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知らない方が幸せだった。

「ハァハァハァハァ.…」

あれ…なんで私こんなに息を切らして走っているんだっけ?
確か化け物から逃げていたような…靴もいつの間にか脱げてるし…足もけがをしている...。
一旦落ち着いて…。落ち着いて状況を整理しよう…

数ヶ月前…

「皆さんこんにちは。私のことは気軽にメアリーと呼んでください。」

そうだ。私は今年からこの高校の養護教諭になったんだ。
親の仕事の都合で日本に来て、転校した高校に最初は馴染めず保健室通い。そこで出会った先生に憧れを抱いて、自分もなりたいと思った。この仕事を選んだ理由としては十分過ぎるほどの答えだろう。
自分で言うのもなんだが、金髪で、顔も良くて、スタイルも良い。しかも、性格もいいし、頭も...並の人よりは賢いだろう。そんな全男子が妄想したであろう存在が現実の保健室にいる。そりゃ誰でも予想できる結果が私にも待っている…はずだった。
いや、正確にいえば最初はそうだった。保健室の周りに男子が溢れかえって、本当に保健室に用がある人に迷惑をかけてしまう。そんな日が確かにあった。学校一の美人先生...なんて呼ばれていた日々が確かにあった。
しかし、あの女…赤目 狂子が不登校から戻ってきた日から私のすばらしい日常は終わりを遂げた。
私は知らない。今年からこの高校に来たから、去年の彼女…不登校になる前の彼女を…。だが、彼女の今の姿を見れば何となくはどんな子だったのか予想ができる。
いわゆるあの格好は地雷系というのだろうか?私は特に今流行りのファッションというやつに興味がなかった。自分磨きさえしておけば、どんな格好をしていようがこの日本の高校という狭い空間の中では敵なしの存在だろうと勝手に自分の中で考えていたからだ。それに、先生とは生徒のお手本になるべき存在だ。使えるファッションの手札は少ない方が良い。というか、多かったとしても誰にも指摘されない格好というのは指で数えられるほどに限られてくるのだろう。
 そうだ…段々と思い出してきた。最初、私は彼女に勝ってなかったのは、私に出来る格好の手札。彼女に出来る格好の手札。この二つの手札の差で私は負けたと思っていたんだ。でも、違った。
彼女の方が明らかに少なかったのだ。極端に言えば彼女は手札を一枚しか持っていなかった。毎日、同じ髪型、同じメイク、学校指定のカバンから大幅に逸れたリュック、服装はしっかりと制服を着て登校(私に挑戦)していた。不登校から戻ってきたこともあるのだろう。他の先生達は彼女の格好(主にカバン)について注意する人、指摘する人はいなかった。この高校の校則はそこまで厳しいものではないと私は思っている。でも、私は彼女のあのカバンだけはどうも気に入らなかった。なんかフェアじゃない…あんな学校という狭い空間でまったく実用性の感じられないあのリュック...。中身があまり入っていなさそうなのに、いつも重そうに…大事そうに背負っているあのリュック..。どうしてもあれに私は、良い言い方をすれば興味を惹かれていた。
…そんなことを思っている時点で私は負けていたのだろう。
今になってそう感じる。

あれ?待てよ。
今、思い出したことと今のこの状況どうやったらつながるの?
私はこの高校で私だけの楽園を作りたかったんだっけ?
嫌、違う。確かに男性にモテモテになることは嫌な気分ではない。
何なら死ぬまで!…最低でもこの高校を定年退職するまでは!
学校一の美人教師と言われたい!という気持ちはある。
でも、よく世間で見る先生と生徒の禁断の恋やセクシービデオなんかでよくある展開…そんな男たちのもしかしたらワンチャン…なんていうものには全くの興味がない。というかそんなもののために教師を目指したわけではない。
じゃあなんで私は今何かから逃げているの?こんなにけがをしてまで…
誰かの恨みを買った?
ただ放課後の学校が急に怖くなっただけ?
まさか本当にお化けとか化け物が出たわけないし…でも、なにかから逃げてた気がするんだけどなぁ…

『先…生…メ…アリー…先…生…ぼく…いや、私と…』

!!あれ…なんだっけこの会話…。
ぼく?わたし?男なの?女なの?どっちだった…?
とにかくもう少し今までのことを思い出すことにしよう…。でも何から?

【赤目 狂子】

あれ?なんで私はこの子ことをこんなに考えてるの…?
嫉妬?いや違う。それはさっきのことで違うとはわかってる。
まさか、彼女から逃げてるの?
なんで?どうして?
あぁ!!わからない!思い出せない!
…はぁ。叫んでいてもしょうがない…。それに、本当に化け物から逃げていたのなら大声を出すのはあまりいいことではないはず…。
とにかく!彼女と初めて会った時のことを思い出しましょう。そしたら何かわかるかも…。えーと確かあれは私がモテ過ぎてて…

そうそう。あれは彼女が来てすぐのことだった。あの時はまだ私の人気が高くて保健室は用のない男たちに包囲されていた。毎日のように、奴らはすぐにばれるような仮病や睡魔を持って、保健室に押しかけた。他の先生達はこれをしっかりと生徒達と自分達の問題だと捉え、

(本当に必要な用が無い限り保健室の利用は控えること。利用する場合はクラス担任、副担任もしくは授業担任に必ず一言言うこと)

という校則にはのっていない暗黙のルール。最低限のマナーを作ってくれた。

(あなたが美しいからいけないんだ。)

なんて濡れ衣を着せられなくて本当に良かった…。本当にここの先生達はいい人ばかりだ。今のところ生徒に黙って、こそっと来る先生もいない。来たとしても生徒の付き添い等のバレバレな嘘と共に堂々と来てくれる。
あぁ本当にいい職場に入ることが出来たんだなぁ…。
…って!そんなことに感動してる場合じゃない。
赤目 狂子と初めてあった日のことを思い出すんだ。
…あぁそうだ。とにかく、このルールのおかげで保健室は本当に用がある人達のための存在になったんだ。そうなるまでには結構な日付が必要になるかと思ったら、意外に一、二週間でほぼ想像した通りの結果になったんだ。
それはなぜか?
先生達がすごく厳しく取り締まったから?
いや、それは無い。それは自分達の首を絞めているのと同じことようなことだからそんなことはなかったのだろう。…たぶん。
周知の事実として行きづらくするために先生たちがお互いに厳しくしていった部分はあったのかもしれないが…。
では、男子達が思っていた以上に真面目だった?
これは半分正解かもしれない。もちろん。私は彼らを信じている。そりゃこの高校の先生になったんだ。自分の高校の生徒達を信じないでどうする。私が思っていた以上に彼らは真面目な子達だったんだ。
そう!それでいい!それが正解。大正解!でも十分にいい。ただ、彼らも普通の高校生。普通の青春を…漫画かよ!って思わせるくらいのご都合展開のたっぷり入った青春の妄想を少なくとも持っていて、それを実現させたい!実現してやる!と毎日考え、仲間達と切磋琢磨し、血気盛んに生き、人生を大いに謳歌している男子達だ。
若気の至りというものの恐ろしさをフッとした瞬間に忘れて、校則違反という危険に触れてしまうこともないとは言い切れない。ない方がおかしい!と思うし、あるのが普通だ。ノーマルだし、健全である。
では、もう半分の正解は何なのか?
それはもう薄々自分でも気がつき始めている。赤目 狂子。そう。彼女の存在である。彼女がこの偶然にしては出来すぎなくらいすごくいいタイミングで学校に登校するようになったからだ。
これを自分の口から言うのはすごく悔しいが、会いに行くまでにすごく手間のかかる綺麗な大人の女性より、同年代で、久しぶりに学校に来たと思ったらものすごくイメージチェンジして、ものすごく自分の好みのタイプになって戻ってきた女子。そのうえ、同じクラス…もしくは隣のクラスに何の手続きもしないで会えてしまう。話せてしまう。なんなら、告白も出来る。もしかしたら、されるかもしれない。そんな青春の一ページにふさわしい。学生時代の妄想フルコースのメインディッシュくらいの価値がある体験が簡単にできてしまう子の方が良いに決まっている!
私だって男だったらそっちを選んでしまう!
こんなの少しハードな恋の方が燃えるっていう男子が多い高校でない限りは私に勝ち目なんて全く無いじゃないか…。
あぁしまった!少し嫌な感情を思い出してしまった。この感情だけは思い出さなくてよかった気がする...。
あっそうか。だから彼女のことを思い出すと自分がそこまで手放したくないと思うほど求めていた日常風景でもなかったのに、あんなにも奪われたかのような負の感情…主に嫉妬心が沸き上がってきたのか…。なるほどな…。
コホン…。余計な事なことまで思い出したような気がするけど、続けよう。
確か、それからさらに二週間たった頃、ふっと彼女は私の所に...保健室に来たんだ…。

