木村央志[ゲームデザイナー]

ゲームデザイナー木村央志がゲームデザインや表現全般にわたって思いつくままに綴るノートです。新作『クーロンズリゾーム』の設定裏話やネタ元などもここで開示していきます。 前作『デモンズゲート』についてもいろいろと──

木村央志[ゲームデザイナー]

ゲームデザイナー木村央志がゲームデザインや表現全般にわたって思いつくままに綴るノートです。新作『クーロンズリゾーム』の設定裏話やネタ元などもここで開示していきます。 前作『デモンズゲート』についてもいろいろと──

    最近の記事

    Strayの「ス」

    Strayの何がイケているのか? 猫さんを操り、クセ強めのサイバーワールドを巡る異色アクションADVゲーム『Stray』──Steamでのユーザー評価もすこぶる高い。 もちろん、猫さんは多くに刺さるコンテンツなわけだが、ここでは少し冷静になって分析してみたい。  イケてる理由①:3人称であること  イケてる理由②:MOBがロボットであること  イケてる理由③:謎文明であること 順番に見ていこう── 3人称であること 3人称視点とは、プレイヤーキャラを視野の中心に収めつつ

      • 墓碑銘を求めて

        クーロンR.I.P.──? 『クーロンズ・ゲート R.I.P.』──これが、2022年、リリース25周年記念事業を統括するコンセプトだった。要するにクーロンをこの世から葬り去る── 確かに、いまさらPSゲームを持ち上げても仕方がない。懐古趣味的にクーロンを扱うのはこれで終わりにしよう──つまりクーロンR.I.P.を提起していたのだ。 R.I.P.イメージを大きくあしらって記念事業のキービジュアルにしてしまおうか、などと協議もしていた。 ジブンクーロンの再定義 『クーロン

        • 空間と向き合って

          鍵と扉の関係 山高帽男が現れて、ステッキに仕込んだ小さな映写機から壁に扉を映し出してくれる── 『クーロンズ・ゲート』を最もよく象徴する場面のひとつだろう。 クーロンはアドベンチャーゲームだ。アドベンチャーゲームのゲーム性はフラグ立てにある。狭義に解釈すると、鍵と扉の関係づくりに腐心するということだ。施錠された扉を開けるために鍵を見つける── これはややもすれば作業感を生む。それをことごとく嫌って、ほぼ全てをキャラクターイベントに置き換えた。ビザール(奇妙)なキャラを量産する

          • KG/Projectのあらまし

            プロジェクトの発足 2019年~ KG/Projectは2019年7月に発足した。 このプロジェクトが目指すのは、ユーザーの中にある『クーロンズ・ゲート』(ゲート)のリブートである。 再起動、ないしは再評価──ともあれ、「ゲート」はSMEからリリース直後、「中の人」が誰もいなくなり、販売権利もSMEから他社へ売却、部署も解体され、長らく管理者不在の「元公式サイト」だけが粛々と動いている状態に陥っていた。 「ゲート」のように属人性の高いコンテンツは、当事者が散逸すると二度と同じ

            ジブンクーロンの萌芽

            「カオスの25年」の補稿です: 「クーロン」リリース当時、プレステソフトは音楽流通にも載っていた。そして耳にした話──東京・銀座の山野楽器で「クーロン」がゲームソフトとしては異例の売れ行きだったということ。 銀座・山野楽器といえばクラシックや吹奏楽で音楽に親しんできた人が中心ユーザーだ。一般向けにCD販売も行うが、当時はオフコースやユーミンの新譜などメインストリーム系のユーザーが多い印象だ。そこでなぜ「クーロン」が──? リリース後、ほどなくして届いた一通の手紙で謎が解け

            ネットワークの無心と有心

            ウィリアム・ブレイクの詩には、無心と有心のバリエーションがある。経験の有無でもあるし、楽園で禁断の果実をかじる前と後とも受け取れる。 さて「クーロン」の話だが、陰界に張り巡らされたネットワークをクーロネットという。「ゲート」ではスチームパンク的な郵便ポスト然としたクーロネット端末にIDカードを差し込んで「電子郵件」を受信するなどしていた(ゲーム的にはセーブ、ロードの機能もあった)── ただしこれは、インターネット元年と称される1995年より前、1994年頃の設定のため、ブ

            遠心力とジブンクーロン

            今年、「クーロン」リリース25年を迎えて、あらためて感じるのは「クーロン」には不思議な遠心力があるということだ。 一般にゲームでもアニメでも「人気作品」には求心力が備わる。ファンの心をぐっと引き寄せる磁力のようなものだ。遠心力はその逆を行く運動だ。 この遠心力の正体は、リリース後、かなり早い段階から散見された「ジブンクーロン」現象だ。ファンの中にそれぞれの「ジブンクーロン」が生まれ、それが今でも時間をかけて発酵し続けている── この「ジブン○○」で、おそらく世界最大規模な

