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ヒッピーのゲーム性

アタリ社といえば、アタリショックと対になって語られることが多い。アメリカでファミコン(NES,Nintendo Entertainment System)が登場する前に、コンシューマーゲーム市場を築き上げ、それをオワコンにしたからだ。
ゲーム機の製造販売とソフトのライセンス生産──ここで、粗製乱造が起きて市場は一気に衰退した。ギネス級の「クソゲー」として有名なのは『E.T.』だろう。アメリカのゲーム関係者いわく──
「ゲームスタートすると、ETはすぐに深い穴に落ちてしまう。どうやっても上がれない、つまりゲームオーバーだよw)
メーカーが『E.T.』の在庫を原野に埋めたという都市伝説が囁かれたが、最近、それが本当だと判明した。

そんなアタリ社は『PONG』によって生まれ、成長した。
『PONG』はバーなどに置かれた筐体型のピンポンゲームだ。ラケットに見立てた長方形のスティックを上下させて球を跳ね返し、相手のゴールを割れば勝ち。
実はこの『PONG』には原型があった。亡命ユダヤ人電気技師がほぼ同じシステムのゲームを開発している。それを見たアタリ社創業者のノーラン・ブッシュネルは、そこにゲーム性を与えることにした。

 1.ラケットが球をヒットしたときに音を鳴らす
 2.相手のゴールに球を入れた時に自分の得点を表示させる
 3.デモプレイなど放置状態の時のラリー球の速度を速める

実は、『PONG』の人気は、第3のゲーム性にあったと思われる。放置していると、ひたすらラリーを繰り返す『PONG』の「性癖」を改善したからだ。

放置ラリー問題は、プレイヤー同士のプレイ中にも発生したという。そうなるとプレイする気が失せてしまうが、ラリー状態に陥った時、球の速度が速くなっていくゲーム性によってにわかに射幸心が芽生える。
このタイミングで相手に高速の球を打ち込んでやろう──
首尾よく弾けば、SEが気持ちよく鳴るし、得点も増える!

しかし、その射幸心はときとして仇となり、自分側に「オウンゴール」をもたらしてまうこともある。こうした駆け引きを生む発想こそがゲームデザインの本質なのである。
『PONG』が大いに人気を博したのも、人間が原初的に備えている「ゲーム性」のココロを刺激したからだろう。

アタリ社は『PONG』のヒットで急成長して、ついに自社ビルを構えるまでになった。そしてよく社内放送が流れたという──
「エントランス前でマリファナは吸わないでください」
──要するにヒッピーの巣窟だったわけだ。役員会も本社屋上のジャグジー風呂に入り「ハダカの付き合い」で行ったという。社内には素足で歩き回る社員もいたらしい。
そんなアタリ社に、ある日、一人のヒッピーが「俺を雇え」と訪ねてきた。その男、身なりは著しく汚く、態度も横柄だったそうだ。
その男こそ、後にApple社を創業するスティーブ・ジョブズだっというのは、あまり知られてはいない。

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