かわいい子だな.…。

最初の感想は確かそうだった。別に化粧のおかげでそう感じたわけではない。少し年上だから…いや、年上の同性だからこそ、いくら化粧をしようがプチ整形?そんな改造をいくらしようが元のすっぴんの顔はなんとなく予想がついてしまう。つまり素の顔の彼女が来たとしたとしても私の感想は変わらなかったことだろう。

「キャー狂子ー。」
「あっ狂子さん瘦せたんだねぇ。」
「おっどうした?どうした?不登校中に推しでも死んだか?」

私がそんな感想を持ったと同時に私の両耳に保健室とは思えないほどの元気な声たちが聞こえてきた。その正体は分かっている。昔の私と同じようにクラスにどうしても馴染めない人たちだ。つまり、保健室を…私を本当に必要にしてくれる人たちだ。
この子たちはあのルールが出来てすぐに来るようになった。最初の頃は私に敵意を向けているのは一目でわかった。
まぁあの光景を昔の私が見ても第一印象は…

何だあのビッチ野郎は!
若い男ばかりにちやほやされて、さぞ楽しいだろうなぁクソババアがよぉ!

なんて口には出さないが、誰でもひどいと思えるほどの罵詈雑言が頭に駆け巡っていたことだろう。
まぁそれをたった一日で…

いい先生!
この人は信用できるのかもしれない!

と思わせることが出来るのが今の私の実力なんだけどね。
それから、この子たちと話をするとそれまでのこの子たちの居場所を考えてしまう。そのたびに本当にあのルールが出来てよかったと思える。

「久しぶりだね。みんな。無事に痩せて、綺麗になって、私は帰って参りました。どうですか?この私の変装は、陽キャどもに擬態できてるでしょうか?」

「「「合格だ!同志よ。よくぞ戻ってきた!!!」」」

彼女とあの子たちは確かそんな会話をしていた気がする。
その時私は思った。

(へぇ思っていたより彼女って誰とでも仲良くなれる子なんだなぁ。
あんなに人と接するのが少し苦手なあの子たちが私以上になついている…。
…いかん、いかん。またいらぬ嫉妬心が...。静まれぇ私の反抗心~。
ってあれ?じゃあなんで学校休んでいたんだろう?彼女…。
まぁ後であの子たちに知ってるか聞いてみればいいか。よほどのことでなければ大抵のことは教えてくれるだろう。まぁよほどのことのような気はしているけど…)

そうか、そうだった。最初の彼女の印象はなんで不登校になったのか分からないくらいの…なんていうんだっけ?そう!一軍女子って感じの子だったんだ。で、確かこの後…

「へぇ~なるほど。なるほど。やっぱり男子って生物は、こんな想像上の生物みたいな属性てんこ盛りの大人のお姉さんがいいのかぁ。ほうほう。確かに見習いたい点がちらほらあることにはある...。」

「へぇそれはお世辞だとしてもとても嬉しいわ。学校一の美少女に綺麗って言われるのはたとえその前にトゲのある言葉があっても、バラみたいな褒められ方をされたと思えば全然傷つかないわ。」

って彼女と大人げない会話をしたんだった。あぁそうだった。そうだった。段々と思い出してきた。というか、バラみたいな褒められ方って何?
教えて!過去の自分!
それに、思い出すたびに思うけど私ってこんなに大人げない人間だったけ?
まぁ今度から気を付ければいいか…。で、その日はこの後すぐにチャイムが鳴って、みんなを授業に送り出したんだっけ。それが、彼女との最初の出会いだったんだ。
あれ?今のことを考えるとそんなに悪い子じゃない?
ということは彼女から逃げているわけではない…。
じゃあ私が彼女を思い出しているのはただの気のせい…。

『メアリー先生…。何を勘違いしてるんですかぁ…。私は陰キャも陽キャもどちらも嫌いですよ…。』

!!いや、違う。気のせいなんかじゃない。私と彼女の間で確かに何かあったんだ。
でも、なにがあった?
いつから彼女に不信感をもった?
第一印象…はあのカバンがどうしても気に入らなかった。
初対面…はどうして不登校になったのか分からないくらいのコミュニケーション能力で、しかも努力家の一面もある。弱点なしの子に見えた。
そういえば、なんで不登校になったのかあの後あの子たちに聞いたんだっけ。確か…

「ねぇなんで彼女が不登校になったのかあなたたちは知ってるの?
あっ知らないならいいし、彼女の過去は信頼できる先生でも教えられない私たちだけの秘密なら深くも聞かない。彼女本人から聞くか許可をもらわないと話せないって言うなら言った通りにするから。」

「どうしてそんなに私たちの友達について知りたいんですか?」
「そうですよ。ハッまさか先生、彼女の弱みを握りたいんですか?」
「あぁそんなことをしてまで先生は…この学校の一位に…。」

「そんなんじゃないわよ。冗談はそこまでにして。
で、答えはハイなの?イイエなの?」

「答えとしては三人ともハイです。それに、彼女の許可がなくても話せます。
ただ…。」

「ただなんなの?」

「ただ、噂程度しか知らないんですよ。」
「そうそう。彼女は去年から私たちと仲良くしてたけど、不登校になってから連絡しても痩せたら戻って来るっていう言葉しか教えてくれなくて…。」

「なるほどね。じゃあその噂でいいから教えてくれない?」

「一応、聞く理由だけは聞いてもいいですか?噂でも結果として不登校になったのは本当ですから。」
「お願いします先生。先生が、嫉妬心で聞いてはいないと信じています。でも、うっかり先生が他の人に言いふらして、今の彼女の生活を崩させたくないし、私の数少ない友達を私の手で無くしたくない。」
「どうか先生、理由聞かせてください。今度は冗談抜きで話しますから…。」

「…安心して、これだけは確かなことだけど、私は嫉妬心や生徒をおとしめるために過去を聞くことはないわ。そんなことをしたら、胸を張って、過去の自分や生徒たちに私は先生です!って言えなくなってしまうわ。私が彼女の過去を知りたい理由はただ一つ。彼女と初めて会った時に感じた違和感を解決したいだけよ。」

