見出し画像

【読書感想文】「国道沿いで、だいじょうぶ100回」を読んで(ネタバレ注意!)

岸田奈美さんの新作「国道沿いで、だいじょうぶ100回」を読みました。

到着時の模様はこちらです。

そして岸田奈美さんへのちと暑苦しい想いがこちらです。


わたし自身、自分にとって足枷のように
重くるしく感じていた家族への感情を
ずっと許せずにいました。
家族でいる以上、完璧な家族で在る事を
求められているようで。
一個人として弱いわたしはどうすればいい?
わからないまま時間だけが過ぎていました。


奈美さんの本を読むことで
「どんな自分も許していいんだよ」と
言われているようでわたしの心は
なんども救われていました。

この本に載っている話はぜんぶ、返事のいらない手紙みたいなもんである。
                 岸田 奈美

『国道沿いで、だいじょうぶ100回』より


奈美さんが「だいじょうぶ」を伝えたかった
家族、出会った人、読者、そして彼女自身への
『贈り物のような励まし』の『手紙』の一部を
感想を添えてご紹介します。



ドライブスルー母

岸田奈美さんのお母さまは
重い心臓病を発症されたのち、
下半身のマヒが残ってしまわれました。
そのお母さまが再入院された時のお話しです。

わたし自身も昨年入院をしたので思ったのは
病院での生活はやはり異質で不安や孤独が増し、夜の闇に浸食されていくかのように深く引き込まれてしまうような怖さがあります。
お母さまにとって奈美さんが来てくれる時間が
どれほど待ち遠しく、その時間が唯一の希望だったと考えると「菩薩の降臨のごときまぶしさ」というのがあまりにもふさわしいでしょう。
しかし、それではいけないと奮起され、
車いすでドライブスルーへ行くという
ぶったまげな行動に出られるので、
さすが奈美さんのお母さまだと思わずに
いられません。
ただ、とても勇気のいることだと思います。
入り口に段がなければ。
誰かが気づいてくれたら。
わたしならもう諦めるでしょう。
ここで諦めないお母さまは
恥ずかしさと引き換えにポテトだけではなく
希望の見つけ方もゲットされたのです。

希望はな、人に頼ってたらあかんのやね。向こうからは歩いてこない。だから歩いていくんやね。まあ……わたしはあるけへんのやけど
                岸田 ひろみ

『国道沿いで、だいじょうぶ100回』より


岸田家の家訓はわたしの胸にも
深く刻まれるのでした。

国道沿いで、だいじょうぶ100回

奈美さんの弟さんはダウン症で
幼い頃はじっとしていられず、
跳ね回っていました。
国道に飛び出してしまいますが、
お母さまが間一髪引き戻す姿を
見ていた奈美さんが忘れずにいて
今の思いを語りかける作品です。

わたしの弟もダウン症です。
幼い頃は奈美さんの弟さんと同じく
動きの読めない軌道で
あちこち走りまわりました。
なんとか親たちが制止していたという
記憶にとどまりますが。
危険な目にあった弟さんをお母さまが抱きしめ「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」と涙されていた姿を奈美さんはセンセーショナルに記憶されていました。
当時のお母さまに向け、今の奈美さんから愛がたくさんつまっただいじょうぶ。が送られます。
大人になってから当時の母の苦労を思うと奈美さんに自分を投影させ、母と弟を思い、涙なくしては読めませんでした。
奈美さんがここで全部言ってくれたけれど、
わたしも母に、弟に、だいじょうぶと言い続けたいと思いました。


神様

奈美さんとかまってほしくて吠えちゃう愛犬、
梅吉が出かけた先で不思議なおじさんに出会う
お話しです。

うちの弟がまだ本当に小さかった頃、
知らない方を指し、「神様、いる。」と
不思議なことを言ったことがあったのを
この作品で思い出したんです。
本当にいたのかもしれませんね。
奈美さんとおじさんとの会話は普通に聞くと
意思疎通できているのかな?と思うような
やりとりなのに、どうしてかノスタルジックで
優しくて、ふたりと梅吉のいる空間だけが
夕日のオレンジに溶け込む別世界に迷い込んだかのような不思議な映像として脳内再生されました。
不思議だけど温かい気持ちになる作品です。


桃のカチコミ

ふるさと納税の返礼品である桃に奈美さんが翻弄され、ふりまわされるお話しです。

なんといってもこれぞパワーワードの
オンパレード!なんど吹き出したでしょうか。
疾走感あふれる振り回されっぷりは
読んでるこちらにまで風が吹きそうな勢いです。
『むむであわてぃーはーてぃ。』は
わたしの中でMVPです。
笑いすぎて涙でました。
困ってる人の様子を読んで大笑いして
ごめんなさい。でも面白すぎました。


②小さな自閉

弟さんと弟さんのお友達をWBCの強化試合に
連れて行ってあげたいと思い立った奈美さんが
研修をうけるお話しです。

このお話は今現在のわが家にも通ずる内容で参考にさせてもらおうと思いました。ガイドヘルパーさんにまだお出かけなどお願いしたことがなく、どんな研修なのかがふつうに気になる内容だったんです。
ところが奈美さん、やはり引きが強い!
曰くこの回は「神回」だったそうで、
強度行動障害の授業の際、引き起こされる原因を
「つよいこだわり」だとしたうえで、
テキストを閉じたこの先生が話されたのは
「彼らが持つ感覚を、儀式と呼んでいます。」
です。
そう言い換えられるとなにかとても
しっくりきて、
彼らが持つ感覚をほんのわずかながら
理解できるような気がして。
がまんできる「こだわり」ではなく、
なにものにも代え難い「儀式」だとすれば
それはまるでちがう感覚ですよね。
わたしもこんな先生の元でならば学んでみたいと思いました。
「彼らは、困った人なんかじゃない。困ってる人なんです。」
もげるほどうなずくわたし。
奈美さんのように臆すことなく、
バーンと講習に飛び込んでいくことができたら
こういうすごい神授業に遭遇することができるんだな!と自分鼓舞する作品でした。

最後に

一部をピックアップして感想を書かせていただきましたが、どこを読んでも読み応え満載です。

岸田奈美さんが『手紙のようなもの』と
例えたこの本をわたしは確かに受けとりました。
そしてたくさんの人に『手紙のようなもの』が
届くといいなぁと思うのです。

あとがきの最後の文章に
岸田奈美さんらしくて素晴らしいところが
ギュッと表現されているように思えて、
思わずうんうんとうなずいて
嬉しい気持ちになりました。

彼女はまたいろんな出来事に遭遇する旅に
風に乗って軽やかに出発するんですね。
春風に乗って帰ってくる奈美さんを、
岸田家を待っていますからね。
素晴らしい作品をありがとう。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,023件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?