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「ワクチン健康被害における責任の所在」

2021/07/02


TONOZUKAです。


ワクチン健康被害における責任の所在


以下引用

 欧米と比較して、日本が「ワクチン後進国」に成り下がったとの言説を最近よく見る。1980年代までは、水痘、日本脳炎、百日咳などのワクチンについて日本が世界をリードしていたようである。もっとも、ワクチン開発が盛んということは感染症浸淫地域ということで、堂々と自慢できるようなことでもないが。

 ワクチン開発に関しては言うまでもないが、他の先進国と比べ、日本が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種でも後れを取っているのは事実だ(日本経済新聞「チャートで見るコロナワクチン」)。日本がワクチン先進国から陥落した理由の一つとしてよく挙げられるのが、過去のワクチン訴訟である。

国家賠償法が適用された予防接種禍裁判
 ワクチン被害は、どうしても訴訟になりやすい。自らの疾病の治療目的ではなく、元気な人が予防のために受けること、またCOVID-19のような場合、社会防衛としての集団免疫を目指す側面があり、強制でなくても公権力から勧奨が行われ、「同調圧力から受けざるを得なかった」との思いが強いことなどが理由である。被害者が子どものことも多く、これも判決などに影響が大きい。最高裁の判例もあるが、ワクチンについての独特の司法判断として代表的なものが、東京地方裁判所昭和59年5月18日判決(判例タイムズ527号165ページ)であろう。本件は、予防接種法あるいは地方自治体による勧奨接種として、インフルエンザ、種痘、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、ジフテリア・破傷風など(混合ワクチンも含む)の接種の後、障害や死亡が生じたことによる訴訟である。

 原告数は、被害児や親など合計160人で、請求金額は73億8452万円、昭和47年から6次にわたって提起された集団訴訟で、東京地裁のほかにも、大阪・名古屋・福岡の各裁判所にも提訴された。

 予防接種法によるワクチン接種は、実施主体が国や自治体であったから、被告としたのは国(厚生大臣)である。原告が主張したのは、「予防接種行政をつかさどる被告国には、予防接種に関して、予防接種の実施に際して、強制による接種と勧奨による接種とを問わず、予防接種を受ける国民の生命身体を侵害する事故が発生することのないよう万全の措置を講じるべき最高度の安全確保義務が債務として存在する」というもの。さらに、「国は、予防接種の実施によって一定の確率で死亡または重大な健康被害が発生することを知りながら予防接種を行っているのであり、予想された被害が発生した場合は、国は被接種者に対し『未必の故意』によって違法に他人に損害を加えた、というべきである」と主張し、これらの理由から賠償を求めたものである。

 また、国の注意義務違反として、

・予防効果が不明のワクチンあるいは危険性の高いワクチンの接種を廃止すべき義務違反
・事故発生の危険のある若年者を被接種者としないよう接種対象者を決定すべき注意義務違反
・禁忌該当者等事故発生の危険のある身体的状態にある者を接種対象者から除外すべき注意義務違反
・安全のため可能な限りワクチンの力価(量)を減らし、免疫のため必要最少量を規定量と定めるべき注意義務違反、および規定量以上を誤って接種することのないよう指示すべき注意義務違反
・他の予防接種との間隔を十分にとった上で予防接種を実施すべき注意義務違反

の5つを主張した。

 これらは、故意・過失を要件とする国家賠償法上の主張である。また、予防接種は公衆衛生の向上などによる社会的利益(公共の福祉)のためになされるものなので、国民個々人の防衛のためではなく、社会防衛のため犠牲になった被害者に対しては、憲法29条3項により被害者に補償せよというものである。
国家賠償法 第1条

 国または公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

2 前項の場合において、公務員に故意または重大な過失があったときは、国または公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

憲法第29条3項

私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。

 裁判所はまず、国家賠償法上の論点を審理したが、その中でワクチンと健康被害との因果関係が争点となった。そこで東京地裁は、因果関係の存在を認めるための4つの基準を定立した。

(1)ワクチン接種と、予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること
(2)他に原因となるべきものが考えられないこと
(3)副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと
(4)事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること

 そして、2人の被害児については、厚生省(当時)が定める予防接種実施要領で規定している接種方法の違反があったとして、「事故発生についての接種担当医師らの過失に当たる」と認定した上で、国家賠償法1条の責任を肯定している。

 しかし、予防接種実施要領は予防接種実施規則(昭和45年厚生省令第44号による改正前の昭和33年厚生省令第27号)4条にある「禁忌者」を識別規定に照らし、「接種直前における対象者の健康状態について、その異常の有無を概括的、抽象的に質問するだけでは足りず、同条掲記の症状、疾病および体質的素因の有無ならびにそれらを外部的に徴表する諸事由の有無につき、具体的に、かつ被質問者に的確な応答を可能ならしめるような適切な質問をする義務がある」などとした。COVID-19ワクチンの問診票の記載、ならびに現在、接種前に行われている医師からの予診は、この“義務”を満たしているだろうか。「過失認定されるリスクが高い」と考えるのは筆者だけだろうか。