「違和感?」

「違和感っていうと少し違うかもしれないけど…
なぜあんなに人気のある彼女が不登校になったのか?
なにか校則違反をして、謹慎を食らっていた?
それなら、不登校っていういい方はおかしいし、あなたたちの態度でも違うことがわかる。
じゃあいじめとか?
だったらいじめの主犯がこの学校に存在する限り学校に来なさそうな気がする。それに、あなたたちにそんな感じの連絡が来てないってことはそんなことが一応、彼女の身には起きていなかったって証拠になる。
それじゃあサボり?
最初に会った時の感想ではそんなことをするような子には思わなかった。
じゃあなぜなのか?
どう?先生の素人考察の結果は?」

「...」
「...」
「...正解です。狂子は先生の言ったようなことで休んでいません。」

「という事は...」

「私が話します。この中では私が一番事実に近い話ができるはずです。」

それから私は彼女の過去を知ったんだ。あの子たちの話を私なりに解釈して思い出すと…。

それは、私がこの学校に来る前、一年前のことだった…。
彼女とこの話を話してくれた子は学校のいわゆる一軍女子のグループの中にいた。リーダーはもちろんクラスの…いや、学年のマドンナ的存在の子だった。でも、彼女達からしたら彼女は学校一の美少女といっても過言ではない存在だったらしい。だから、そのグループ末端でも彼女と話せること、仲良くしてもらえることはとてもうれしいことだったらしい。そんな訳で、学校にも二人共、毎日楽しく行けていたらしい。ここまでの話を聞いて、私の中で、彼女の不登校の原因はいじめでは無いという言葉に少し信憑性が無くなってきていた。だが、あの子達が噂であっても違うと断定して言うのなら、それを信じて続きを聞くことにした。
 昔、動物には決まった繁殖期があるのに、毎日が繁殖期である人間って動物は不思議だね。と生徒達に人気のあった先生が言っていたのを今でも覚えている。この言葉は一見、少し下ネタじみてはいるが確かにと思わせる事実を教えてくれただけとも考えられる。だが、今この話を聞いている男子も女子も法律上はそういった行為は認められているし、考える年齢や時期になっていることはわかる。だが、校則上は認めていないし、後々後悔することがあるから気を付けてね。という先生なりの警告だったのかもしれないと今となっては考えることもできる。まぁ自分でも暴論過ぎだし、考え過ぎだと言うのはわかる。
あれ?なんで私は今このことを思い出したのだろう?
…あぁそうかこの話の結末を思い出すとそういったことも思い出すし、考えもしてしまうのか…。あぁつまり、そういうことだったんだ。彼女が直面したのは大人でも解決の難しい恋愛関係の問題だったんだ。
でも、あの子達の言葉を信じるなら彼女自身は校則違反をしていないはず。
だったら誰が?
…あぁなんとなく思い出してきた。そうだ。あの子だ。学年一の美少女だ。確か、事件が、起きたのは二学期の終わりくらいのことだったか…。

二学期。この言葉で私が最初に考えるのは、夏休みが終わり、一年で最も学校に行く日が長い学期。その代わり、一年で最も楽しみにしている行事も多い学期。このくらいだろう。そういえば、先生たちは二学期が一番生徒たちの気持ちがゆるんで、校則違反が起きやすい学期って言ってたなぁ。今思えば、確かにその通りなのかもしれない。単純に考えて一番長い学期だから、長期休暇になるまでに起こる違反の件数が増えるだろうし、行事が多いという事は、勉学以外の同級生や先輩、後輩の長所や短所が見えてくるということだ。つまり、そこから問題に発展…なんてことが起きてしまうことも他の学期より多いということだ。そこに彼女たちも該当してしまったわけだ。
話してくれた子がなんて言っていたか覚えてはいないが、とにかく何かの行事の後のことだった。天は二物を与えずなんて言葉があるが、天という者は何とも気まぐれな奴だ。才色兼備。こんな言葉が世界にあるぐらいだ。二物でも、三物でも与えられた子が存在するわけだ…。もしかして、神もルッキズムだったりして…。まぁ私もその恩恵が…。なーんて前置きはそこまでにして、学年一の美少女の新たな魅力に気付いた男達。なんていう存在が二学期に大量発生したらしい。つまり、一人の女性を巡った男たちの争奪戦…告白合戦が始まったのだ。男達は思った…

(どうしたら学校一の美少女と名高い彼女を…高嶺の花ってやつを…この手に出来るのか…。)

まぁ私の表現で言えば、男達は青春の一ページにふさわしい。学生時代の妄想フルコースのメインディッシュくらいの価値がある体験ってやつが欲しかっただけだった訳だ。それが叶うならもし、卒業後すぐに終わってしまう結果になったとしても学生時代の妄想フルコースは思う存分堪能出来たし、大人になって、またライバル達に(同級生の男子共に)会ったときに永遠と自慢することが出来る。くらいに思っている奴もいたことだろう。というかほぼそのくらいで戦に参加した奴だろう。そして、そんなやつらを含め、男達はいい方法を思い付いた。

(そうだ!こういうときは彼女の周りにいる女子から狙っているようにみせて、優しく接していけばいいんだ!そしたら、いつも間にか彼女にも好印象をもたれて…。グフフ。)

グフフはさすがにキモく想像しすぎたかな?まぁいいや、彼らの下心から出た言葉と思えば…。まぁそんなわけで、昔からよく使われる手法で、小賢しくも男共は学校一の美少女攻略に打って出た。私は最初この話を聞いた時、フッと頭にフォークダンスみたいな光景が浮かんだ。学校一の美少女と手を繋ぐために次々と男子達が一軍女子グループと手を繋いでは離し、繋いでは離しを繰り返す光景だ。
…フフッ。第三者からしたらなんて面白い光景なのだろう。もし運良く学校一の美少女と手を繋げても、すぐに自分より後に来た男に自ら譲らないといけないのだ。ほぼ強制的に…。なんて、滑稽な光景だ!ってね。
…コホン。話を戻そう。
まぁとにかく学校一の美少女フォークダンスが始まってからは学校中がカップルで溢れかえったらしい。はたして本当にそこに愛のあったのだろうか…。策略の一切無いカップル達だったのだろうか…。今となってはわからない…。だが、これだけは言える。本当にそのままカップルになって、今も関係が続いている人達もいるということ。
これは純粋におめでとう!とその女子達に言いたい。学校一の美少女にあなた達は勝ったということだ。男達を上手く騙せたね!グッジョブ!
ちなみに、私に話してくれたあの子はどうやら対象外になっていたらしい。
これは私も何て言っていいかわからなかった。末端だったから仕方ないよ?いや、違う。いずれいい人が見つかるよ?うーんこれが無難だけど…。私何て言ったんだっけ…。
おっと、そんなことよりこっちの記憶の方がが大事だ。この争奪戦こそが彼女を..赤目 狂子を不登校に追い込んだ原因だということだ。当時、彼女はこのフォークダンス…男子達の策略を知っていた。だから、急に自分に優しく接してくる男子達が増えてきたのは、自分のためにやってくれていることではない…自分に向けられた善意ではないことに気がつき始めていた。そんなときだ。告白されたのだ。
学校一の美少女フォークダンスの参加者に?いや、違う。ただ単純に彼女の魅力に気付いた男子にだ。そりゃいるだろう。男子のなかにも学校一の美少女なんて興味を持たず、自分がときめいた人に一筋になる奴くらい…自分は他人とは違うと思い込んでいるが、ただ最初から選ばれないと諦めているだけの普通の奴くらい(これじゃあ赤目 狂子に魅力が無いみたいだが、断じてそういうわけではない。)
とにかく、ここに争奪戦とは関係のない一組のカップルが誕生したのだ!
これで、この話は終わり。ハッピーエンド!…だったら良かったのに…。
ハァア…これでこの話が終われば良かったのに…人生ってやつはなんて残酷なことだろう。その男は学校一の美少女に気に入られてしまった。彼女が自分に興味がなさそうな男に惚れやすかったのか、その男が私が思っているよりもいい男だったのか、今となってはわからない。だが、結果として、赤目 狂子は恋人を失う…奪われることとなった。それが彼女が不登校になった直接的な原因かというとそうではない。その後のことだった、どこでどう情報が…真実が変わったのか一軍グループ内で狂子が美少女の好きな人を奪おうとしたという噂が流れたらしい。
そのときその男はどうしていたのか?
学校に来れられなくなったらしい。理由は…簡単に言えば校則違反。
では、先生たちは?
どちらの情報がホントでウソなのか…真実を知る人がおらず、見守るしかなかったようだ。つまり、彼女たちに…一軍グループに勝てるほどの味方が彼女には…赤目 狂子にはいなくなったのだ…。ちなみに、学校一の美少女は彼と同じ時期に同様の理由で転校していたらしい。
これが、彼女が…赤目 狂子が不登校になった理由だ。
この話が終わった後、話してくれた子は言った。

