人間臭い敵AIの魅力

この2年以上、飽きもせずにプレイしているゲームがある。
『Sniper Ghost Warrior Contracts』(Windows版)だ。あまた存在するスナイパー系タイトルの中でも抜きん出た傑作だと思う。

広大なマップ内にいくつかのエリアが設定されて1つのキャンペーンが構成されている。各々のミッションの内容は、敵アジトに潜入してPCをハックする、敵要人を暗殺した後に所持していたスマホを回収する、兵器を積んだ貨車にC4爆薬を仕掛ける、開発中のウイルスサンプルを回収するなどバリエーション豊かだ。
もっともスナイパーゲームなので、ミッションエリアを一望する絶好のスナイピングポイントが用意されていて、そこからエリア内の敵を全滅させることも可能ではある。
敵の警戒を呼びアラートが鳴ると偵察ドローンを飛ばしてきたりもするので気を抜けないが、首尾よく敵を全滅させた後、無人になった敵アジトを両手を振って進むこともできる。
ただ、無人の敵アジトを歩くほど虚しいことはないとすぐに気付かされてしまう。ある程度、馴れてくると、ただ狙撃していればいいだけではないという思いに駆られる、そういう懐の深さがこのゲームにはあるからだ。

FPS系では、プレイヤーの座標を正確に狙ってハンドグレネードを投げ入れてくる敵がいたりして、のっけからやる気をそがれてしまうことも多い。
その点、「SGW」は違う。何が違うかというと、敵AIの挙動がことごとく人間臭いのだ。まるで生身の人間を仕込んでいるのかと錯覚するくらいに。あるときは合理的に行動するかと思うと、合理一辺ではなく不合理なこともちゃんと仕出かしてくれる。この「合理、不合理」のさじ加減がものすごくいい具合にできている。やり込んでいくと、数百メートル先の敵兵の考えていることまで見えてくるようになる。
そのような人間臭い敵AIの挙動を堪能するためには、なるべく敵を残してアジト奥深くへ侵入することになる。スナイパー系と言いながら、高性能なスナイパーライフルを使う場面は、厄介な監視カメラを撃つときくらいで、あとはサイレンサー付きのハンドガンやナイフで襲う、それ以外ではただひたすら身を隠す──そう、このゲームはスナイパー系を標榜しながらも、そのゲーム性の中軸にはスニーク系の要素をしっかりと備えている、まるで二刀流のゲームなのだ。

スニークとは靴のスニーカーの語源で「音を立てない」ということだ。とにかく敵に見つからないように行動するのがスニーク系の基本だ。
このジャンルで有名なのは『スプリンターセル』シリーズだが、SGWではサム・フィッシャーのようにパイプを伝わり壁面を登るような身体能力抜群な芸当は見せない。クルマに例えるなら、ボディはスナイパー系、そしてそのシャシーに相当する部分がスニーク系という建付けだ。
ところで、SGWに使われているエンジンはCryEngineである。このエンジン、いろいろ特徴は語られているが、もっとも有意なのは草むらに身を潜めているときだろう。
中腰で隠れながら進むと、目の前の草が大きく左右に割れる。そう、このエンジンはフィールドの草や木などにも物理判定を持たせることができるのだ。すぐ傍に敵のいる場合、動けば見つかるのでじっと身を伏せて息を止めるほかない。CryEngineの特徴からして、トリガーハッピーになって撃ち合うのは遊び方として筋が違う。草むらに身を潜めて機会を窺う──
ゲーム性の中軸と採用エンジンの特徴が1ミリたりともずれていない、そういうところが実に好ましい。

なぜ2年以上も遊び続けられるかといえば、先述したように、上手な狙撃だけでは物足りなくなるからだ。いかに敵を多く倒さずに進めるかなど自分で目標を設定して、それに従ってプレイするといった工夫の余地がある。
ときにはアジト内の敵兵を全滅させた後、標的の要人だけを残し、警戒する相手に静かに接近して天窓からハンドグレネードを投げ入れて倒すなど、自分でシナリオを組んでプレイできる。
一人残された「要人」は、どんな面持ちでいるのだろうか──などと想像をたくましくできるのも、敵AIの人間臭さゆえなのである。
そのため、敵に居場所を突き止められ銃撃戦になりかけたとき、すぐに直近のセーブデータをリロードする。ここですごいのは、同じシーケンスなのにリロードするたびに敵AIの挙動が変わることだ。一日中、同じデータをリロードして、ちっとも先に進めていないときもある。とにかく敵ありきで楽しめるスナイパー系秀逸タイトルだ。そういう意味では、ゲームの身上であるプレイヤーとの駆け引きに抜きん出ているタイトルだと評価できる。
ちなみに続編の『Sniper Ghost Warrior Contracts2』もリリースされたが、プランナーが変わったのか、敵の挙動が一気につまらなくなった。こちらを捜索しながら、敵が一列縦隊で歩いてくるなど、「おいおい、何やってんだよ、君たち」と突っ込みたくもなる。
ただスナイパー系としてはリアリティが増していて、1km超という長射程スナイピングも可能になった──だけど思う。うーん、そこじゃないんだよな、このゲームの力の入れどころは。

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