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みんな誰かを殺したいほど羨ましい

この小説を書くために、私は黒歴史を過ごしたのかもしれない。
暗闇から見つめる光はあまりにも眩しくて、羨ましくて、憎くて、そして、美しかった。

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ミステリ小説『みんな蛍を殺したかった』が発売されて、一週間が過ぎました。
これは、多岐に渡るジャンルで少女を描いてきたからこその、私の集大成だと思う。
でもこの作品は「イヤミス(嫌な気持ちになるミステリ小説)を書いてみませんか」というオーダーがあったので、決して性格のいい作品ではない。
前作の「これは花子による花子の為の花物語」を読んでファンになって下さった方は、優しい気持ちになれる小説を求めてくれていたかもしれない。
今作はタイトルからして闇深い小説であることが読み取れたとは思うけれど、感想が届きはじめて実感したのは、自分が思っていたよりも、この小説は人の心を抉ってしまう力があるということだった。
自分の中にある痛みをぜんぶ吐き出すように書いたのだから、当然かもしれないし、それだけ伝える筆力が上がったということは喜ぶべきなのだと思う。
今私は、「みんな蛍を殺したかった」から文章を引用すると、

「優しさにあふれた物語とは真逆ともいえる、この痛みを訴えるような物語に、蛍はがっかりするかもしれません。けれどもう、どう思われたとしても、この小説を読んでほしいと――そう願ってしまったのです。」

そんな気持ちだ。
「みんな蛍を殺したかった」は、自分の心の痛みと戦いながら書いた。
去年、何を見ても何を読んでも、前向きに生きられなかった。
何もできなくて、ソファに寝転がりながらYouTubeを見ているだけで一日が過ぎたりした。
家族という味方がいて、猫が生きているだけで十分幸せなはずなのに、周囲の活躍や充実ぶりを見るたびに、劣等感で死にたいと何度も思った。
自分なんて無価値だと思うと、こわくてSNSはひらけることもできなかった。何かを一つつぶやくことに、一週間かかった。
大好きだった人から、辛辣な言葉で「あなたはこういう人間」だと決めつけられることが続いたり、嘘を吐かれたりした。
自分が好きだったものが、次々と奪われて、汚されていく感覚が、辛かった。
とにかく私は、どうしようもない闇の中にいた。
だからこそ、光を求めて「みんな蛍を殺したかった」を書いたのだと思う。
こんなタイトルだけど、誰かを殺したいと思ったことはない。
ただ、「いい人間なんかじゃなくてもいい」と言いたかった。
誰かを羨んだり、誰かになりたいと思ったり、嫉妬したり、比べたりしまうのが辛いのは、あなただけじゃないと言いたかった。

私にとって、「痛み」と「愛」は、永遠のテーマだ。
私は7歳のある日、母親に置き去りにされ、それからは、父と祖母に育てられた。
母親から連絡がくることも、二度と会いにきてくれることも、なかった。
けれど、どんなにひどい親でも、子は愛されたいと願うもので、そして一度でも愛された記憶は消えることはない。
きっと私は、いつも愛に飢えていた。
いちばん愛されたかった人に愛されなかった世界に絶望しながら、生きていた。
でも、徐々に大人になり、血の繋がっていない誰かを好きになり、好きになった人から奇跡のように愛されることで、世界は輝きはじめた。
痛みとは、何かを愛したからこそ感じるのだと思うし、優しさを知ることだと私は思う。
だから、「みんな蛍を殺したかった」は悲劇であるけれど、それだけじゃない。
光を見つけるために、闇を描いたんだ。

これからも私は、自分の中にある闇も光もぜんぶ、隠さずにいたい。
自分から生み出した言葉だけが、本当の物語を作る材料になる。
小説家として生きていくというのは、自分をよく思われたいとかそういうことじゃなく、自分が感じたこと、憧れていたもの、生きてきたすべてを土台にして、物語として魅せることだと思う。
言わずもがないちばんは、自分の主張じゃなく、物語(エンタメ)として面白いかが重要だけれど。

今回、ミステリを書いたのは初めてだったけれど、構成を考えたりするのは、とても楽しかった。
花物語でも仕掛けたけれど、伏線を回収するのはもはや趣味だ。
ミステリ作家さんたちが、見事だと言ってくれてうれしかった。
叶うならこれからも、ミステリを書きたいなと思う。
勿論、心が生きていたいと叫びだすような花が開くような恋愛小説も。
ちょっぴりホラーとかも。
そしていつか自分を心から愛せるようになったら、誰の心を温められるような物語を届けたい。

この世界に、本というのはほんとうに無限にある。
そして毎日、膨張し続ける宇宙のように、たくさんの新刊が出続ける。
それら一冊一冊に魂が込められていて、だから、新刊としていい場所に飾られるのはほんの一瞬で、飾られ続ける本はほんの一握りだ。
私の小説など、一週間もたたないうちに、棚刺しになったりする。
あれだけ時間をかけて書いたものが、一年も経てば消えてしまったりする。
そんなふうに売れないと涙がでるし、私の小説なんていらない、死にたいとか思う。
それでも私は、どうしようもなく、小説を紡いでいるときだけ息ができる。

私の小説を見つけてくれて、読んでくれて、ほんとうにありがとう。

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✉冒頭

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私をオタクにして救ってくれたCLAMP先生に愛を込めて。
木爾チレン

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