「私は狂子が休み始めたあとも最初はあのグループの中に残っていた。でも、新しくリーダーになった子は私を、休んでいる狂子の代わりにいじめた。それはたぶん、最初のリーダーのかたき討ちだったのかもしれない。そして、今の私が出来たというわけ…。でも、私は狂子を恨んでいない…。だって、あの子の方が苦しかったはずだもん。最低でも二人の人に同時に裏切られたんだから。」

運が悪かった。

その一言でこの騒動は片付けられる。こんな長々と思い出したことだが、他人からすればそんなことなのかもしれない。だが、当人からすれば…。去年の事だったとはいえ、この学校の養護教諭になったからには…。そんな一言で済ますわけにはいかない。二度と同じようなことが起こらないように願いたい…起こらないようにしなければならない。そう思ったことだけは覚えている。それだけは忘れずに心に…頭に刻み付けていた。
…あれ?もしかして、私は彼女に不信感を持っていない?
いや…この話は彼女の不幸話なはず…なのにどうして?
彼女に都合のいいように動いている気がする…。
現に、彼女を裏切った二人はいなくなったし、彼女に同情する人…味方も今の高校には多くいる。それに…一軍グループ内で流れた噂…

彼女には学校一の美少女が好きになった男を振り向かせるくらいの力がある。

なんていう噂が出てくる可能性もないか?

『先生…それ本当に信じていたんですか…。本当に?
この話のほとんどが単なる噂に過ぎないのに...。私…本当は…』

!!痛ッ…!頭が!!

『…』
『…』
『…』
『…』

あっ!思い出した!今までの出来事を!そうだ。今は夏休み期間中だ。
そして、私は会ったんだ。誰もいないはずの廊下で…絶対出会うはずのない生徒に…赤目 狂子に…

「なんでいるの?赤目さん…。知っての通り。今は夏休みよ。あっもしかして、忘れ物にでも気づいたの?あーさては夏休み課題を忘れたなぁー。しょうがない人ねぇ。本当は連絡してからじゃないと来ちゃいけないんだけど、今回だけ特別。私に免じて黙っておくわ。次から気をつけるのよ。さぁ探してらっしゃい。見つかるまでここで待っておくから。」

「ううん。先生。忘れ物を取りに来たわけじゃないんだ。」

「えっ。じゃあ何しに誰もいない夏休みの学校に?」

「先生に会いに来たっ。今日はメアリー先生が学校に来るって知っていたから。先生に会いに来たの。先生。メアリー先生。ぼく…いや、私と少しゲームをしませんか?」

「ゲーム?どんなゲームかは知らないけど、そんなことのためにわざわざ私が学校に来る日を調べて、誰もいない夏休みの学校に勝手に侵入したっていうの?」

「はい!」

「はい!ってそんな元気に返事されてもなぁ…。先生…こう見えても忙しいんだけどなぁ…。でも…(そういえば彼女に聞きたいことがあった気がする。)いいわ!今日一日くらい遊んでも、夏休みの神も、この高校の神…校長先生も怒らないでしょう!さぁ何して遊ぶの?赤目さん。」

「!!やったー!先生、アリガトー。そうですねぇ…ここじゃ音が聞こえちゃうかもしれないので三階に行きませんか?」

「え?三階?いいけど。何をするの?」

「ひ・み・つです。着いてからのお楽しみですよ。」

あぁ。あのとき、ついて行かなければよかったな…。それか、保健室に一番近い教室…最悪でも一階にいれば…こんなことにはならなかった。こんなに血だらけにはならなかったはず…

「たぶんここが、三階でも一番音が聞こえにくい教室だと思うけど…何をして遊ぶつもりなの?あぁーもしかして何かのサプライズの練習だったりして…。」

「フフフッ。実は…」

パンッ!

「えっ何の音!」

「…ですよ。」

「え?」

「銃…声ですよ。」

「銃声?なんでそんな音がするの!」

「だって…今、私が撃ったんですから。」

「何を?」

「それはもちろん!銃ですよ。銃声が出るものなんてそれしかないじゃないですか…メアリー先生。」

「銃?なんでそんなものがここにあるの!」

「だって、私が持っていますから。」

「なんで!」

「買ったんですよ。ネットで…。それ以上のことを聞きたいですか…。」

!!便利な言葉だ…ネットというのは…。なんでも出来そう。不可能なことは私たちが知らないだけで、無いのかもしれない。そう思えてしまう言葉だ。銃なんて代物、大人の私が知らないだけで高校生の女子でも買えてしまえそうではないか。

「先生に渡しなさい!そんな危ないもの!あなた!それが、犯罪だってわかっているの!校則違反なんて甘いことじゃないのよ!さぁ!渡しなさい!」

「…やっぱりそう言いますよねぇ。まぁ誰でもそう言うか…。あぁどうしようかなぁ…。撃つ?誰を?私?先生?えぇでもなぁ今からそれをしようと思っていたのになぁ…。どうしよっかなぁ…。」

「何、独り言言っているの!さっさと渡しなさい!」

「先生…。渡しませんよ。だって、今から先生とロシアンルーレットをして遊ぼうと思っていたんですから…。」

「!何を言っているの!ロシアンルーレット?そんなことして何がしたいの?」

「先生にはないですか?私って存在価値があるのかなって…生きる価値があるのかなって…人は何かの役割をもって生まれてくるって言われてるけど、もう私は果たしてしまったのではないかと…。そして、たまに神様に聞いてみたくなることはありませんか…。死に直結するようなことをして…それで何も無く終わった時に…あぁ私まだ生きる価値があるんだなぁ…って…神様はまだ生きていいって答えてくれたって感じたいって事ありませんか?」

「あ…あなた何言っているの?それが、ロシアンルーレットをすることに何の関係があるの?(なんとなくは分かっているでも…)そ…それにあなた、今は学校に楽しそうに通っているじゃない。先生がしっt…いや違う羨ましいと思うくらい男子にモテモテじゃない。(なんとなくは的外れなことを言っていることは分かっている。)同性にだって、友達がたくさんいるじゃない!(でも、とにかく彼女の手からあの凶器を離さないと)それでも何か不安や恐怖があるなら私の所に来ればいいじゃない。ね?(私が、彼女がけがどころじゃない傷を負ってしまう。最悪、死…)」