 さらに東京地裁は、予防接種を実施する医師が、接種対象者につき禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかったためその識別を誤って接種をした場合に、その副反応で対象者が死亡または罹病したときは、「医師がその結果を予見し得たのに過誤により予見しなかったものと推定すべきである」としている。「結果が悪いんだからミスに決まっている」といった乱暴極まりない議論に見える。さすがに、この考え方は最高裁(種痘後脳炎の事案、平成3年4月19日判決 判例時報1386号35ページ)によって、予防接種による後遺障害のリスクが高い禁忌者を識別するための予診を尽くしたが禁忌者に該当する事由が発見できなかった場合や、被接種者が後遺障害を生じやすい個人的素因を有していた場合は、被接種者は禁忌者に該当していないとするとして、変更されている。

 また、接種担当医師は公務を委託されてこれに従事する特別公務員の立場にあったものであるから、国家賠償法第1条に基づいて被告にはできず、故意重過失がない限りは求償も受けない。これは今回のCOVID-19ワクチン接種においても同じである。ただし法律上はそうであっても、裁判において、接種した医師(歯科医師、薬剤師、看護師にも当てはまるかもしれない)の過失だと断罪されることにはなる。

 一方、東京地裁昭和59年5月18日判決では、予防接種を実施運営する厚生大臣の具体的な過失について、「『予防接種を受ける国民の生命身体を侵害する事故が発生することのないよう万全の措置を講ずべき最高度の安全確保義務が債務として存在する』との主張はこれを認めることはできない」とし、原告が主張する義務はそもそも認められないと排斥している。

健康被害救済制度との兼ね合いは?

 実はこの裁判の時点でも既に、予防接種被害に対する救済制度はあった。しかし裁判では、「法制化された救済制度は、内容の面から見ても、額の面から見ても、現在のわが国におけるこの種被害に対する救済としては客観的妥当性を有すると認めることはできない」とした。「こんな救済制度では不十分」と言わんばかりだ。その上で、憲法第29条3項に基づいて、救済制度による補償額が正当な額に達しない限り、その差額について補償請求をなし得るとしている。

 なお、この憲法29条3項論は東京高裁平成4年12月18日判決では否定されているが、最高裁では判断されていない。COVID-19ワクチンでは、被接種者に健康被害が生じた場合、市町村に申請した上で、因果関係などの審査が行われ、予防接種健康被害救済制度として障害年金1級なら年505万6800円、死亡一時金は4420万円などの給付が行われることが決まっている。この額で足りないといった議論はまだ見ないが、労災保険では労災適用が認められたら因果関係の証明ができたとばかりに損害賠償請求を使用者に対して行うことが多くなっている。

 現在、政府はCOVID-19ワクチンを大学や企業なども活用して若年者にまでどんどん接種しようとしている。将来、何らかの悪影響が出た場合、裁判が行われて「接種医師の過失だ」とされてしまうのであろうか。アナフィラキシー、神経損傷、肩の損傷(SIRVA:Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)などはもちろん訴訟リスクになるし、「接種後にCOVID-19に罹患して死亡したのは筋注がうまくできていなかったからだ」といった主張だってされないとは限らない。COVID-19ワクチンの接種に関する訴訟では、医師は被告にならず、普通にやっていれば求償も受けないが、自らが担当した被接種者が訴訟を起こしたとなれば、法廷での証言が求められるケースだって考えられる。

 最近、COVID-19ワクチン接種において「接種間隔を間違えてしまった」「生理食塩水を打ってしまった」「希釈せずに接種してしまった」「針を使い回してしまった」などのミスが報じられている。厚生労働省の資料(図1)によれば、こうしたミスは10万回当たり14.68件、計6674回発生(2018年度)しており、健康被害は6件報告されている。幸い、重大な健康被害に至ったケースはないようだが、こうした間違いが生じた際、予防接種健康被害救済制度における取り扱いについて、必ずしも明示的に示されてはいない(第37回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料)のも心配である。


 ワクチン投与に関しては、ワクチンそのものによる健康被害だけでなく、接種針の使い回しによるB型肝炎感染(最高裁平成18年6月16日判決、判例タイムス1220号79ページ)の話題もある。この裁判では、疫学的にワクチン接種とB型肝炎感染との間の因果関係を肯定し、救済制度につなげている。なお、本件の被害弁護団はB型肝炎感染に関して、救済制度を利用する際に訴訟を必須にすることに成功し、多くの弁護士の食いぶちに貢献している(「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」第4条)。“コロナワクチンバブル”が弁護士業界を潤す日も近そうである。




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