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「資金調達しやすいビジネス」ってあるんだろうか?


「僕らの事業は資金調達しにくいビジネスモデルなんでしょうか」

起業家で、こう仰る方にお会いしたこと、沢山あります。逆に「僕らの事業モデルは投資家ウケがいいんです」と仰る方とも沢山お会いしました。

何十回も投資家へピッチしても資金調達がうまく進まず、自分のビジネスモデルへの自信が揺らいでしまったり、資金調達の成功のために、投資家が好むエッセンスでエクイティストーリーのお化粧をしたり・・・といったことがあったりすると思います。

「資金調達しやすいビジネスモデル」ってあるんでしょうか? しばしば起業家との間で議論になるこのトピックについて、今回はつらつらと思うところをまとめてみようと思います。


イントロ:フードデリバリーのスタートアップが盛り上がり中!

本題に入る前に(笑)。世界中の多くの人がコロナ禍で外出自粛を余儀なくされていた中、フードデリバリー系スタートアップが盛り上がっています。Crunchbaseでここ数日の記録をちょっと見ただけでもすぐにいくつか例が見つかりました。

・サンフランシスコのフードデリバリー系スタートアップのDoorDashが約4億ドルの資金調達、バリュエーションは160億ドル弱!(2018年にソフトバンクが出資しているのでご記憶の方もおられるかも!)SECにIPOのファイリングも出しているそう。ただ仮目論見書が開示されていないようなので詳細は不明ですが。Tロウプライスやフィデリティが入っているよう
・同じくサンフランシスコの食料品お買い物代行&お届けサービス、Instacartが約2.3億ドルの資金調達、バリュエーションは137億ドル!

アメリカ以外でも同じ流れはあって、インドネシア初デカコーンのGojek(ライドシェアのスタートアップで、コロナ禍の中、東南アジア各国でのフードデリバリー需要の大きな伸びを享受しているようです)もFacebookやPayPalから4億ドル近い資金調達をした模様。(ちなみに同業でソフトバンクやMUFGからも資金調達したシンガポールのGrabは会社全体でみるとノンコア事業とかがコロナ影響で落ち込みが激しかったようで、全体的なコストカットのうえ、従業員5%のカットを余儀なくされたようですが、フードデリバリー部門については大きく伸びているようです。)

フードデリバリーって、一度は「難しい」と思われたテーマでした

アメリカのフード(テック)系スタートアップが経てきた変遷の僕の中での勝手な印象は、以下のような感じです↓

・数年前にオーガニックフード系が急速に増えて、結構急速にコモディティ化がすすむ。(「オーガニックなのは結構だけど、美味しくないってそもそもどうなの?」的な振り返りもちらほら見られたような記憶があります。)
・その後ミールキット(材料とか調味料のパッケージを自宅にお届け→簡単に調理できる、というモデル)とかフードデリバリー系が色々出てきて盛り上がり、それこそBue Apronとか上場前に20億ドル超のバリュエーションがついていたのが、2017年のIPO後、急速に時価総額が崩れて2年後に株価は上場時のわずか10%以下に下落。
・そのあたりでのミールキットとかデリバリー全体として振り返りは、マーケティング費用をすさまじく投下して顧客獲得自体はしていたので、売上高のグロースはいい感じに見えたけど、CAC(顧客獲得コスト)が実はすごく高くて、とどめにデリバリーコスト(デリバリーしてくれる人たちの人件費ですね)が馬鹿にならないので、粗利から出発すると実はユニットエコノミクスが全然回らんじゃん、と言うことだったかと思っています。
(ちなみに最近のフードテック系の流行りはプラントベースの”肉”とか卵などなど、培養肉とかビヨンドミート系のテーマが多いのかなと理解してました)

こんなわけで、一度は「なかなか簡単じゃないね」という話になったデリバリーフード系ですが、コロナで(meal kitにせよprepared mealにせよ)デリバリーフード需要が爆増したことから、資金調達の追い風が激しく吹いています。(それこそ上述のBlue Apronも今年の3月初旬を境に、株価が5倍くらいになっています。)

コロナの環境下でフードデリバリー需要が高まってCACが下がってる、という話のようであり、デリバリーコストも失業率が高くなっているので多少は下がっているのかもしれませんが、いずれも永続的とは思えないので、このブームが向こう数年でどうなっていくのかな、と注視しています。

本題に立ち返って・・・「資金調達しやすいビジネスモデル」ってあるんだろうか??

 イントロが長くなりましたが(笑)、その時々で、投資家サイドの流行り廃りがあるのは間違いないと思います。コロナ禍みたいな市場激変イベントの追い風を受けるかどうか、というのもあるでしょう。ただ、ブームは去るものだし、それこそ採算がどうやったって回らない、みたいな本質的問題を抱えているようであれば、どこかで苦しい局面はやってくるでしょう。だから、この問いかけに対する僕なりの答えは、「上っ面としてはあるかもしれないけど、それは本質的な問題じゃないと思いますよ」ということ(笑)。

足もとでは、2019年前半くらいまでの、ベンチャー資金調達マーケットがバブルだった時からは、大分状況が変っていて、流行りのテーマに乗ってさえいれば、調達それ自身もバリュエーション交渉もやりやすかった、ということではなくなっているように思います。表面的なテーマではなくて、事業の本質からみた選別が進んでいるのかなと思います(投資家側のみんながみんな、しっかりデューディリジェンスできるケイパビリティがあるわけではないですが)。

だから投資家に好まれるテーマじゃないから、とか、流行りの事業モデルじゃないから、と気にする必要は全然ないだろうと思います。どんなモデルであっても、ビジネスを育てていくことにしっかりコミットして、愚直に正しい努力をしている経営者とチームは強いなあと思います。一昔前は採算なんか二の次で、投資家から調達してきた資金をマーケティングにじゃぶじゃぶ投下し、売上のクレイジーな成長を続けていこう!というプレイも結構見られたように思います。(あと格好いいオフィスに入居しちゃうとか!)ただ、最近では利益がどれくらい出せるのか、というクラシックなんだけど本質的な観点に投資家の関心が回帰しているように思います。シードよりもレーターステージの投資案件が件数として増えているというのも、そういう流れの一部なのかなーとか思ったりします。

もちろん上場審査の観点で、難しい論点が持ち上がりそうな業ってのもありますよね。ただ、そういう難解なイシューがある事業モデルだって、やり切ってそれを乗り越えられれば「参入障壁がありますね」という話になる(みんながみんな、弁護士先生と小難しい論点をコツコツつぶしていくのをエンジョイできるタイプでもないので!笑)。だから、自身のビジネスモデルを固く信じて、一つ一つ問題を解決し、やりきっていくことしかないんじゃないかなと思います。

先日、日本でキャピタリストとして20年近く活躍されていて、これまでの投資で「負けなし」(=投資したベンチャーで倒産したところが1件もない)という、大変実績のある凄い方にお話を伺いました。後進キャピタリストの育成で思うところは「その時々、流行りのテーマにどうしても引っ張られちゃうんだよなー」とのこと。流行りじゃなくて、経営者をしっかり見るという基本に徹しておられるのだそうです。

志のあるところには道が拓ける、ということを信じて頑張っていく起業家の皆さんに幸あれと、心から思います。

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