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So Much Things to Sayに関するあれこれ


難解な歌詞

前作Rastaman Vibrationは誰がラスタの敵なのか教えるタイプの曲(Crazy BaldheadWho the Cap FitWar)が目立ちましたが、Exodusの前半(LPレコードA面)は敵は自分たちの心の中にいるんだと語る哲学的で難解なナンバーが続きます。

政治的暴力が激化していたジャマイカを離れて安全なロンドンで、銃口を向けられ殺されかけたこと、神によって守られたことの意味をじっくりと考えたことがうかがえるディープな歌詞の数々です。

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Exodus前半部に関する限り、使われている単語やフレーズの理解だけでボブが曲に込めたメッセージを読み取るのは至難の業です。

というわけで今回は「英語&翻訳解説」で説明し切れなかった歌詞の土台=ボブの聖書解釈を少し掘り下げてみようと思います。

なぜ喋りまくるのか?

まずは出だしのThey got so much things to sayから確認していきましょう。

意味はThey talk too muchと同じです。

大事なのは「言葉をたくさん発する」という行為ではありません。何故そうするかです。

空虚な言葉の洪水によって真理(God's truth)を覆い隠し、一体何が真理なのか分からないようにしてしまう。それが「やつら」のやり口なんだとボブは警告している訳です。

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「やつら」とは人間の心に入り込む邪悪な霊のことです。やつらが隠そうとしている「真理」とは人間を幸せにする生き方に関する知識です。

真理を語った3人

曲の中でボブが「絶対に忘れない」と宣言しているイエス・キリスト(Jesus Christ)、マーカス・ガーヴェイ(Marcus Garvey)、ポール・ボーグル(Paul Bogle)はいずれも「人間を幸せにする生き方」を語っていたとボブが信じる人物です。

この3人

そんな3人は全員「裏切り」に遭いました。

イエスは12使徒のひとりイスカリオテのユダ(Judas Iscariot)に、ガーヴェイはお抱え運転手(Bagga Wire)に、ボーグルは山中に住む逃亡奴隷の子孫(Maroons)に裏切られました。

社会通念では裏切った方が「悪い」訳ですが、キリスト教的な考え方では人間は誰もが弱く愚かなものであり、裏切り者たちは悪霊にそそのかされて正しい人間を裏切ったのだということになります。

戦う相手

I and I no come to fight…という箇所も聖書を読まなければ理解できないと思います。

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ここは新約聖書エフェソの信徒への手紙6章12節(Ephesians 6:12)からの引用です。

For we wrestle not against flesh and blood, but against principalities, against powers, against the rulers of the darkness of this world, against spiritual wickedness in high places.

(King James Version)

わたしたちの戦いは、血肉を相手にするものではなく、支配と権威、暗闇の世界の支配者、天にいる悪の諸霊を相手にするものなのです。

(新共同訳)

短くして歌ってますが、内容はほぼ同じです。

I and I no come to fight flesh and blood
But spiritual wickedness in high and low places

(So Much Things to Say)

人間ではなく 天と地の邪悪な霊と
戦うために俺たちは生まれた

(拙訳)

つまり幸せになりたいと願う我々が戦わなければいけない相手は悪い人間ではなく、彼らの心の中に潜む悪霊なのです。

ラスタ式読み方

ちなみにラスタは「選択的」に聖書を読む人たちです。

彼らは奴隷にされて強制的に南北アメリカ、カリブ海地域に連れて来られたアフリカ人の血を引く自分たちの苦難の歴史や過酷なサバイバル体験と呼応する聖書箇所を見つけてそこに意味を見出します。

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逆に白人が自分たちに都合がいいように改変したと感じる箇所は無視して絶対に読みません。

新約聖書エフェソの信徒への手紙では6章5節がそんな箇所です。

Servants, be obedient to them that are your masters according to the flesh, with fear and trembling, in singleness of your heart, as unto Christ.

(King James Version)

奴隷たち、キリストに従うように、恐れおののき、真心を込めて、肉による主人に従いなさい。

(新共同訳)
No way!

話をSo Much Things to Sayに戻します。

なぜ雨が降るのか?

次に説明したいのがWhen the rain fall…というところです。耳に残る印象的なパートです。

When the rain fall
It don’t fall on one man’s housetop
Remember that, when the rain fall
It don’t fall on one man’s housetop

(So Much Things to Say)

実は訳者<ないんまいる>も聖書的な深い意味が読み取れず、最初は書いてある言葉を頼りにこんな風に訳していました。

降りそそぐ雨は
ひとりの屋根だけを濡らすんじゃない
憶えておくんだ
降りそそぐ雨は
ひとりの屋根だけを濡らすんじゃない

(拙訳)

これでは真理を覆い隠そうとする悪霊との戦いという曲のテーマと繋がりません。

唐突に雨の話になってるけど、なんでかな?このrainって何やろ?疑問を胸に何度も聴き直しているうちにピンときました。

ここで登場するrainとは「恵みの雨」のことです。

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そしてそれは神が与えてくれるものなんです。

神が与えてくれるもの=真理です。

ボブが言いたかったことが理解できたので、思い切って次のように意訳しました。

恵みの雨として
真理はすべての人の上に降りそそぐ
憶えておくんだ
恵みの雨として
真理はすべての人の上に降りそそぐ

(拙訳)
これも同じことを言ってます。

毎日一章ずつ新約聖書、旧約聖書を読んで学びを深めていたボブは神学者に引けを取らない聖書知識を持ってました。

悪霊は赦されない

この曲のエンディングも有名なイエスの言葉です。

イエスの最後の言葉

ただし、ボブは聖書に記されたイエスの最後の言葉をまるごとすべて引用していません。前半部分をカットしています。

前半部分とは、Father, forgive them(父よ、彼らをお赦しください)です。

無実の罪で残酷極まりない刑で殺されようとしていたイエスはこの世を去る直前に彼を十字架にかけた者たちを赦すように神に頼みました(ルカによる福音書23章34節、Luke 23:34)。

汝の敵を愛せ(Love your enemies)」という教えの究極の実践です。

クリスチャンが最も大事だと考えるこの言葉の前半分をボブは意図的に省いています。

邪悪な霊は人ではなく、愛されるに値しないからです。悪霊には神の赦しはありません。

ボブは聖書に記された神の言葉にインスパイアされて歌詞を書いていった人です。

これからもていねいに聖書を調べて学びながらそんな彼が残した歌詞をひとつずつ読み解き、訳していこうと思います。

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