「先生…。自分でもなんとなくは気が付いているんでしょ。今、私に言っていることが何の中身のない…とりあえずこの銃を下ろしてくれるように説得することを優先にしていることに。でも、無駄ですよ。私はこれを下ろす気は全くないですよ…。あっ!一つだけありますね!先生!あなたにもわかったでしょ。」

「…私が…ロシアンルーレットに参加…することでしょ。」

「ピンポーン!正解ー!商品としてロシアンルーレット…私はこの行為を神への問答って呼んでます。まぁとにかくその参加権を差し上げまーす。」

「あっ…まっt…私まd…」

「え?参…加しないんですか?もしかして…」

「い…いえ…そっそんなことはないけど…でっでも…」

「じゃあここで一人で始めてしまいますよ。神への問答…。先生は見ているだけで良いですよ。でも、もしここで私が死んでしまったら…誰が犯人に疑われるでしょうね…。」

「でっでも…私は自分もあなたも死んでほしくないから…ね?やめましょ?
今なら私も黙っておくから…」

「分かりました。じゃあ一人で始めまーす。一発目ー!」

「…あああああ!わっわかった!わかったから!参加すればいいんでしょ!参加すれば!そうしたら、その銃を私に渡してくれるんでしょ!」

「はい!ちゃんと渡しますよ。どちらも生きていたらの話ですけど…ね。」

「わかったわ。じゃあ早速始めようじゃない!さっきあなたが一発撃ったから次は私の番ね。さぁ渡しなさい!」

「先生。さすがにその手には乗りませんよ。このままじゃ何も入ってない空の銃を回すだけですからね。しっかり入れさせてもらいますよ。」

(まぁさすがにひっかかるわけないわよね。もしかしたら…なんて少し期待してみたけど…やってみるしかなさそうね。)

「はい。先生!一応入っているのを確認してみてください。」

「悲しいけど、しっかり一発入っているわね…。」

「じゃあ回します。クルクル…いやもっと勢いよく!グルルルルっと。
はい、回しましたよ。じゃあルールはなんとなく知っていますね。このリボルバー?っていうんですか?まあとにかくこの六個の穴の内の一つに弾が入っています。それに当たった人が見事!死んじゃうんですねぇ。じゃあ!早速始めましょう!一応もう一度グルルルルっと。」

「じゃ…じゃあ、あ…あなたから…どうぞ。」

「先生…。また私がひっかかるとでも思いましたか?もし、六発目に弾があったとき、銃はあなたの手元に渡る。それで、このゲームも終わり。なんて賭けにはのりませんよ。…と言いたいところですが、いいですよ。一発目が弾の可能性もありますし。あぁ緊張するなぁ。どうしよう当たりだったら…。なーんて。」

(さっきのは私を脅すために撃っただけで、も…もしかしたら怖がってゲームをやめてくれたりしては…)

カチン

「はい。次は先生ですよ。」

(…くれないのよね。なんとなく分かっていた。分かってはいたけど…。彼女の精神どうなっているのよ!)

「次、先生ですよ。早く。早く。」

「わ…わかったから、そんなに急かさないで。(うぅやっぱり本物って重いのね。)」

「あっ。そうだ!先生を死の恐怖に晒すお詫びに私に対する疑問に答えますよ。どっちかが死んでしまっても遅いですからね。さぁどうぞ。一つや二つぐらいあるんじゃないですか。だからこそ、誘いに乗ったのでは?」

「そ…そうね…。じゃあ早くもこのゲームに飽きたりなんかは…」

「しているとでも?」

「そうよね…。」

「もしかして、聞きたいことってそれだけですか?だったら、さっさと引き金引いてください。」

「いいえ!そっそんなわけないわ。もう、赤目さんったら先生を急かさないで頂戴!」

「ですよね~。」

「じゃあ今度こそ、本気で聞くわ。なんで?なんで、あなたみたいな子がこんなことをするの?去年、あなたに何があったのかは聞いたわ。でも、今のあなたは人気者じゃないの。たくさんの人に好かれている。あっもしかして、また裏切られるのが怖いの?大丈夫よ!あなたにはあの子たちがいるじゃない。あの子たちが信用しているなら、だれとでも仲良くなれるはずだわ。それに、今のあなたを裏切る人は…原因を作る人はいないはずだわ。」

カチン

「どうやら二発目でもなかったようね。さぁどうぞ。」

カチン

「…三発目でもなかったみたいですね。渡す前にさっきの質問の答えからします。メアリー先生…。何を勘違いしてるんですかぁ…。私は陰キャも陽キャもどちらも嫌いですよ…。同じ言語でしゃべり、同じように流行りに敏感で、流行りの過ぎたものをすぐに捨てる。上げたらきりがないくらいの同じが存在するのに、お互いが嫌いあい、差別し、区別する。見ていてどちらも非常に醜い点もあれば、見習うべき利点もあるというのに。私だってただ彼ら、彼女らにとって今が旬であるだけ、流行りであるだけ、流行りが過ぎたら去年みたいに…いや、去年よりもっとたくさんの人に裏切られたと感じる…。どうぞ。先生。次ですよ。」

「…(なんて、躊躇なく引き金引くの…彼女には死の恐怖とか無いのかしら…)あっありがとう。…そうだったのね。あなたにもそんな悩みがあったのね。でもまあ、そうよね。去年のことって言っても、人から裏切られたってことは真実だから、そんな気持ちを持ってしまうのも仕方ないわよね…。でも、あの子たちはあなたを裏切らないんじゃないの?だってほら、あんなにもあなた達…仲が良かったじゃない?ねっ。あの子たちも、あなたを裏切ると思っているの?あなたは?」

「先生…。何を当たり前のことを言っているんですか?あの子たちは別です。あの人たちは私の友達ですよ…彼女たちの言葉を借りるなら…同志…ですよ。私が今、話したのは陰キャ達と陽キャ達のことですよ…。何を勘違いしてるんですか…先生…?あの人たちを…私の友達を…先生は…陰キャだとでも思っていたんですか?
…ひどいなぁ…先生ぇ。私の友達を…そんな風に思っていたなんて…。
ほらぁ…次は先生の番ですよぉ。さっさとその引き金ぇ引いちゃってください。」

「そっそれは、ごめんなさい。実は少しそう思っていたわ…。確かに、あなたの言うとおりね。先生が生徒を区別して、態度を変えることは先生として、失格ね…。(もしかして、ここで私は…)」

カチン

「どうやら…先生は…まだ生きていいみたいですねぇ~。先生も…少し、私のように…神様に自分が生きていいか聞いたんじゃないですかぁ~。」

「フフッ少しね。(フーッ。かなり焦ったわ)でも、どうやらまだ生きていていいみたいね。
…あっそうか。まだあなたに、聞きたいことがあったのよね。そのおかげかしら?じゃあ聞いていいかしら?あっそうそう。どうぞ、あと二発…。
でも、もしかしたら、聞く前にあなたが…さぁどうぞ。」

カチン

「聞いてもいいですよ。あっでも、その前にこれ。空にしてからにしてくださいね。」

「…(あれっ?もしかして…次で私…死んでしまうの?
だっ大丈夫よ。さっきだって、私生き残ったじゃない。
こっ今回だって、もっもしかしたら生き残れるは…ず?あれっ?あれっ?
あれっ?私本当にここで死ぬの?ここで自殺みたいな形で死ぬの?あれっ?私…私…ここでs)」

