針というわけでもないことを最近知った。JAMA Networkに掲載された興味深い論文「COVID-19感染に関連する長期の生理学的および行動的変化の評価(Assessment of Prolonged Physiological and Behavioral Changes Associated With COVID-19 Infection)」を紹介したい。

 論文によれば、研究は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者234人と対照者(呼吸器症状を有したがSARS-CoV-2陰性)641人にFitbitやAppleWatchなどのデバイスのデータを比較。感染前、すなわち平常時のデータと比較すると、陽性群は対照群に比べ、安静時心拍数、睡眠時間、歩数が平常時の値に戻るのに長い時間がかかっていた。特に顕著だったのが、安静時心拍数で、平常時の状態に戻るのに陽性群では79日もかかっていたのだ。

 このようなウエアラブルデバイスのさらに便利な活用の応用編として「FreeStyleリブレ」を勧めることもある。血糖値を24時間測定できるこのデバイスはれっきとした医療機器であり、インスリンを使用している糖尿病患者には保険診療として使用できる。インスリンを使用していなければ保険適応外となるがAmazonなどで誰でも買える。針がついている器具なので法的に問題があるような気もするが誰でも購入できるのが現実だ。

 このデバイスはポストコロナ(ワクチン)症候群の訴えと直接関係があるわけではなく、「糖質制限ダイエットをしている」とか「食後の血糖値のスパイクが気になる」とかいった健康志向の人たちに人気がある。しかし、それ以外にも、コロナ(ワクチン)が原因かどうかは別にして、「倦怠感が続く」「眠気がとれない」という患者に対して、「血糖値の変動が大きすぎるかもしれない」という話をすると、興味を持たれることが多い。

食直後に血糖値が大きく上昇し、その1~2時間後に大きく下がっている患者がいる。また、「何を食べれば、またどういう順番に食べれば血糖値が上がるか」ということに興味を持つ患者もいて「うどんは強烈に上がるけどパスタはそうでもないんですよ」といった体験談を話してくれる。患者からいろんな体験を聞いていて感じるのは、血糖値の変動には大きな個人差があるということだ。つまり24時間血糖値を計測できるこのツールはその患者に適した食生活を考える上で極めて有用なのだ。

 ただし、FreeStyleリブレを購入するという患者にはあらかじめパッチの貼り方(針の指し方)を伝えておかねばらない。ある程度の痛みを伴うこと、装着に失敗すればパッチが無駄になってしまうことを説明しておくべきだ。(実は、きちんと説明しておかなかったためにある患者が製品を無駄にしてしまった苦い経験がある……)

 一部の患者のみにではあるが、当院ではポストコロナ(ワクチン)症候群の患者に対し今回紹介したような様々なデバイスを紹介している。上述したように、中には就寝時の心拍数が安定していることを確認できただけで不安感が解消され回復に向かう患者もいるから興味深い。

 今回紹介したデバイス以外にも、スマホに連動させた器械として、体組成計(体重の他、体脂肪率、基礎代謝などを測定できる)や血圧計などを使用している患者も少なくない。AppleWatchの心電図機能を使えば心房細動の有無を知ることもできる。今や診察室で患者が見せるのは昔ながらの血圧手帳でなくスマホの画面だ。こういったデバイスが今後ますます進化するのは間違いないだろう。



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