英語&翻訳解説【Africa Unite】
まず曲を理解する
エチオピアに旅してリアルなアフリカを体験したボブが、あえてそれを語らずにラスタにとっての心の故郷であり、地上にある天国であるアフリカの統一とそこへの帰還を呼びかけた曲です。
このナンバーが発表されてからもう40年以上経ちますが、現実はボブが歌った理想から遠く離れたままです。いまだにアフリカは国も人々もバラバラです。ラスタによるアフリカ帰還も進んでいません。
永遠にかなわない夢を歌ったナンバーなのかもしれません。
でもボブがこの曲を通じて世界中に蒔いた「種」は多くの実を結びました。
自分たちのことをこんな風に歌ってくれる人がいるんだと知り、心を打たれたアフリカンたちはウエイラーズの模倣からスタートして「アフリカンレゲエ」として知られるサウンドを大陸各地で発展させました。
さらに、この10年ぐらいの間にアフリカ系アメリカ人、アフリカ系イギリス人、アフリカ系カリビアンたちがどんどんガーナを始めとする西アフリカ諸国へ移住し始めています。
理想としてのアフリカと現実のギャップ、黒人としての誇り、ポピュラーミュージックが持つパワー、メッセンジャーとしてのボブのスケールの大きさ・・・様々なことを考えさせてくれる味わい深いナンバーです。
英語表現と訳し方
Africa, unite
Africaに対する呼びかけ文です。
なのでAfricaとuniteの間にコンマが入るのが文法的に正しいです。
Africaはもちろんアフリカ大陸のことですが、この曲ではそこに住む人たちと彼らと血と文化を共有するすべての民を指しています。
広義の「アフリカ人」という意味です。
動詞uniteは「団結する」、「一体になる」という意味で使います。
Babylon
一般的にはメソポタミア地方(現在のイラク)の古代都市のことですが、ラスタがこの言葉を使う場合は、抑圧的な資本主義、物質万能主義に毒された西欧中心の腐った現代社会を指します。
ネガティブな言葉です。
Babylonという闇から脱出するんだというのがラスタの信念であり、基本的生活信条です。
Our fathers’ land
Fathersがダブルミーニングで使われています。
表面的な意味は祖先です。
同時に聖書に記されている父なる神(大文字始まり単数形のFather)という意味を含めてあります。
ラスタにとってアフリカ移住は、単に祖先が住んでいた大陸に戻るだけではなく、神がいる場所(Zion)に行くことです。
How good and how pleasant it would be
旧約聖書に出てくる次のフレーズをボブがアレンジしたものです。
Goodを「恵み」と訳したところが美しいので踏襲しました。
Before God and man
「神と人の面前で」です。
Before the kingと言えば「王の前で」、before an audienceなら「聴衆の面前で」になります。
God and manも聖書に由来するフレーズです。
この箇所に出てきます。
Africans
辞書的には「アフリカ人」ですが、ルーツレゲエの世界では別の意味でこの言葉を使います。
同じ根(roots)を持つ兄弟姉妹だというメッセージを込めて世界中のすべての黒人をAfricansと呼ぶならわしです。
ここで忘れてはいけないのは、ルーツレゲエの外の世界では黒人でない人たちもAfricansと呼ばれているという大事な事実です。
南アフリカ、アンゴラ、ジンバブエ、ケニアといった国で生まれ育った白人も皆Africansです。彼らはwhite Africansと総称されています。
As it’s been said already
Let it be done
このitは the unification of all Africansです。
「アフリカをひとつに」というこれまで語られてきたけれどかなえられなかった夢を今こそ実現しようという呼びかけです。
Children of the Rastaman
ここでは信仰集団としてのラスタファリのメンバーではなく、彼らのようにアフリカの大自然の中で自然と共に生きていた先祖たちを指します。
Childrenには「子供たち」以外に「子孫」という意味があります。
Rastamanは単複同形です。Rastamenとは言いません。
The Iyaman
Rastamanの同意語です。
Higher Manという言葉がジャマイカ式に訛って出来たI-word(ラスタ用語)です。
Herb(マリファナ)の助けを借りて意識や精神が真実に向けて開かれ、「より高いレベル」に到達した人を指します。
We’re grooving to our fathers’ land
Grooveは古いスラングです。
いいリズムに乗って大いに楽しむことを指します。
大昔にはlet’s grooveなんてフレーズもありましたね。
この箇所では、「行き先」であるto以下への移動を楽しむという意味です。
Under the sun
旧約聖書のコヘレトの言葉(Ecclesiastes)に繰り返し出てくる表現です。
日本語版聖書新共同訳では「太陽の下」、「天の下」と訳されてます。
短い方を採用しました。
For the benefit of ~
「~の利益のために」、「~のために」という慣用表現です。
For the benefit of mankind(人類のために)とか、for the benefit of democracy(民主主義のために)という風に使います。
For the good of ~もまったく同じ意味です。
Unite for it’s later than you think
ここではfor以下が「ひとつになる」ための「理由」です。
このitもthe unification of all Africansです。
思い描いたよりひとつになるのに時間がかかってしまってるという意味でIt’s later than you thinkと歌っています。
Creator
大文字の始まりのCreatorは創造主=神のことです。
聖書の神を信じるボブの考えでは、アフリカはアフリカ系の人たちの知恵と努力によって生まれ変わるんじゃありません。神が今存在している矛盾だらけのアフリカを破壊して正しい姿に創り直すんです。
世界の終わりと再生を描いた新約聖書の預言書ヨハネの黙示録に基づいた考え方です。
Forefathers’ cornerstone
Forefathersとは先祖のことです。
Ancestorsと言い換えることができます。
Cornerstoneと言うのは石造りやレンガ造りの建物の土台部分の四隅に置かれた「かしら石」のことです。
壁と壁と組み合わせ、固定する最も大事な部分に置かれる石です。
かしら石であるアフリカが存在しなければ先祖から連なる自分という人間も存在しなかったんだと言っています。
Africans abroad
Abroadは「国外で」という意味の副詞です。
「国外のアフリカ人」とは何らかの事情によってアフリカ以外の場所で生活するようになった移民とその子孫を指します。
African diasporaと呼ばれる主に北中米カリブ海に奴隷として強制的に連れていかれた黒人を先祖とする人たちのことです。
Diasporaは、元々旧約聖書に記されているバビロン捕囚の結果、パレスチナから遠く離れた地で暮らすようになったユダヤ人を指す言葉です。
同じように離散した民を形容するのに使われます。東アジアではChinese diasporaやKorean diasporaなんかが有名です。
Ethiopian diasporaと呼ばれる革命や飢餓や経済的理由で母国を脱出したエチオピア系の人たちも合衆国やヨーロッパには大勢います。
ラスタが見ようとしない世界の現実です。
Africans a yard
Yardは「自国内」という意味のジャマイカ式スラングです。
アフリカ大陸で生活する人たち=アフリカ人のことを指しています。
Yardの前のaには特に意味がありません。
名詞の前にaを入れるのはジャマイカのパトワでスタンダードな形です。
韻を踏んでいる箇所
次の3か所で韻を踏んでいます。
翻訳する上で苦労したポイント
Africansという重層的な意味を持つ言葉を意識的に使った曲なのでこの言葉の訳し方が難しかったです。