「先生どうしました?一瞬余裕そうでしたけど?あれぇ?もしかして…」

「ちょっ…ちょっと待って…。少し…少しだけ嫌なこと考えちゃったのよね…。だから、少し…1分…いや10秒でいいから集中させて…。」

「…分かりました。十秒だけ待ってあげます!いきますよ!1…2…3…よーん…ごー…ろー…」

「ちょっ…ちょっと!待って!自分の…私のペースで数えるから…少し…少しでいいから待ってて…お願いだから…ね?お願い…。」

「どうしました先生?」

「ちょっと待って…」

「これが先生の望んだ形…望んだ展開ですよ?」

「ちょっと待ってて…」

「私から銃を取り上げられるんですよ…?」

「お願い…ちょっと待ってて…」

「あれぇ?もしかして、ここで怖気づいちゃったんですか?」

「お願い…私のペースで数えるから…少しの間…待ってて…」

「さぁ!さぁ!さぁ!さっさと引いちゃってください!その引き金!そしたら聞けるんですよ!私の口から!去年の真相を!あなたが抱いた疑問の答えを!」

「お願いだから!少しの間、待って!」

「…あれ?もしかして、先生…あの子から聞いた話…本当に全部信じたんですか…。あれを?本当に?あの子の目線から予想できる話のほとんどは単なる噂に過ぎないのに…。実は…私…本当は…」

「ああああああああああああああああああああああああああ!!」

「あれ?先生…逃げちゃった。」

(私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死なない。私は死ない!!!)

「あっ…」

………ドサッ

「逃げなきゃ…。」

…そうだった…。私は彼女に会った後、彼女に誘われるまま三階の一番音が響かないところで…そして私は逃げた…彼女から?いや違う。一度は退けられた…もしかしたら、今日ではないと思っていた死に…実はすぐそこまで近づいていた死の恐怖から逃げたんだ。そして、階段で足を滑らせて…。
…!!という事はまだ三階には彼女が…!銃を持ったままの彼女がいる!
あのまま彼女に銃を持たせたままにしてはいけない!一人で始めてしまう!一人で、今の自分に生きる価値があるのかを確かめようとしてしまう!
急がないと!

ダダダダァーー!! ガラガラ!バタン!

「待ちなさい!!!」

「あっ先生。正気に戻りましたか?」

「狂子さん!もうやめましょう。このゲーム!何の意味もない!
そうでしょ!」

「どうしたんですか?急に…?どこかで頭でも打ちましたか?」

「えぇ。頭は打ってないけど階段から足を踏み外して、足にけがをしたわ。でも、安心して!ほら!見て!もう血が固まって、黒くなり始めているわ。ついでにその血で白衣も汚れてしまってる。靴も、どこかで脱ぎ捨てたみたいね。あぁ痛みや色々なことがあって、もうすっかり正気よ。」

「それはよかったですね。先生。私、少しだけ心配しましたよ。先生が勢い余って、窓から外に飛び込むんじゃないかってね。」

「生憎、生きることには執着していたみたい…。残念ね。私がまだ、この世に必要…生きる価値のある人間のようで..。」

「いえいえ。で?何しにここへ?さっき入ってきたとき、何かを叫んでいるようでしたけれども?私を…いや違うこのゲームは…とか言っていませんでしたか?」

「このゲームを終わらせに来たのよ。この何の意味のないゲームをね。強制的に。でも、やめたわ。力ずくでもやめそうにないし…。
仕切り直しよ!さぁその銃と弾丸を私に渡して!」

「先生。どうしたんですか急に…そんなに死にたいんですか?顔色も悪そうですし…。まぁいいですけども。」

「顔色が悪いのはこのけがのせいよ!さぁさっさと始めましょう!
そういえば、まだあなたの過去の真相聞いていなかったしね!」

ガチャ!グルルルル!

「それじゃあ始めましょうか。最初は先生からですよ。さっさと引いちゃってください。その後で、さっきの話の続きをしてあげますよ。」

カチン

「これでいいかしら?どうやら、まだ私は生きていていいみたいね。さぁ次はあなたの番よ。さっさと話してもらおうかしら。それか…引き金…引いて、お先にあの世へ行って、逃げてもいいのよぉ…。」

「チッ。
…先生ぇ~。頭打ってぇ~。狂ってしまったんじゃないですかぁ~。」

「…そうみたいね。狂ってしまったのかもね。だからなに?
この意味のないゲームでもやめてくれるのかしら?違うでしょ?さぁ続けましょ…。」

「…わかりました。話しますよ。話した後に引き金は引きます。それでいいでしょ。…その方が先生からしたらスッキリ出来るでしょ。…もし、弾が入っていて…私が死んでしまっても…先生は…私の死体をたまたま見つけたことにしてください…。」

「…やめようとは思わないの?」

「はい…。最初に言ったじゃないですか…。私は…私たちは…今…神に質問している状態なんですよ…。…先生は…馬鹿げた事と思っているでしょうが。
人間には…何人の人に人生相談したって…解決できない…心を晴らすことの出来ない…ことがあるんですよ…。そんなときに、人知を超えた存在…そうですね…簡単に思いつく神に…仏でもいいですね…。そんな人?方々に聞きたい!質問してみたい!ってことがたまに私にはあるんですよ。そんなとき…先生にもありませんか?」

「…確かにあるわね。」

「そう!それ!それですよ!それが、私の言う…神への問答なんですよ。」

「それで…なんで私がその…神への問答?…それに誘われたの?
…私に黙って、一人でこそこそしていれば、誰にも…私みたいな十分な正論を持った人たちに邪魔されず…今まで通りできたんじゃないの?」

「…リストカットってあるじゃないですか…。あれと…私の…これ…先生は一緒の行為だと思っていませんか?私…ああいうコソコソした自傷行為って言うんですか?そういう行為は嫌い何ですよ。まぁその行為自体好きでやっている人はいないはずですけど…。やっぱり私は、その行為自体…自分が生きていることを確認したい行為自体…やるなら一発で決めたいんですよ。だから、この遊びを始めた…。ではなぜ先生を誘ったのか?それは先生…。私…こう見えても高校生ですよ…。仲の良い先生と遊んでみたい年頃ですよ…マイブームを共有し合いたいって思う年頃ですよ。…っていう理由もあったんですけど、先生も私みたいな悩みがあるんじゃないかなぁ…私みたいなこと考えたことないかなぁ…って思ったんですけど…。やっぱり!先生は大人ですね!悩みはあっても、それをコントロールする術を何気に持っているんですね!
…ハァア…これを世の中では若気の至りっていうんですよね…。怖いな…。自分が勝手に先生を私の同類って決めつけて、勝手に舞い上がって、こんな危ない遊びに誘ってしまった。先生…。ごめんなさい…。死んで償います…。あっその前に、私の過去の真相を話さないといけませんね。」

「ちょっと待って。なんで、死ぬ前提で話を進めているの?
まっまぁあなたの番で弾に当たる可能性もあるけど。」

「え?あっそうでしたね。まだ、二発目でしたね。まだ当たる確率は低いですね。あちゃ~。私、これで死ぬ気満々でしたよ。少し死に急ぎましたね。すいません。…コホン!気を取り直して話すことから始めましょうか。」

「そうね。聞かせて頂戴。あなたの過去~真相編~って奴を。」

「じゃあ始めます。えーと何から始めましょうか。…あっそうか。先生。先生はあの子から話を聞いて、なにを疑問に思ったんですか?そこを中心に話していきますよ。」

「そうねぇ…。簡単に言えば…私が思った疑問はたった一つ。あなたの不登校になるまでの不幸話を聞いたはずなのに、なぜかあなたにとって都合のいい…あなたが再度登校した時にこの高校があなたの味方しかいない状態になっているのはなぜか?ってことかしらね。」

