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2020年最高の問題作「虫けら掃討作戦」

今回の映画評論では、2020年一番の問題作。Netflixの「ブラックミラー シリーズ」より『虫けら掃討(そうとう)作戦』を評論する。

ブラックミラー シリーズ

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ブラックミラー シリーズとはNetflixから配信されている近未来者の作品集短いものは40分、長いと90分くらいになる。今回はシーズン4から『虫けら掃討作戦』を取り上げる。

まずこの短い動画を見て欲しい。

ストーリーの概略

時代は2100年代と思われる近未来。第三次世界大戦の後の様な荒廃した地域と綺麗な軍事施設が分かりやすく貧富の差を表している。この映画の世界は人口が少ない。理由は明確に述べられないが大量虐殺により人口が減ったと思われる。

主人公は若い陸軍兵、初めての任務で虫けらと呼ばれる怪物を討伐しにいく。虫けらは数年で数百万人討伐されており、主人公の初任務はその残党を討伐しにいくことであった。現地につき建物の中で2匹の虫けらを討伐する。その際、虫けらの持つ「特殊な懐中電灯」によって目を照らされる。

他の隊員に褒められながら軍事基地に帰る主人公、しかしその後体調が徐々におかしくなる。次の任務は前回取り逃した虫けらの巣に攻め込むことだった。主人公は女性の隊員二人と攻め込むが一人が死亡。もう一人の女性隊員と建物の中に攻め込む。

しかし、虫たちはおらず、兵士に怯える人間だけが存在していた。彼らに逃げる様に言う主人公。しかしその後、主人公が逃した人間が女性隊員に射殺される。主人公は「なぜ人間を殺すんだ!?」と女性隊員に怒る。しかし、女性隊員は逃げ惑う人間を殺すことをやめない。

主人公は女性隊員を殴り気絶させ、生き残った人間達を逃す。しかし、女性隊員を殴ったときに女性隊委員に銃で腹を打たれた主人公は気を失ってしまい気付くと近くの廃墟にいた。そして共に逃げた人間たちによって治療され命を助けられた主人公はその人間たちから以下の衝撃的な真実を聞く。

「ある時国家主導でDNAスクリーニング(遺伝子検査)が行われ、その結果DNAが原因で病気や疾患になりやすい人たちが特定された(以下:欠陥DNA保持者)、そしてメディアやSNSは彼らを大々的に叩き、彼らは「虫けら」と呼ばれる様になった。そして政府主導で劣化したDNAを未来に残さないために彼らを絶命させるために軍部が送られる。

その際兵士達は脳内にシステムという、欠陥DNA保持者を見ると欠陥DNA保持者の彼らが怪物に見える様にする機械を埋め込まれる。本当は人間ではあるが兵士の目には彼らはただの怪物にしか映らず、言葉は叫び声にしかならず、彼らの匂いもしない。

同じ人間を殺すのであれば、罪悪感を感じるだろう兵士たちも怪物なら全く躊躇なく殺せる。システムはまさにその罪悪感である精神的ストレスを減らすために脳に埋め込まれたのだ。なぜ主人公が「虫けら」である彼らを人間として見ることができたかというと、前回虫けらを2匹殺した際に「虫けらの持つ「特殊な懐中電灯」によって目を照らされており、その懐中電灯は脳のシステムを破壊する効果があったからだ。

この真実を知った主人公は途方に暮れる。今まで自分が殺してきた「虫けら」は自分と同じ人間で、唯一の違いは欠陥DNAを保持しているということだった。その後、気絶させていた女性隊員が追いかけてきて、彼女の目から見える虫けら二人は殺され、主人公は仲間に危害を加えた件で逮捕される。

収監された主人公は最後にドクターから以下の真実を聞かされる。
「君たちが殺しているのはただの人間だ。だから彼らに何の罪悪感も無くすために君たちの視覚をシステムでいじっただけだ。強制ではない。君が入隊の際に契約書にサインした。」と。

ナチスホロコーストと虫けら掃討作戦の類似点〜合理性の観点から〜

本節では第二次世界戦中のナチスのホロコーストと本作虫けら掃討作戦の類似点を合理性の観点から論じる。

先に第二次世界大戦中に行われた通称ホロコーストについておさらいしておこう。第二次世界大戦中、アドルフヒットラーを党首とする国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP、ナチ党)はユダヤ人を中心に、共産主義者、同性愛者、身体障害者、精神薄弱者を約600万人を大量虐殺した。前半は主に銃殺、中盤から後半にかけて毒ガスによって大量に殺害した。

殺したドイツ人は兵士ではなく普段は農民、商人、下級役人の息子、老後生活を送っているで俗にいう”普通”の人々だった。当初、任務を知らされず銃を渡されて上司の命令に従い殺害を行った彼らはその罪悪感から精神的な障害をきたし任務を降りた。

