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育児と親のキャリア。映画『クレイマー、クレイマー』

こんばんは。きなこもちです。

私は恵まれていて、夫も子育てを一緒におこなっていて、保育園の送り迎えもやるし、ご飯を作るし、お風呂も入るし、寝かしつけもします。ですが世の中そんなことはない家族もたくさんあるわけで、少しずつたまった不満がじわじわと家族に亀裂をもたらすことがあるわけです。

今回は突然の破滅からなんとか立ち直るためにがんばる家族の姿を描いた映画『クレイマー、クレイマー』を紹介します。

あらすじ

仕事一筋の男テッド・クレイマーは妻のジョアンナ・クレイマーに家事と育児をすべて任せていた。ある日、ジョアンナが一人息子のビリーを残して家を飛び出した。突然のことに困惑しつつ、これまでやってこなかった家事と育児をなんとかこなしていった。しかしシングルファーザーの状態で仕事も育児、家事もがんばるというのはテッドの想像を超えてはるかに大変であり、そのうち会社からもクビを言い渡された。

ここで、すでに離婚していたジョアンナが養育権を争う裁判を起こした。離婚手続きを進める中で、置いていったビリーの養育権を一度はテッドに認めたにも関わらず、ジョアンナの生活基盤が安定したタイミングで母性を元に取り返そうとしたのだった。

こうしてクレイマーvsクレイマーの戦いがはじまった。

現在にも通じる普遍的な内容

1979年の映画ですが、内容はとても普遍的です。仕事をして家にお金を入れてるからいいだろうと主張する夫と、そのままでは自分のキャリアが常に犠牲になると主張する妻。この映画をはじめて見たのは高校生だった気がしますが、この映画を見て「絶対に子どもができても働こう」と心に決めたことをよく覚えています。実際に子どもができて育てている今、共働き前提で生活できる人と結婚してよかったと思う一方、母は私をどう見てるのだろうなと思うことがあります。

私の母は専業主婦でした。私の母の世代だと今よりずっと専業主婦が一般的で、母自身、仕事を辞めることにさほど抵抗はなかったらしいですが、対する私の行動は母に「そんなんじゃダメよ」と言ってるようで、ちょっと引っかかってたんですよね。母は「時代の流れを思えば、あなたが働くのは正しい」と言われましたが、気にはします。今でも専業主婦が悪いとは思ってません。私が選ばなかっただけです。

『クレイマークレイマー』を見ると離婚の可能性もありますが、死別の可能性も頭をよぎりました。一方が何らかの理由で働けなくなったとき、もう一方にキャリアがないこと自体を私はリスクと捉えています。そのことをよく考えるきっかけとなったいい映画です。

テッドは悪い父親なのか?

私から見ると、テッドの悪かったところは仕事一筋だったことではなくて、ジョアンナとビリーを無視し続けたことだと思っています。本人は仕事をすることで家族に報いていたつもりだったようですが、その仕事がどういった犠牲の下で成り立っていたのか気にも止めなかったことが一番まずかったように思います。世の中、わかった上で無視する人もいるので、無視できなくなってからのテッドはビリーのことは大切に思っていて、彼なりに少しずつ向き合っていくので、父親として悪いとはあまり思えないです。

この映画は個人的に仕掛けが見事だと思っていて、前半はジョアンナかわいそう、テッドはひどい男だと思わせるんですが、テッドがビリーの子育てに少しずつ慣れていき、それでもうまくいかなくて会社もクビになってからのジョアンナの裁判で、ジョアンナが一気に悪者に見えるようにしてあるのです。もちろんジョアンナも必死で仕事を見つけてきて、これならビリーとも暮らせると基盤を作った努力があるのですが、そのへんのジョアンナの努力は映さずに、テッドが親として成長しビリーに懐かれるまでのストーリーを押し出してるんですね。テッドとビリーの絆をジョアンナが壊そうとしているように見せるのです。つまり、どちらにも言い分はあるわけです。

これがもしジョアンナの努力だけを見せていたら、裁判の結果に疑いの余地などないと思います。しかし離婚裁判に限らず裁判というのは、やはり双方の言い分を等しく見て、その上でどちらの言い分を採用するのかがポイントなので、どちらにも良い面悪い面があるところを見せて、裁判の難しさを表現しています。そしてその裁判で争点となっている養育権について、ビリーはほとんど出てこれない。この権利の非対称性もこの映画のポイントです。

ちなみに『クレイマークレイマー』というタイトルは英語だと“Kramer vs Kramer”でして、同じ名字だった者の争い、離婚裁判(この映画の実態としては養育権裁判)を表しています。まぁ日本語タイトルでvsつけると、なんか『ゴジラvsモスラ』みたいに怪獣映画で使われすぎてる気がするんで、響き的にもvsはなくていいかって誰かが判断したんでしょうね。

おわりに

この映画を見た上で専業主婦を続けられる人はメンタルがタフだなぁと思います。しかし、理由があって働けない方もいるので、専業主婦だから悪いとするのは早計です。一方、専業主婦で働いてる夫にやたら強く当たる人もいると思います。私の知り合いにも「夫が働くのは当然で、私は家でゆっくりしてたい」とはっきり言ってる人がいました。家でゆっくりしたいのは、たぶん夫も同じじゃないのかな、やっぱり何とか助け合いたいなぁと私は思いますね。


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