世界初の性転換手術までの話。映画『リリーのすべて』
こんばんは。きなこもちです。
みなさんは自分の今の性別じゃなかったらよかったのにと考えたことはありますか?男性の方は女性に、女性の方は男性に。私は男に生まれたかったと思ったことがあります。昔はゲーム好きというだけで「女の子のくせに」と言われることがありました。そこは性別関係ないだろと今でも思ってますけど、それなりに苦しんだので、はじめから男に生まれてたらと思うことが多かったです。高校で文系理系の選択でも理系を選びましたし、大学は女性が1割いるかどうかの学部に行きました。けど、なんやかんやあって男性に生まれてた方が私は大変な思いをしたかもしれないと今は思っています。
今回は男性として何の疑問も持たずに生きてきた人が、あるきっかけで女性になることを決意する映画『リリーのすべて』を紹介します。
あらすじ
画家のアイナー・ヴェルナーは同じく画家の妻ゲルダと仲睦まじく暮らしていた。二人は子どもがほしかったので、妊活をしていたがなかなかできずに悩んでいた。ある日、ゲルダが女性の絵画を描くためモデルを待っていたが結局来れなくなったので、冗談でアイナーを女装させて描くことにした。「思ったよりも似合ってる!」と最初はふざけていたのだが、この時からアイナーは少しずつ女性になることを渇望するようになっていった。そしてアイナーはリリーとなるために、普段から女装するようになった。
心の性別と体の性別が食い違うとはどういうことなのか丁寧に描いた作品
テレビでオカマが出てきたり、性転換手術を実際に受けた人が出てきたりを見たことは過去にありました。しかし心の性と体の性が一致しないということがどういうことなのか、この映画を見るまでいまいちわかりませんでした。高校の時に性同一性障害で、女性ホルモンを飲みながら生活している方の公演を聞いたこともあり、その時には「女性の体を自分の体にくっつけたい」と話してて、それも言葉だけだとわからなかったんです。
なるほどなと思ったのはアイナーが夜に風俗に出かけるシーンを見たときでした。お金を払って窓越しに裸の女性を見れる風俗に向かいました。窓越しに裸の女性が体をクネクネさせながらアイナーを誘うようにし、アイナーは女性になりたいから窓越しの女性のポーズを真似してがんばります。しかしそのうちアイナーは興奮してきて男性としては当たり前の反応である勃起をしてしまいます。そのことで自分の体が男性だということを思い知らされて気持ち悪くなって吐いてしまうのです。窓越しの女性はびっくりして部屋を出ていってしまいますが、そのあともアイナーはひたすら絶望します。
ここで理解しました。心と体の性別が一致しないと吐き気をもよおすほどの問題だったのか!と。
この他にもアイナーがカーテンを使って…、とこのへんはご自分で確かめてみてください。
夫の願いを叶えてあげたいが、そのことで離婚することになる不幸
私が見てた中でここが一番つらかったです。ゲルダは誰よりもアイナーを愛していて、それはアイナーがリリーになっても変わりませんでした。しかし、リリーは男性を好きになってしまい、子作りもできなくなり、果ては離婚することになります。リリーもゲルダのことは愛していますが、それはゲルダがアイナーに向けていたような異性への愛ではなくて、女性同士の友情のようなものに変質していくんですね。ここまでの流れがつらすぎるんですよ。夫が目の前にいるのにいなくなるような。
ゲルダが一瞬アイナーの幼なじみの男性・ハンスになぐさめてもらおうとするシーンがあって、これは仕方ないよなと思ったんですが、すぐに我に返って離れていくところも含め、非常に複雑な感情です。
最後のセリフがカッコいい
現在の性転換手術は事実上去勢になってしまいます。男性が卵巣を持つことも女性が精巣を持つこともできないため、膣形成や陰茎、睾丸の形成とホルモンで姿を似せることが限界なのです。それでもアイナーが女性の体ではないことで吐き気をもよおすなど、もはや生命の危機なので、性転換手術の結果子どもを持てなくなるとしても手術を選択する人がいます。とても切実な問題です。昔マツコ・デラックスと有吉弘行の番組でマツコ・デラックスが「工事(性転換手術のこと)は大変すぎる」と話しているところを見たことがあって、あとからやっぱり子どもがほしいと思うようになって手術したことを後悔する人もいるのだそうです。
そこも踏まえて「いつか私のような人が妊娠して子どもを持つことができたら」というセリフが出てくるのです。ここにはとても感動しました。
実はマウスを使って、オス同士メス同士で子どもを作れるのか実験がおこなわれたことがあり、結果可能だということはわかっています。しかし本来オスは精子、メスは卵子を作ることしかできないものを未分化細胞から無理やりオスから卵子、メスから精子を作って受精させているからか、そこから生まれた子どもは通常より短命となることもわかっています。そもそも最近では動物養護観点から動物実験自体を禁止する流れもありますし、本当に人間におこなうとなると倫理的な問題もあって、20、30年かかっても実現するか微妙なところだと思っています。でもこの問題が解決すれば、ゲイカップル、レズカップルの間でも血の繋がった子どもを持てるようになりますし、リリーのように性転換手術を受けた後でも子どもを持つことが可能になるのです。
単に手術してよかったねではなく、その先のことも視野に入れた映画は私はこれが初めてなんじゃないかなと思っています。
おわりに
トランスジェンダーなどLGBTQをテーマにした話は私もまだまだ理解が浅く、少し自分からは遠いと感じます。しかし、これは人間の尊厳をあつかった切実な話なので、より多くの人が理解を深めていろんな人が生きやすい世の中になってほしいです。
ちなみにエディ・レッドメインの女装姿はめちゃくちゃきれいなので、その映像を見るためだけに見てもいいと思います!