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狂気は作れるのか。映画『es[エス]』

こんばんは。きなこもちです。

第二次世界大戦中におこなわれたと言われるユダヤ人強制収容所での数々の拷問や実験。これらは冷静に考えれば人道に反しており、看守を命じられた全ての人が等しくおこなえるような行為ではなかったように思えます。しかし実際に起こってしまった。ではなぜそのような行為がおこなわれたのか?狂気が生み出されるような環境があったのではないか?そういった疑問からスタンフォード監獄実験がおこなわれたと言われています。

今回はスタンフォード監獄実験を題材にした映画『es[エス]』を紹介します。

あらすじ

新聞記者のタレクはある日、妙な募集広告を見つけた。

被験者求む。
拘束時間:2週間
報酬:4000マルク
応募資格:不問
実施場所:大学内模擬刑務所

内容は囚人役と看守役にわかれて2週間模擬刑務所で過ごしてもらうというものだった。高額な報酬と内容から秘密裏に取材して一発当てることを目論み、タレクは自ら応募して、新聞社にも伝えておいた。募集広告を見た人が大勢応募していたが何とか審査を通って、無事潜入取材を開始できることになった。しかし、これが地獄のはじまりだった。

人の心を試す実験

この実験に限らず、人の心を試す行為は基本的にやめるべきだと改めて思う映画です。この実験ははじめから人の心を壊すことが目的となっており、劇中、囚人役も看守役もどんどん壊れていきます。本当なら2週間やりすごしてればよかったのに、役にのめり込みすぎてしまうのです。

壊れると言いましたが、登場人物たちははじめから壊れようと思ってたわけではなく、だんだんとタガが外れていきます。その様子が非常にリアルです。頭の中だけで思い描いてた囚人と看守のイメージ。囚人はヘラヘラしてて、看守の言うことを聞かない。看守は規則に厳格で、意地でも守らせようとする。そのうち体罰をはじめる。罰に囚人はより反発する。そして看守の罰則がより厳しくなる。お互いの感情が逆なでされる方向にフィードバックしあう状況が生まれていきます。

正直なところ、実際のホロコーストの現場がこれと似ていたかは疑問です。はじめから武力で制圧され、抵抗することができなかった人々がヘラヘラしてたとは思えないからです。しかし、看守側の「力を持った」と錯覚する様子はありそうに思います。力で制圧し、相手が自分に反抗できないことによる優越感。これがどんどんエスカレートしていくところが非常に気持ち悪いです。

スタンフォード監獄実験の是非

実はスタンフォード監獄実験の結論は怪しい点がいくらかあります。監獄実験そのものは映画の設定と同じなのですが、実験を監督した教授陣から積極的に看守側に指示があったとか、被験者の一人が発狂したふりをしたとか、いろいろな疑惑が出てきてしまったのです。こうなると実験としては結果を信用できません。

また同じ監獄実験をおこなったら同じように人間が囚人/看守の役にハマりすぎてしまうのか(非個人化)、絶対的な権威に服従してしまうのか、クイーンズランド大学がイギリスのBBCのバックアップを受けて同じ実験をおこなったところ、スタンフォード監獄実験で言われていた非個人化や権威への服従が見られなかったそうで、スタンフォード監獄実験の結論を一般化するのは危険だと言われています。

とはいえ、この実験は人間の尊厳を壊す可能性があるわけで、BBC監獄実験がスタンフォードのものと違ったとしても、何度もやるべきものではないと思います。そもそもこんなのやろうと思う神経がどうかしてると思いますが。

おわりに

実際に見ると、この記事の内容読むより数十倍気持ち悪いです。この映画を見るときは心安らかで、あっちょっと気持ち悪いものも見たいなーなんていう余裕があるときに見ましょう。


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