当時の大隊長は「神よ、どうして私にこの様な任務が下るのでしょうか!」と嘆き、現場での射殺を命じられた人たちは任務終了後、罪の意識に苛まれ、その後二度とそのことについて語ることはなかった。

ここで重要なポイントは殺害方法が序盤の射殺から、毒ガスによる殺害に変わった点だ。

なぜ殺害方法が毒ガス殺害に移行したか。その理由は大きく3つある。

第1には、一度にたくさんの人が殺せるからだ。→殺害の合理性の追求
第2には、大量虐殺を外部にもらしにくく、隠蔽しやすい。→問題がバレると邪魔が入り殺害効率が落ちる。→殺害の合理性追及
第3には、責任転化をおこし心理的負担を減らせるからだ。銃の射殺では、殺した対象との因果関係が明確なので、”自分が殺した”意識が非常に強くなる。その様な場合人は心理的負担が大きい。毒ガスの場合は、ユダヤ人を運ぶ人、現場で案内する人、名簿をとる人、毒ガスのボタンを押す人、といった様に分業により責任が分散され、責任転化しやすい。僕は悪くない、ただ〜をしただけだ。と言う正当化が神的負荷を抑える。
そして、なぜ心理的負担が軽減されることが望まれるかと言うと、合理的に殺害を行うためには、人員の確保が重要である。人員が病欠や脱落するとまた人員を補給する必要がありその分手間取ってしまう。タイムロスが生じる。人員のメンタルの負担を減らし、いかに効率的に殺害を起こすかが最も重要で、そのために毒ガス室が設置されたのだ。すなわちこれも合理性の追及だ

以上三点の理由により、銃殺から毒ガス室へ殺害の方法が変更された。
これらは全ていかに”合理的に効率的に殺害を行うか”という目的のために行われていた。

ナチスユダヤ人虐殺と本作の虫けらの共通点は第3の目的の心理的負担の軽減と同様の心理的構造を利用した点にある。

欠陥DNA保持者を怪物に見える様にし、兵士の心理的負担を抑えた。なぜその様にしたかと言うと効率的に欠陥DNA保持者を駆逐するためだ。
それは人理的負担を抑えるために毒ガス室を利用したことと同じ構造だ。すると以下の様に言える。

毒ガス室≒システム(心理的負担を減らすために重要)


今回の虫けら掃討作戦で、もう1つ重要なセリフが最後の主人公とドクターの会話のセリフに現れている。それはドクターが人が人をもっと殺せる様に「健康管理もした」というセリフだ。

この健康管理が意味するものは、兵士の体調面及び心理面が崩れない様に手厚い保証をしていたことを意味する。もちろん体調管理をした理由は、優しさからではなく合理的に殺害を行う人員を確保するための合理的戦略なのだ。

実はナチスにおいても、最も辛い作業とされる大量の死体から金歯を抜く作業や死体を消却する作業を行ったユダヤ人は心理的負担が大きいためパン、ソーセージ、肉だけでなく酒も大量に与えられ部屋も他の隊員とは違って一人部屋を用意さえれた。この様にして、過酷な作業を行う隊員に徹底的なケアがなされていた事実は博士のセリフの意味を一層深く、ナチスのホロコーストの論理と結びつける。
殺害の理性のために兵士は徹底的に管理されているのだ。

現代日本における優生思想

◎優生思想とは優生思想 優生学とは,「人類の遺伝的素質を改善することを目的とし,悪質の遺伝的形質を淘汰し,優良なものを保存することを研究する学問」である(『広辞苑 第6版』岩波書店,2008)。


実は今回のこの映画を問題作とした理由はここにある。この優生思想をテーマに扱う作品は現代ではタブー視されているからだ。優生思想はいけませんよ〜とする世論や評論はあったとしても、その実優生思想的な発送は着実に進んでいる。例えばこの様なツイートがそうだ。

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この様に、すでに私たちの中では、良きDNAと良きDNAの場合、良きDNAをもった子供が生まれることが認識されている。

優生思想の成立の条件は主に4つある。

A:DNAによってその人間が決まるという概念
B:DNAが良い方が良いという発想≒悪いDNAは良くない
C:ならばよくないものはいない方がいい ←★
D:実際に劣等としたものへの社会的排除
この4つが揃って=優生思想である。

すでにDNAという概念は多くの人間に共有されている。そしてそれには優劣があるという発想は今日の上記の様なツイートを見る限り社会でも一般的に暗に認識されているだろう。当然良きDNA×良きDNA=良きDNAの方程式が成り立つのであれば逆に悪いDNA×悪いDAN=悪いDNAも無条件に成り立つ。よって今日の現代日本ではAとBの条件は揃っているだろう。

