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私を作った本たち②

前回の続き。
まだの方は前記事を先に読むことをオススメします。


6. 火車

クレジットカードが巻き起こす人間の性
著:宮部みゆき 出版:新潮文庫

学生の頃、ゼミの教授から、「あなたは歴史物ばかり読みすぎて視野が狭い。もっと現代物を読め」と言われてオススメされたのがこの本でした。
クレジットカードを巡る殺人事件を元にした小説で、借金、自己破産、消費者金融と誰にでも起こりうる現象に鳥肌が立つ作品です。この本がきっかけでクレジットカードを作るのが怖くなり、作成したのはつい最近です。

主人公で刑事の本間俊介は、亡き妻の親戚である栗坂和也からとある依頼を受ける。その依頼とは、婚約者の「関根彰子」という女性を探して欲しいというもの。以前、栗坂が「関根彰子」にクレジットカードを作るように薦めると、審査の段階で彼女が自己破産者であることが発覚し、それから姿を消してしまった。本間は栗坂から提供された身体的特徴や性格などの情報を元に「関根彰子」に自己破産処理を行った弁護士や職場を訪ねるが、栗坂の情報にある「関根彰子」と彼女の痕跡がある場所の「関根彰子」の情報が一致せず、「関根彰子」という女性は誰なのか。というのが大元になります。

少しだけネタバレをすると、本物の「関根彰子」は既に死亡しており、借金に苦しむとある女性が身寄りのない孤独な女性を殺害して戸籍を奪い、借金取りから逃亡と殺人を繰り返しているという話なんですね。
最終的には本間が追い詰める結果になるのですが、背筋が強ばる衝撃展開で幕を閉じます。



7. 英雄の書

「英雄」とは何か。
著:宮部みゆき  出版:新潮文庫

「英雄」と聞くと、名誉ある人、凄い人、正義の人とポジティブなイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、「英雄」とは善と悪の表裏一体の存在なのです。例えば、かの有名なナポレオンは祖国フランスでは「英雄」として扱われていますが、フランス以外の国では彼を「侵略者」として評価しています。今作は「英雄」とは何か。ということに比重を置いています。

小学5年生の森崎友里子は、中学生の兄である大樹が同級生を殺傷し、姿を消すという事件が起きたことを知り愕然とする。大樹を探すべく彼の部屋に入ると、大樹が大叔父の別荘から持ち出した赤い本が友里子に話しかけてきた。「君のお兄さんは、“英雄”に憑かれてしまった」
友里子は大樹を探すべく、失踪に関与していそうな“英雄”がいる無名の地へと旅立つことになった。という話です。

宮部みゆきさんの小説の中でも賛否両論分かれている作品です。私も最後の下巻を読み終わった時に釈然とせず、モヤモヤが残りました。正直、ハッピーエンドの終わり方ではありません。
モヤモヤは残りますが、「英雄」の固定概念が覆されます。



8. PLATONIC  SEX

ただひたすら、「愛」が欲しい
著:飯島愛  出版:小学館文庫

2008年にこの世を去った元AV女優でタレントの飯島愛さんの半自伝小説。
私は彼女をテレビで見て、お色気ムンムンのタレントとしての側面しか知りませんでしたが、この本を読んであまりの壮絶な過去に驚きました。

彼女の生家は裕福で、所謂いいとこのお嬢様でした。学校もレベルの高いお嬢様学校に通っており、成績も悪くはありませんでした。しかし、彼女に対する厳しい教育が施されていました。学校の成績が下がれば暴力を振るわれ、毎晩の食卓では親からの怒号が響き渡り、頑張って勉強して成績を上げても親から認めて貰えず、むしろ怒鳴られると言った、今で言う典型的な毒親の元で育てられる。
そんな彼女は家出をし、街中で見つけた彼氏と肉体関係を持ちながら彼氏の家に居候し、彼氏と別れたら別の男性の元へと渡り鳥な生活を繰り返します。
両親から貰えなかった「愛」が欲しくて複数の男性と関係を持ち、薬、援助交際、水商売、そしてAV女優へと様々な経験をすることになります。
「飯島愛」という芸名も当時所属していた水商売のママから「みんなから愛される子になるように」という願いが込められて付けて貰った名前だそうです。

「愛」が欲しくて、自分を見て欲しくて様々な男性と肉体関係を結び、最終的には裏切られ、ボロボロになりながらも「愛」を求める彼女の姿に何かグっと来るものがあるのではないでしょうか。
この小説を読破後、涙が溢れていたことを思い出しました。




9. 蛇にピアス

痛みさえも、私の一部
著:金原ひとみ  出版:集英社

第130回芥川賞受賞作品であり、吉高由里子さん主演で映画化もされています。私は痛いのが嫌で耳にピアスすら開けられないという状態なのですが、その痛みを得て生きていることを実感させる作品です。

生きている実感が得られない19歳のルイは、舌を2つに裂けさせるスプリット・タンと背中に龍の刺青を持つ男性アマと出会う。彼と触れ合ううちに恋人同士になり、ルイもスプリット・タンと刺青に興味を持ち始め、アマと懇意にしているシバさんと出会う。シバさんは人体改造を行う怪しいお店を経営しており、ルイは彼に舌にピアスを開けてもらい、どんどんピアスを拡張していき、その時の痛みが病み付きになる。ルイは背中に龍と麒麟の刺青を彫って欲しいとシバさんに依頼し、シバさんは報酬としてルイと肉体関係を求めるようになり、秘密の関係が続いていました。ルイはシバさんと逢瀬を重ねる中で突然アマが失踪したことを知り、その後アマは無惨な死体として発見されたという話です。

私の友人にリストカットをしている人たちがいましたが、今作もそれに近い心境なのではないでしょうか。無気力で生きている意味が実感出来ず、痛みがそれを実感させる。
アマは誰に殺されたんだとか、謎が残っていますが、犯人はあの人なんじゃないかや動機はあれなんじゃないかと考察が飛び交っているのを見るのも面白いです。終盤で、ルイがアマの歯を砕いてビールと一緒に流し込むシーンは、何とも言えない気持ちにさせられました。




10. 刺青

お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ
著:谷崎潤一郎  出版:青空文庫

文豪で誰が一番好きと聞かれれば、真っ先に谷崎潤一郎と答えます。
こちらの作品は青空文庫で0円なので、即読んで欲しいと言いたくなる作品です。

元浮世絵師の清吉は腕の良い刺青師。理想的な肌と骨格を持つ美女に刺青を施して己の魂を刻みたいと願っていましたが、都合良くそんな女人は現れず、日々退屈な日常を過ごしていた。しかし、ひょんなことから料理屋の前で籠のすきまから女の白い足が見え、それを見た清吉はこの女が理想的な女人であると直感し、彼女を拉致して麻酔を打たせ、半ば無理やり背中に女郎蜘蛛を彫った。
麻酔から目覚めた女人は魔性の女になっており、喰われたのはどちら?という終わりで幕を閉じます。

もう本当にこの作品は耽美な作品で、私の好みのドストライクを決めてくれました。文章がとにかく美しく、あっという間に谷崎ワールドの中に引きずり込まれます。



まとめ

以上、10冊が「私を作った本たち」になります。
正直、気に入った作家買いをする傾向にあるので、読む本が割と偏りがちになります。必然的に読むジャンルも偏るので、友人からは恋愛小説を読まなさすぎだとか、先生から現代物を読めと言われます。
中でも恋愛小説や自己啓発系、哲学の本は弱かったりするので、オススメの本があったら教えてくださいね!

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