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読書紹介63「Zの悲劇」~消去法による謎解きと死刑についての考察もある異色作。

政界のボスとして著名な上院議員が、刺殺された。被害者のまわりには多くの政敵と怪しげな人物がひしめき、所有物の中から出てきた一通の手紙には、恐ろしい脅迫の言葉と、謎のZの文字が並べてあった・・・・!
錯綜した2つの事件の渦中に飛び込んだのは、サム警視の美しい娘パティと、ドルリー・レーンの名コンビ。クイーンが死刑の廃止を熱っぽく論じたシリーズ中の異色作。


➀あらすじ・概要

「Xの悲劇」「Yの悲劇」に続く、ドルリイ・レーンシリーズの第3弾。

 「Xの悲劇」から10年以上経過した後の出来事、事件です。
 10年経過したことは、過去の作品にも登場したブルーノが地方検事から知事になっていたり、サムが警察から私立探偵事務所を開いていたりなどの変化に表れていました。そして、そのサム氏の娘のパティが今作では大活躍しているところも面白さの一つでした。

②タイトルについて 

 X・Y・Zと題名に統一感があります。過去2作は、たしかに物語を象徴する一文字だったと感じました。しかし、今回の「Z」は、なぞ解き解決場面で触れられていますが、さほど物語の構成や犯人などとつながりは感じませんでした。そういう意味では、全2作の題名に少し無理やりに関連付けたのではないかという気もしました。
 ただ、いつも通り「結末が来るまでに、全ての手がかりを示した」という「フェア・プレイ」の謎解き、本格推理に仕上がっているのは、過去2作と何ら変わりませんでした。
 そして、冤罪により死刑になりそうな囚人を救うために事件解決に奔走する様子と、死刑執行までに時間がないことが相まみえて、サスペンス要素も加わり、過去2作との違いがよく感じられました。

③謎解きに関して

 謎解き編では、ある意味「消去法」推理が提示されていました
 犯人の条件をいくつも上げておいて、それに該当しない人物を省いていく・・・そして、最後まで残った人物が犯人だ!という展開です。少しずつ、犯人が絞られていく様子は、ちょっとしたサスペンス、ドキドキ感がありました。
 

④「死刑」について

 最後に、今回の作品には「死刑執行」の様子が細かく描写され、読んでいて苦しくなってくる感覚がありました。
 「戦慄を覚える」といった感じでしょうか。
 日常生活では、ふれない話題であり、できれば考えたくない内容です。
 でも、今もどこかで行われています。
 そして、死刑自体がいかに、本人だけではなく、周りの多くの人に衝撃と影響を与えるかを知るテキストにもなり得るような描写でした。
 今回の物語のように、冤罪によって死刑が行われるとしたら…と考えると、取り返しのつかない痛恨の極みです。
 また、日本で行われている死刑でも、死刑執行のボタンが3つあり、押す人も3人いると聞いたことがあります。
 それは、死刑とはいえ「人を死に追いやる行為」の極限のストレスを緩和するため。自分ではなく、他2人のボタンによって行われたことと思うことで、心の中で収まりをつけるということでしょうか。
 

⑤今後は・・・

 さて、探偵役のドルリー・レーンは、今作で、推理の切れ味は変わらずとも、かなり老い衰えた様子になっていました。次回作(レーン最後の事件)にどうつながるのか、楽しみです。

著書情報
・発行所   創元推理文庫
・発行年月日 2020年9月18日
*エラリー・クイーンの作品は、出版社や新訳改訂版で多数出版されています。

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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