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「mRNA医薬のKariko氏とWeissman氏、「論文発表当時は反響なかった」」

TONOZUKAです。


mRNA医薬のKariko氏とWeissman氏、「論文発表当時は反響なかった」

以下引用

2022年の日本国際賞(Japan Prize)を共同受賞したドイツBioNTech社のKatalin Kariko上級副社長と米University of PennsylvaniaのDrew Weissman教授が、授賞式のために来日した。2022年4月13日に都内で授賞式が開かれ、それに続いて、14日にオンライン講演会の収録、15日に記者会見が開催された。Weissman氏は、mRNA医薬の実用化に向けたこれまでの研究を振り返り、「当初の予想とは違ってほとんど反響がなかった」と回想した。

Kariko氏とWeissman氏は、「mRNAワクチン開発への先駆的研究」の業績が認められ、2022年の日本国際賞(物質・材料・生産分野)を共同受賞した。両氏は、mRNA医薬の実用化に向け、1997年からUniversity of Pennsylvaniaにおいて共同で研究を始め、これまで複数の論文を発表してきた。

 2005年8月には、RNAを構成するウリジンを、修飾RNAのシュードウリジン(pseudouridine)に置き換えると、樹状細胞やトール様受容体(TLR)発現細胞において、自然免疫が活性化しないことを突き止め、Immunity誌に論文を発表。さらに2008年11月には、ウリジンをシュードウリジンに置き換えた修飾RNAはin vivoで蛋白質の翻訳能力を有意に高めることを明らかにし、Molecular Therapy誌に論文を発表した。

 これらの研究成果が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンである、BioNTech社と米Pfizer社の「コミナティ」(コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))や、米Moderna社の「スパイクバックス」(コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))の実用化につながった。14日の講演会の収録や15日の記者会見において、Kariko氏とWeissman氏は、これまでの研究を振り返るとともに、今後のmRNA医薬について展望を述べた。

 その中で両氏は、2005年8月、Immunity誌に前述の論文を出した際、「当初の予想とは違ってほとんど反響がなかった」(Weissman氏)と回想した。Weissman氏は当時、同論文によってmRNA医薬が実現するだろうと考え、「論文が出たら電話が鳴りっぱなしになるぞ」と語っていたものの、実際には、「1回か2回しか電話はかかってこなかった」(Weissman氏)。Kariko氏も「多くの講演が舞い込むと思っていたが、ほとんど興味を持ってもらえなかった」と振り返った。

 当時唯一、Kariko氏に招待講演を依頼したのが、「第26回 札幌国際がんシンポジウム」で代表世話人を務めていた北海道大学の瀬谷司教授(肩書は当時)だったという。同シンポジウムは、がんと炎症性疾患における自然免疫をテーマにしたもので、大阪大学の審良静男教授(肩書は当時)なども参加していた。ただシンポジウムに参加したKariko氏は、「精製技術や大量製造の技術など、mRNA医薬の実用化までにはまだまだやらなければならないことがあると分かった」と実感したという。

 両氏はその後、in vivoのデータを出したり、高効率液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた精製技術を開発したりと着々と研究を続け、2006年にスタートアップの米RNARx社を起業するなど、mRNA医薬の実用化を目指し続けた。「論文への反響がなかったからといって、我々の興味が無くなったわけでもないし、いつか電話がきて、企業が開発を始め、技術がライセンスされると希望を持っていた。頑固かもしれないが、我々は可能性を見たものについて、決して諦めることはしなかった。そして研究を続けた結果、Moderna社からもBioNTech社からも電話がかかって来たよ」とWeissman氏は笑っていた。

Weissman氏「in vivoの遺伝子治療はゲームチェンジャーになる」

 記者会見で両者は、今後のmRNA医薬の展望として、(1)感染症に対するワクチン、(2)ゲノム編集療法を含む遺伝子治療、(3)がんワクチン──などに言及した。

 (1)感染症に対するmRNAワクチンの可能性について両氏は、他にも様々な感染症に対してmRNAワクチンが実用化するだろうとの見解を示した上で、創製・開発が短期間ででき、かつ、低コストで合成・精製できると指摘。「現状の帯状疱疹ワクチンは非常に高額だが、もっと安価にできるだろう」とKariko氏は話した。

 加えて、有効性について他のワクチンのモダリティと比較するのは難しいとしつつも、Weissman氏は「COVID-19に対して、mRNAワクチンは、動物実験レベルで非常に強い免疫反応が起きることや良好な細胞性免疫の反応が得られることが認められている。我々は現在、汎コロナウイルス感染症ワクチンやインフルエンザウイルス感染症のユニバーサルワクチンの開発を進めている」と説明し、より有用性や有効性の高いワクチンの実用化に取り組む考えを示した。

 (2)ゲノム編集療法を含む遺伝子治療の可能性については、米Intellia Therapeutics社が米Regeneron Pharmaceuticals社とトランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシスを対象に共同で臨床開発している、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集療法(開発番号:NTLA-2001)やWeissman氏が研究しているin vivoのキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法などを例に挙げ、今後こうしたin vivoの遺伝子治療の開発が増えるだろうとの見方を示した。

 NTLA-2001は、TTR遺伝子に特異的なガイドRNAとCas9をコードするmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に封入し、静脈経路で投与するin vivoゲノム編集療法だ。また、Weissman氏が研究しているCAR-T療法は、心不全を対象として、CD5を標的化する脂質ナノ粒子(LNP)に抗線維性のCAR遺伝子をコードしたmRNAを封入し、投与するin vivoのCAR-T療法などであり、現在マウスでの有効性が示された段階だ。

 Weissman氏は、「現在のCAR-T療法や遺伝性疾患に対する遺伝子治療は素晴らしい治療法だが、体外で細胞に治療用遺伝子を導入・培養する必要があることから非常に高額で誰もが使える状態ではない。我々は、患者から細胞を取り出すのではなく、脂質ナノ粒子(LNP)で造血幹細胞やT細胞に治療用の遺伝子を送達するin vivoの遺伝子治療を開発しており、遺伝子治療のゲノムチェンジャーになるだろう」と話していた。なお、LNPで特定の細胞や臓器を標的化するアプローチとしては、PECAMに対する抗体でLNPを修飾して血管細胞を標的化するなど、細胞・組織特異的な分子に対する抗体を活用していると説明していた。

 (3)がんワクチンに関して、Kariko氏は「どのエピトープを標的にすべきかがまだ分かっておらず、これまでうまくいっていない」と認めた。ただ、「多くの研究がなされており、進捗もあるし、学びもある。どのエピトープを標的化すべきかが分かるまで時間がかかるだろうが、もっと多くの投資がされ、いろんな実験なされれば、成功すると思う」と展望した。

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