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英語&翻訳解説【Put It On】

まず曲を理解する

1965年、まだジャマイカのポピュラーミュージックが「スカ」だった時代に最初に発表されたこの曲は神への感謝をストレートに歌ったナンバーです。英語でdevotional songs、またはpraise songsと呼ばれるタイプの歌です。

教会で神を賛美するために歌われる狭い意味での「賛美歌」=hymnではありませんが、曲のテーマは共通です。

ボブは20代前半から36歳でこの世を去る半年前まで、世界中にラスタの思想や哲学や生き方を広める「歌う伝道師」的な役を務めましたが、実は熱心なプロテスタントだった母親の下、聖書をこころの糧としてキリスト教の信仰と共に育った人です。

そしてラスタも旧約聖書と新約聖書を聖典としています。「聖書を毎日一章読む」信心深い人たちです。

ちなみにこの曲を書いた当時、ボブはまだラスタではありませんでした。これはクリスチャン時代の若き日のボブの作品です。

英語表現と訳し方

Feel them spirit
文章のアタマに置かれるべき主語「I」が抜け落ちています。口語表現です。

Themは標準的英文法ではtheirです。ここでは複数形になっていますが、複数としての意味はありません。意味はtheと同じです。

Spirit
Holy Spiritの短縮形です。聖霊という意味です。

キリスト教の基本教義=「三位一体」の三つの格「父なる神」、「子なる神」、「聖霊なる神」のひとつ、聖霊です。

この三つは同一であり、神はただ一つであるというのがキリスト教の教えです。

三位一体は、英語ではHoly Trinityと言います。

Feel all right now
ここでも主語「I」が抜け落ちています。カジュアルな口語表現です。

Hear me
「聞いてください」というお願いではなく、Can you hear me?「わたしの言っていることが聞こえますか?」と言う意味です。

Gospel musicでもそうですが、神さまへの問いかけです。神は答えてはくれません。それを分かっていながら、それでも苦しいとき、困ったとき、悲しいときにクリスチャンは神に問いかけるのです。

Boast
「自慢する」という動詞です。

同じ意味の表現にbrag aboutというのがあります。She brags about her son=「彼女は息子を自慢する」という風に使います。

Toast
「祝杯をあげる」、「乾杯する」という意味の動詞です。

Toastは名詞としても使います。Give a toast to~で「~のために乾杯する」という意味になります。

ダンスホール・レゲエの世界でも、toastという言葉を使います。まったく別の意味です。「音楽のリズムに合わせて歌うようにしゃべる」ことを指します。

Put it on
Itはspiritを指します。

省略せずに書くと、put the Holy Spirit on myselfになります。

Put ~ onは「~を身につける」という慣用表現です。

Put it onは、「聖霊を自分の身につける」という意味です。

聖霊を自分の中に招き入れて聖霊が持つ聖なるパワーで癒し、導いてもらうわけです。

クリスチャンとして、また後にラスタとして神を賛美したボブの感じ方を表現するために、訳詞ではクリスチャン・コミュニティで定番となっている表現「聖霊に満たされる」を使用しました。

韻を踏んでる箇所

ここ一か所だけです。

I'm not boasting
Feel like toasting

翻訳する上で悩んだ箇所

シンプルな言葉でまっすぐに語る歌詞は、余計な訳語を足したり、言葉を省いたり、不要な解釈を加えたりすると作者の意図から離れてしまいます。

そういう意味で制約が多く、訳しにくかったです。聖書に基づいた標準的用語を使用し、ボブの気持ちを的確に伝える訳を心がけました。

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