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当方128の『ちょっとだけ青春な話』

 はじめまして、当方128と申します。35歳独身男性です。
 みょー様の『第二回 ちょっとだけコンテスト』企画に参加させていただきます。よろしくお願いいたします。
 以下の見出しが真のタイトルですが、これで良かったのだろうか……。


『童貞がリア充にマウントを取った日』

 人間は、余程の天才でも無い限り、話し上手と書き上手、そのどちらかのスキルしか得られないと誰かが言った。私は昔から文章を書くことが得意で、多くの人に褒められてきた反面、人前で話すのは大の苦手だった。早い話が人見知りでコミュ障、非リアで陰キャである。

 そんな私でも何の間違いなのか、コンビニエンスストアで店長を任されていた時期があった。これは、当時アラサー童貞のコンビニ店長だった私が体験した『ちょっとだけ青春な話』である。

 ***

『自分という存在が怖い。自分がどう思われているか、27年の人生で今、一番気にしている』

 2013年秋。店長に昇格し間もない頃、私はブログにそう綴った。度重なる裏切りと反逆で人間不信に陥っていたのである。

「当方さんなら大丈夫。皆に笑顔を振り撒けば、悪く思う人は居ないでしょう」

 同じ頃、アルバイトスタッフの少女と出会った。いつも優しさで溢れる少女の言葉の数々が、私の病んだ心を浄化してくれた。基本的に少女から話しかけてくれるので、人見知りの私でも話しやすかった唯一の相手だ。少女のLINEのアカウントすら知らず、本当に勤務中に少し会話していただけなのに、それが当時の私にとっては生き甲斐ですらあった。

「来週、18歳になります!」

 年は明け、1月。少女の誕生日が近いことを知った私は、大ファンだというHey! Say! JUMPのポスターをネットで購入し、当日にプレゼントした。少女はこれまでにないとびきりの笑顔を見せてくれた。私は私で、人生で初めてプレゼント選びに成功したのと、少女の笑顔を見られたことが嬉しかった。

 しかし、別れの時は着実に迫っていた。3月に少女は高校卒業と同時に退職する。店長に就任してから最初の半年間、苦難に見舞われることも多かったが、少女のお陰で総合的にはとても楽しめた。恩返しがしたい。感謝の意を込めもう一度、プレゼントを渡したい。

 JUMPの中でも特に知念侑李君を推しているという新情報を手に入れた私は、意を決して原宿のジャニーズショップに男一人で乗り込んだ。女性客しか居ない店内を物色するのはとても恥ずかしかったが、知念君の生写真10枚を無事購入。

「卒業兼就職祝いです、どうぞ」

 3月中旬、少女の最後の勤務日。私は生写真の入ったアルバムをプレゼントした。実はその中に、こっそり手紙を入れていた。

『せめて(少女)さんが居る間は意地でもこの店に這いつくばってやるというたった一つの揺るぎない信念だけを頼りに今日まで何とかやってきました』

 その文面は当時の私にとって、真剣かつ純粋な想いだった。

 同じ日の夜に少女の送別会が開かれたが、私はあえて参加しなかった。少女以外の人と話すのは未だに大の苦手で、パリピの集団に混ざる勇気は無かった。だからこそ想いを手紙にしたため、それだけで満足するつもりでいた。しかし、私の知らぬ間に事件は起きていた。

「当方さんの手紙、『回し読み』されていましたよ」

 送別会に参加した男性スタッフの証言だった。私が2時間かけて真剣に書いた385文字の便箋を、少女は飲み会の場で話のネタにしていたのだ。純粋な想いが踏みにじられたと悟った瞬間、私の世界は色を失った。

 少女と歩んだ夢のような半年間は最悪の形で幕を閉じ、翌日から平凡で退屈な毎日に戻った。冷静に考えると無慈悲な現実である。手紙を書ける人よりも、送別会でペラペラ話せる人の方が何倍も楽しい日々を過ごしている。いつの時代も人生の勝者はリア充でパリピで陽キャなのだ。永遠に話し上手になれない、人より少し書くのが上手なだけのアラサー童貞に最初から勝ち目なんて無かったのだ。

 燃え尽きたようにアンニュイな日々が続いた。やがて、店の外の並木から薄紅色の花びらが舞うようになったが、それさえも無色に見えるほど私は闇に落ちていた。

 そして、4月も3分の1が過ぎたある日。

「私も書いてきました!」

 青天の霹靂。突然の再会。ミモレ丈のフレアスカートを揺らしながら、少女は手紙を持って店に現れた。

『当方さんは少し変わってて とっても面白くて とても優しくて 最高でした(*^^*)笑
 これからもたくさん大変なことがあると思いますが頑張って下さい』

 それは、アラサー童貞が10代の少女と手紙を交換した奇跡だった。この時だけは、リア充やパリピの面々に対し、少しだけマウントを取れたような気がした。誰かの笑顔を見たい、ただそれだけの理由で直向な努力をしたこと自体は、無駄ではなかったのかもしれない。

 8年の歳月が流れた今でも、辛い時に少女の手紙を読み返している。35歳になった私は未だに人前で話すのが苦手で、こうして定期的にnoteに書き殴っては現実逃避している。私の世界はあの日から色を失ったままだが、「ちょっとだけカラフルな青春」を味わった少女との半年間だけは、決して色褪せることなく記憶の片隅に永遠に残り続けるだろう。

(Fin.)


あとがき

 最後までお読みいただきありがとうございました。実は完成後の校正時に私の操作ミスで文章の9割が消滅し、慌てて記憶を頼りに書き直した次第です。消去前の文章を完全に再現できたかは疑問ですが、私の中ではこれで完成したことにします。

 学生時代に甘酸っぱい経験を一切してこなかった故に、ゴリッゴリの社会人の大人げない話になってしまいましたが、それでも私の中ではとても大切な思い出なので、この企画をきっかけに文章化できて本当に良かったです。

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