問題はCである。彼らを排除するか or 彼らと共存するか。
実は優生思想のポイントはこのCの部分にある。これは障害者の議論と同じで、排除型か強制型かということだ。排除型の優生思想は多くの人が否定するだろう。それはやりすぎだと。そしてDに関して現在日本では政府主導で行われてはいない。

この様な前提で考えると
現代日本ではABの条件は揃っているが、CDの条件に関しては成立していない。

以下では虫けら掃討さくせんの世界ではCとDの条件がどの様にして成立したかを考えたい。この『虫けら掃討作戦』の世界では以下の様なステップがとられた。

①政府主導のスクリーニング検査が行われた。
         ↓
②それにより科学的にDNAに欠陥がある者が公表されメディアとネットで「遺伝的な欠落があるから、血統をたやすべきだ」という意見が吹き荒れた。
         ↓
③政府主導で緊急措置がとられ、その結果この虫けら掃討(そうとう)作戦が起きた。

今日の日本でこの様なことが起きるかを最後に考えたい。

まずこの場合
①政府主導のDNAスクリーニングテストは日本で起きる確率は非常に高い。なぜならそれは現在内閣主導で行われるsociety5、0プログラムの中核であるムーンショット計画の医療分野の政策”超早急検診”がそれにあたるからだ。
ここでは長く説明しないが、超早期(生まれる前)に未来の発癌リスク、あらゆる身体的精神的疾患のリスクを見極めるためにはDNAスクリーンングは必須だ。

国民は自分が良いサービスを受けられると思い多数が賛同するだろう。そして企業も個人情報をできるだけ把握したいのでDNAスクリーニングを受けた人を優先的に採用するようになるだろう。そうすると、個人の自由意志の問題ではなく社会的要請によりスクリーニングを受ける必要に迫られ、DNAスクリーニングは全員が受けることになる。

②、①によって得られた情報が公表されると差別が起きる。ここまでのシナリオは容易に考えつく。しかし個人のDNAの情報が公開されるなどが現在日本で起きた場合大問題になるだろう。当然政府は転覆し、圧倒的な勢いでデモも起きるだろう。
しかし、プライバシーの権利は憲法に規定がないのでこの様なことも考えて早急に憲法に個人のプライバシーを漏洩させないという条項を作るべきである。

③に関して考えると、③は②を必要条件とするので実際には難しい。また例え公表されても現実的に憲法が最低限機能して基本的人権の尊重が守られていれば、排除を実行することはないだろう。
ただ一部のネットではDNAスクリーニングによって欠陥があると疑いのかかるものに対する差別や隔離、断種への脅迫は必ず起きるだろう。DNAスクリーニングによって私たちは私たちを守れるのか。

排除型/共存型の倫理問題

この映画を機にもう一段深く考えたいことは。倫理の問題である。倫理とは未来に良き世界を残そうとする価値観の議論である。この論評の延長戦では私たちは主に2つの倫理的未来を設定することができる。

①欠陥DNA者の血統を根絶やしにして、未来欠陥DNAが生まれない社会を作ること。
②欠陥DNA者をも包括する社会を作ること。

①排除型:は完全に優生思想そのもので、優生思想に基づく世界を作れるかもしれないと思うかもしれないがそれは不可能だ。なぜならスクリーニング機能がさらに精度を増せば、残ったものの中でまた欠陥DNAを見つけ永遠にこの渦は止まらないからだ。
しかし、今日の様な社会が分断され個人主義が横行したの先の世界では、未来の社会の多様性、包摂性のインセンティブは確実に欠如しているので①の方向に進みたいが、憲法や道徳が邪魔をしている。この様な状況が続くだろう。そしてこちらがどちらかと言えばリアルな未来社会だろう。

②共生型:本来はこちらに進むべきだ。ヒトラーの経験を生かし、DNAよりも環境的要因を重んじ、その環境のクオリティー向上を目指す社会設定に重きを置くマインドを国民が共有する必要がある。これには基礎的な教養と本当の意味での多様性と平等性を築きあげようという精神が必要条件になる。歴史のバトンを受けとめそのためには歴史を学ぶ必要があるだろう。そして未来私たちが誇るべきリソースとして語れるのは確実にこの共生型だろう。

考察

ここまで、ナチスとの関連、合理性、優生思想、排除型、共存型と多くの視点でこの『虫けら掃討作戦』を見てきたがまだまだ語り尽くした気分だ。この『虫けら掃討作戦』は非常に興味深い示唆を含んだ映画であり、今日の着々とすすむ優生思想のタブー視にもう一度正面から向き合わせてくれる作品だ。本当にブラックミラー は何個私たちにヒントをくれるのだろう。素晴らしい。
今後も映画評論をしていくのでぜひ、この評論が何かの足しになったと思う人はフォローのほどよろしく願いお願いいたします。

お読みいただきありがとうございました。



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