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『耳をすませば』がジブリ最高傑作だと言いたいだけ

 視聴後「自分もこんな青春を送りたかった」と鬱になることで有名なジブリ映画『耳をすませば』。もう何度目か分からないが、『金曜ロードショー』での放送をきっかけに改めて視聴した。私にとってはこの作品こそジブリの最高傑作だと思っている。監督は故・近藤喜文氏。宮崎駿氏は脚本・絵コンテでの参加ということで、いつもの宮崎作品のテイストとは少し異なっている。その異質な部分に触れながら魅力を語っていけたらいいな……(自信ない)。

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 まず冒頭から違和感。俯瞰の夜景が徐々に近づいていくと、電車と車が走る街、京王デパート、多摩診療所の看板、そしてファミリーマートが実名で登場する。そこから出てくるのはTシャツ、短パン姿の主人公・月島雫。右手には牛乳の入ったビニール袋。現代の日本の、どこにでもある光景から始まっている。昔話やファンタジーの多いジブリ作品において、“現代日本”の“現実世界”を生きる女の子をリアルに描いたことに物珍しさを感じたのである。

 現実世界故に、他の作品に見られるような大きな事件は起きないし、珍しい生き物も脅威の敵も存在しない。しかしそんなものは全く必要ない。あのジブリ制作陣が(原作があるとはいえ)王道の青春物語を真っ向勝負でストレートに描いたことに意味があると私は思う。

 その一方でジブリらしい(ちょっとした)冒険要素も忘れてはいない。猫(ムーン)を追いかけるうちに丘の上でレトロな雑貨屋を発見し、その主人・西司郎と出会う。この流れは庭で小トトロを見つけたメイが追いかけるうちに森の中のトトロに出会う『となりのトトロ』を彷彿とさせる。初見時まだ小学生だった私はジブリらしさを感じ、ファンタジーな展開もワンチャンあり得るのではと思うほどだった。

 しかし、そのシーンから程なくして「杉村事変」が発生し視聴者を現実に引き戻す。雫の友人・夕子は杉村を想い、その杉村は雫のほうに好意を寄せる三角関係が悲劇を生み出す。鈍感の杉村は夕子を傷つけ、同じく鈍かった雫は杉村の告白を断ってしまう。ずっと男友達としか見ていなかったのだから仕方のないことだとは思うが、良くも悪くも中学生らしさを感じた。まさかジブリがここまで人間関係のリアルを描くとは。この13年後に『ポニョ』を制作する会社とはとても思えない。

 傷心の雫が向かった先はやはり地球屋。前半の出番が控えめだった聖司のターンがようやく始まり、ここから終盤まで全てが見所となる。バイオリンを作る聖司に興味津々で「魔法みたい」と褒める雫。一連の会話で二人の距離が急に縮まっていくのを感じる。からの屈指の名場面『カントリー・ロード』セッションである。恥ずかしながらも自身の考えた訳詞で歌う雫。この経験が結果的に創作への自信になり、その後の「物語を書く」という決意に繋がる(と私は解釈している)のだから、ストーリーの構成が秀逸すぎる。

 夢も進路も決め、どんどん前へ進んでいく聖司に触発された雫は、自身の才能を試すため「物語を書く」ことに。創作で苦悩する過程もリアルで良きなのだが、完成させた『耳をすませば ―バロンのくれた物語―』を司郎に読ませるシーンのほうがとても好きである。

司郎「ありがとう。とても良かった」

雫「ウソ! ウソ! 本当のことを言って下さい! 書きたいことがまとまっていません。後半なんかメチャクチャ……自分で分かっているんです!」

司郎「そう。荒々しくて率直で未完成で、聖司のバイオリンのようだ。雫さんの切り出したばかりの原石をしっかり見せてもらいました。良く頑張りましたね。あなたは素敵です。慌てることは無い。時間をかけてしっかり磨いて下さい」

雫(泣き声)

司郎「さあ、ここは寒い。中にお入り」

雫「私……私、書いてみて分かったんです。書きたいだけじゃダメなんだってこと。もっと勉強しなきゃダメだって……でも、聖司君がどんどん先に行っちゃうから、無理にでも書こうって……私、怖くて怖くて……」

司郎「聖司を好いてくれているんだね」

 ここもリアル。自分の才能を試した結果に涙する。聖司への想いがあるからこそ比べて焦る。それでも成し遂げた雫に司郎は鍋焼きうどんを振る舞う。良い人すぎる。

 その後の自転車二人乗りからの大胆プロポーズについては特段語ることは無い。物語を書き始めてから鍋焼きうどんまでがピークで、それでもう満足しているからである。あの青春全開のラストシーンは、そこに至る紆余曲折を丁寧に描くからこそ成り立つのであって、結果よりも過程が大事である。その過程が、雫のリアルな苦悩が100点満点だからこそ最高傑作に認定している。「自分もこんな青春を送りたかった」と嘆くのは、結果はもちろん、その過程で大いに悩みたかったという意味も含まれる。少なくとも私は。

「想い人と自分を比べて焦る気持ち」って、今の学生には分かるのかな。少なくとも私は(全部片想いだが)相手が高嶺の花すぎて全く手が届かないことに悩んだ辛い経験は何度もある。だから今はロリコンに(強制終了


PS. 実写映画も楽しみです。


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