「あぁそのことですか。確かに。そう感じるのも無理はありませんね。だって、その噂…私の彼氏が流したものですから。」

「なるほどね。あなたの…。…え?私の彼氏?あなた彼氏にも裏切られたんじゃないの?」

「いいえ。」

「えっでも、噂では彼氏だった男は当時の学年一の美少女と校則違反をして…え?あれも噂なの。」

「はい。噂ですよ。というか私の彼氏?…ダーリン?…相方?…彼ぴっぴ?めんどくさいので彼でいいですかね。その彼は、実は誰にもどの人か言っていないんですよ。もちろんあの子たちにも。だから、私の彼は誰にも知られていないのだぁー。」

「もしかして、たまに保健室に来ているあの男子?」

「えっなんでばれたんですか?」

「最初はあの子たちの誰かに気があるのかなぁと思っていたけど。それからしばらくして、あなたが保健室に来るようになった…。ということはぁ?」

「…さすがです。先生。そうです。その男子です。その彼が私が不登校の間や、学校にいる間の信頼できそうな人や色々な情報の入手に協力してくれていたわけです。」

「という事は噂上に出てきていた彼とは今も…」

「はい。恥ずかしながら…」

「へぇ~。なかなかの純愛じゃない。妬けるわねぇ。と言いたいところだけど、私にもあなたに負けないくらいの純愛が出来る彼がいるんだけどね。」

「え。先生って彼氏持ちなんですか。私てっきりいないものだと思っていたんですけど。だから、学校であんなにも私、いろんな男にモテてますオーラ出しているもんだと。」

「失礼なこというのね。あれは私の元から備わっているモテオーラです!
というか、男たちにモテることは嫌な事ではないけど、そのまま一生独身っていうのはなんか寂しいじゃない。それに、この狭い学校っていう空間で相手を探すっていうのももったいない気がするし…。」

「それって私に対する嫌味も少し入っています?」

「あっ。あらごめんなさい。そういえばあなたの彼って同級生でしたわね。嫌味なんてこれっぽちも…。入ってませんよぉ。」

「まぁくだらない女のマウント合戦はやめて本題に戻りましょうか。」

「そうね。少し忘れていたわ。」

「じゃあなんで、この彼の噂がこんなにもあっさり一番真実に近い噂として浸透することが出来たのか?それは私の彼の情報操作能力が…と言いたいところですが、実は先程から話に出ている当時の学年一の美少女って奴が噂とは違い、なんとも性格の悪いやつでして、それはもう自分より下の一軍グループの女子の彼氏をまるで服のコーデを変えるがごとく、あっち着たり、こっち着たりと、とっかえひっかえするようなビッチ野郎って言えばいいんですか?そんな奴だったんですよ。そりゃ他の一軍グループの女子達も彼女に対する憎悪、嫌悪感が溜まっていったのは、言うまでもありませんよね。だって、男側から彼女にすり寄っていくのなら男の方を悪と出来ますが、彼女は自分からすり寄って、軽い睡眠薬入りのお茶を飲まし、既成事実ってやつですか?それを作って、男たちを脅し、あたかも彼女に寝返ったように見せるわけですよ。そりゃあ他の子からしたらたまったもんじゃないですよね。まぁ男からしたらいろんな意味でハメられたってわけで、嬉しいやら悲しいやらそんな気持ちですよね。あぁなんてかわいそうに。」

「なるほど。そういうわけね。で?あなたの彼はどうだったの?」

「いやぁそれがですねぇ。彼には何にも言い寄ってこなかったんですよね。その代わり、私にあの人は脅しに来たんですよ。お前の彼もいずれ私の者にする。お前みたいな底辺に幸せな学園生活は似合わないってね。
…フフッ。アハハハハハハハハハハァ…あぁおなか痛い。あっすみません。
つい、思い出し笑いをしてしまって…。その後なんですよ。その後。その後に彼女はいつものように漁っていた男と学生には到底触れてはいけない禁断の扉って奴を開いて…そのままオフロードコースまっしぐらってやつですよ。これを笑わないでいられますか? フフフッあぁなんでその時不登校になっていたんだろう?ちょっと後悔だなぁ。…ねぇ先生?神様って意外と平等なんですね。神は二物は与えずって言葉があるように、どんなに才色兼備な子でも弱点って奴はあるんですね。神は意外にルッキズムなのかもなんてことを言っている人もいますが、神はみんなに平等なんですねぇ~。」

「…そっそうね。あれ?でも、じゃあなんで不登校なんてしていたの?今の話を聞いていると、あなたが不登校になる原因が全く分からないんですけど。」

「あぁ。そういえばそうですね。私が不登校になっていた理由言っていませんでしたね。そうですねぇ…簡単に言えばその方が都合がよかったんですよ。彼の流した噂のつじつまもあいますし、私が同級生のみんなが見ていないうちに美しく変わるという事にも。都合が良かったんですよ。不登校っていう状態は…。」

「でっでも、そのせいであなたと一緒に一軍グループに入っていた子があなたの代わりに名目上のかたき討ちにあったのよ。それには申し訳ない気持ちはないの?」

「あっそれですか。それ先生信じたんですか?…ということは、念押しであの子に言っておくようにラインで送ったことは無駄じゃなかったってことだなぁ。」

「え?えぇそっそれじゃああの子が言ったことって…。」

「はい!その噂にさらに信憑性を持たせるために先生に話している途中であの子にラインで送っていたんですよ。だめ押しで、噂の信憑性を上げる作り話しといてね…ってね。先生ぇ~上手く騙されましたねぇ。」

「…そうみたいね…。まぁ良かったのかもしれない。あの子がいじめられていたわけではなかったってわかっただけでも。あれ?でも、じゃあなんであの子たちは私の所にくるのかしら?」

「それは先生。先生が保健室にいるからっていうのが最大の理由ですが、いくら私が今の一軍グループと仲がいいからって、あの子たちと彼女たちが仲がいい…共通の話題があるわけではないですからね。ただそれだけですよ。特に先生が心配するほどの重たい理由はないです。」

「あっなんだ。そんな事だったのね。そんなに心配することではなかったのね。」

「はい。今のところは私の学年には平和な日々が続いていますよ。たぶん私がその秩序を保っているのかもしれないですね。」

「…」

「…」

「「フフッ」」

「あなたって思ったよりとげのある考えを持っているのね。でも、話してて悪い気はしないわ。」

「先生こそ。戻ってきた後の私を煽る姿…ものすごくイライラしました。
もちろん、誉め言葉ですよ。あぁ引き金…引きたくないなぁ。」

「じゃあやめましょうか…。あなたとの会話…ガールズトークっていうのかしら。まぁとにかく。あなたとのこの時間とてもハラハラしたし、楽しかった。あなたもそうじゃない?」

「…確かにそうですね…。でも、もうやめるタイミングっていうものを失ってしまった気がするんですよ。だから、私の手でやめるのはちょっと…」

「じゃあその一発で最後にしたらどう?それで私は構わないわよ。もしそれで、あなたが死んでしまっても…私が責任をもって処理しておくから。犯人にでもなんにでもなってやるわ。一蓮托生ってやつ?だから安心して、その引き金を引きなさい。そして早く、ガールズトークの続きでもしましょ。」