            ヒッピーのゲーム性

            アタリ社といえば、アタリショックと対になって語られることが多い。アメリカでファミコン(NES,Nintendo Entertainment System)が登場する前に、コンシューマーゲーム市場を築き上げ、それをオワコンにしたからだ。 ゲーム機の製造販売とソフトのライセンス生産──ここで、粗製乱造が起きて市場は一気に衰退した。ギネス級の「クソゲー」として有名なのは『E.T.』だろう。アメリカのゲーム関係者いわく── 「ゲームスタートすると、ETはすぐに深い穴に落ちてしまう。ど

            MYSTの迷宮

            『MYST』を買ったのは広尾にあったハイパークラフトだった。1993年の秋のことだ。リリース当初、『MYST』はMacintoshのCD-ROMでのみリリースされていた。 どんなゲームか──端的に言うなら謎の島を舞台にする1人称の脱出ゲームだ。基本システムは、いわゆるクリック&ムーブ型である。 ゲームを進めるには島中のパズルを解いて回らなければならない。一つのパズルが次のパズルのヒントになるなど、緻密に構成された仕掛けがプレイヤーの前に立ちはだかる。またパズルの入力と出力の関

            人間臭い敵AIの魅力

            この2年以上、飽きもせずにプレイしているゲームがある。 『Sniper Ghost Warrior Contracts』(Windows版)だ。あまた存在するスナイパー系タイトルの中でも抜きん出た傑作だと思う。 広大なマップ内にいくつかのエリアが設定されて1つのキャンペーンが構成されている。各々のミッションの内容は、敵アジトに潜入してPCをハックする、敵要人を暗殺した後に所持していたスマホを回収する、兵器を積んだ貨車にC4爆薬を仕掛ける、開発中のウイルスサンプルを回収するな

            赤坂の負けフラグ

            たった4人のキャラ設定 シナリオ執筆におけるミニマムなキャラクターはたった4人だ。 意思の強い女性、物分かりの良い異能爺さん、おしゃまな女の子、そして偉そうなことを言って負けフラグを立てる男──この4人、これがスタメンの4人だ。 スタメン4人だけで「芝居の台本」を作る──それが達成できればプロ中のプロを名乗っていいだろうだろう。ちなみに自分自身は芝居台本の経験はないので、そこはプロには至っていない。 実際の業務では、この4人を核にして周囲にキャラクターを付け足していくことにる

            カオスの25年

            過去25年を振り返り、あらためて「クーロン」とは何であったかを考えるに、それは一本の鍵であったと言えそうだ。 鍵とはユーザーの心の引き出しを開ける鍵である。その引き出しには「カオス」がたくさん詰まっていた── ゲームリリースから半年ほど過ぎた頃、一通のファンレターを頂いた。航空会社でグランドスタッフをしている人からで、レコード店でクーロンを見つけてハードごと購入したという。5日間かけてクリアして手紙をしたためたと記されていた。 その人は、日々の業務で、冷蔵庫を担いでチェック

            PP版の現在

            ちょうど1年前、クラウドファンディングのリターンアイテムである「プリプロダクション(PP)版」プレイ動画をYouTubeで対象者に限定公開した。 ただ、それは「なんちゃって」版であり、フラグ管理スクリプトを組み込んだ「正式」版のベースは2021年10月に完成することになる。 ダンジョン制作が2ヶ月押すと、スクリプト開発は5ヶ月以上押すことになる。いずれも外注だったが、プロジェクト管理とはそういうものだ。 11月、フラグ管理版に序盤シナリオを実装してPP版は完成した。 最初、

            クーロンとプロセスエコノミー

            「クーロン続編」のようなゲームコンテンツはプロセスエコノミーと相性がいい。ゲーム制作におけるプロセスエコノミーとは、制作過程に共感軸を設定して小さな市場を創出することだ。 思い切った資金調達によって開発を行い、リリース時に一気に回収するという、従来型のアウトプットエコノミーとは真逆の発想だ。しかし、最初からプロセスエコノミーを目指していたわけではなかった── 25年間の空白 『クーロンズ・ゲート』の企画立ち上げからちょうど25年目を迎える2020年、「続編新作」を掲げたクラ

            乗り越えた感の薄さが魅力の『インターステラー』~ゲームデザイン事始め⑦~

            「蛮勇」と聞くと、やはりスティーブ・ジョブスを思い浮かべる。失敗続きだったタップデバイスの累々たる屍の上に仁王立ちになり、iPod Touchを世に送り出したからだ。当時、iPodはあったものの、MP3プレイヤーというカテゴリーに収まっているだけだったし、そもそも音楽聞くのになぜ電池消耗するカラー液晶が必要なのか、理解されにくかった。自分も大手家電量販店で寂しげな感じでディスプレイされているiPod Touchを見たことがある。それを手に取るも充電すらされていなかった。ただi

            制作環境今昔~ゲームデザイン事始め⑥~

            写真上はソニーミュージックのクリエイターブースでの一コマ。ちょうど『クーロンズ・ゲート』マスター直前、1996年11月頃であろうか。とあるゲーム雑誌の「クリエイターの仕事場」というコーナーで取材を受けたときのカットだ。古本屋の親父よろしく資料本の山に埋もれている。使用しているコンピューターはマッキントッシュCentris6100というピザボックス型の機種でメモリは16MBであった。 ちなみに下の写真は2020年2月、『クーロンズリゾーム』のシナリオ執筆を開始した頃のもの。資料