「…わかりました。これで最後にします。先生…後は頼みました!」

カチン…

「どうやら、神もガールズトークの続きが聞きたいようね。」

「…そういうことですね。どうぞ先生…。この銃、先生にあげます。私にはもう必要がないものですからね。」

「私もいらないわよ。そんな違法な物。」

「保健室にでも隠しておけばいいじゃないですかぁ。それとも、私が銃刀法違反で捕まっても先生はいいっていうんですか?」

「うっ。こんなときだけ都合のいい子ね。…まぁいいわ!これは私とあなたの秘密ってことで、墓までもっていくことにしましょう。」

「はい!そうですね。…まだ少し時間もありますし、ガールズトークの続きでもしましょうか?」

「そうね。何から話しましょうか?」

「そ~うですね…。あっそうだ。先生はあの子から学年一の美少女の争奪戦の話を聞いて、頭に何か思い浮かびましたか?」

「えっあなたもなにか思い浮かんだの?私はなんかフォークダンスみたいだなぁとは思ったけど…。」

「フォークダンス!なるほど確かにそう考えると似てますね。
私はですねぇ…賽の河原みたいだなって思いました。彼女のために男たちがどんなに徳を積んでも、彼女に届くころにはその彼女本人に崩されるって
わけですよ!なんて、滑稽な光景じゃないですか!…これはちょっとつまらないギャグでしたね。」

「いっいやいいのよ。(私もそのギャグ思いついちゃたのよねぇ)そっそれにしても、あなたの考えることっていつもそんなに極端なの?」

「はい!考えることだけは自由だし、誰も止められることないですから…どんどん悪いこと考えますよ。もちろん人殺しだって...。」

「さすがにそれは想像だけにしておきなさい…って今言っても遅いけどね…。そういえば、今日最初に会った時、僕って言って言い直したじゃない?あれはどうして?」

「あっそれ覚えていたんですか…。あちゃ~それは忘れててほしかったなぁ。恥ずかしいなぁ。そっそれはですね…いっ一応先生にさっきのゲームにどうしても参加してほしくて…実は男でした!…なんて先生を振り向かせる嘘を用意していたんですよ…。でも、私の過去の真相をちらつかせたら意外と簡単に…。あっ嫌味ってわけではないんですけど、もしもの時のためのいろんな嘘をつかずにすんで、よかったような…無駄になってしまって残念のような…。まぁとりあえず何も起きず終わってよかったってことで…。いいですか。先生?」

「いや…駄目よ。あなたは校則違反もしたし、そんなことよりも重大な犯罪を犯した。そんな何も起こらなかったからハッピーエンドってことで済むと思っているの?それはちょっと考えが甘いんじゃない。罪を犯してしまう。これは人生の中で避けた方がいいけど…罪を認めて、罪を償うことで、世間の目は少し厳しくなるけど、若気の至りとか言ってどんどん悪い方向に行って戻れなくなってしまう。そうなってしまう事よりは絶対にましな事よ。そうは思わない?」

「…確かにそうですね。その方がいい。その方が私も心がもやもやせずに生きられる。…わかりました。明日にでも警察に行きます。だから…その…銃…返してください。後、警察に行くとき先生にもついてきてほしいんですけど…。」

「わかったわ。私もついて行きましょう。でも、銃は返しません。」

「えっでも、それじゃ…」

「銃は私にあなたがくれたんじゃないの?それに、言ったでしょ。忘れた?
これは私とあなたの秘密ってことで、墓までもっていくことにしましょう。って。」

「じゃ…じゃあなんで先生はあんなことを言ったんですか?」

「え?うーんとね。一応聞いておいたのよ。あなたに反省する気があるのかどうかっていうのをね。だって、反省しました。って言葉だけじゃ信じられないっ言うけどその言葉自体聞かないで、行動で示しなさい。っていうのもなんかひっかかるし、私自身も今すぐにして欲しい行動がないしね。
まぁ今してもらった反省と明日するべき対応を聞くくらい?」

「…な…なるほど。それじゃあ明日警察に行かなくていいってことですね。
あぁよかったぁ。」

「あなた!本当に反省しているの!」

「は~い。反省してま~す。」

「!!赤目さん!」

「…って本当に反省していますよ。先生。だから、その銃…大事に隠しておいてくださいよ。」

「大事に、大事に保健室の奥に隠しておきますよ。というか、私がこの高校をやめない限り、日の目を見ることはもうないでしょうね。
さぁそろそろいい時間よ。夏休み明けにまたこの続きをすることにしましょ?」

「えっもうそんな時間ですか。あっ本当だ。もうすっかり夕方ですね。」

「はいはい。そういうことだから早く帰って夏休みの課題でもしなさい!
課題…順調に進んでいるの?私はこの後あなたが発砲した証拠の隠滅をしないといけないし、そもそも本来、今日学校でしないといけないこともあるし。さぁさぁ暗くなる前に帰った帰った。」

「あっそうでしたね先生。じゃあ私はさっさと帰ります。先生さようなら!」

「はい。さようなら。課題しっかりするのよ~。」

「は~い。気が向いたらやりま~す。」

(って言ってもう全部終わってたりして…)

「あっそうそう。先生言い忘れてました。私、赤目 清子ですよ。狂子じゃないですよ。たしかに響きは似てますが、私そんなに狂ってませんよ。」

「あっごめんなさい。どうやら曖昧に名前覚えていたみたいね。次から気を付けるわ。」

「本当ですよ!次から気をつけてくださいね!あっそれと、これも一応言っておきます。最初の神への問答…。始めっから弾は入っていませんよ。入れる風に見せて、実はただ回してただけですよ。だから、何発撃とうが弾は出なかったんですよ。」

「えっ。ちょ…k」

「だから、先生が戻ってきて弾を入れた時は内心すごく焦りましたよ。
ふぅ何事もなく終わって本当に良かった。というわけで先生、さようなら~夏休み明けにまた会いましょ~。」

ガラガラ…バタン…。

「…」

(…あれ?ということは私…弾の入ってない銃に怯えて、一度現実から逃げたの?それに…階段から落ちて、足をけがして、そのけがの血で服も汚して、一瞬記憶も飛んで…恥ずかしっ!)

「まっまぁ仕方のなかった事よね…知らなかったことだし…そっそれに!彼女の言った通りよ!誰も何も大きなことなんてなかったんだからそれでいい!ハッピーエンド!さっ早く仕事に戻らないと!やることがいっぱいあるんだから!そっそれに、たぶん次、私の番が回ってきても何もなかったはずよ。」

私は自分のこめかみに銃を当ててみる。…やめよう。なんか気分がのらない…。それに、やる意味がないし…。そうだ!虚空に撃ってみればいいかも…そうだ!それでいい。そうしよう。

ダァン!!

「…えぇ…。」

その後のことはあまり覚えていない…。たぶん、今日すべきことをして、彼女とのゲームの証拠を消して、家に帰った…のだろう。たった数秒の…たった一発の発砲音によって、私はあのときのように数分…いや、数時間の記憶を飛ばした。ただ…

あぁ生きているって楽しいい~~~~~~~~!!これがスリル?
それとも別の感情?…あぁそんなことどうでもいいや。
今はとにかく生きてることをかみしめなくちゃ…

この感情だけはなぜか私の耳に一日たった今でもこびりついている。

知らない方が幸せだった…

そんな感情が頭をよぎる…。でも、彼女との会話は楽しかった。それは確かなことだ。だから…

夏休み明けが楽しみだ…。彼女との共通の話題がまた一つ増えた。

そう考えることにしている…。



 

  









   

#創作大賞2023 #イラストストーリー部門

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