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空間と向き合って

鍵と扉の関係
山高帽男が現れて、ステッキに仕込んだ小さな映写機から壁に扉を映し出してくれる──
『クーロンズ・ゲート』を最もよく象徴する場面のひとつだろう。
クーロンはアドベンチャーゲームだ。アドベンチャーゲームのゲーム性はフラグ立てにある。狭義に解釈すると、鍵と扉の関係づくりに腐心するということだ。施錠された扉を開けるために鍵を見つける──
これはややもすれば作業感を生む。それをことごとく嫌って、ほぼ全てをキャラクターイベントに置き換えた。ビザール(奇妙)なキャラを量産するという部署のチームオーダーもあったが、鍵代わりになってくれる「変なキャラ」の存在には大いに助けられた。

思念のような希薄さ
結果的に、クーロンは「空間への働きかけ」をほとんど行わないゲームとなった。コントローラーのボタンを押すだけで、まるで思念が浮遊しているかのように移動し、香港流の縦型シャッターも自動ドアのように開いてくれる。スチームパンクなクーロネット端末もすーっと起動する──
ほぼムービーで構成されていたので不自然さは目立たないが、プレイヤーの実存性を否定しているかのような変わった作りであったと言える。
そんなプレイヤーを迎えるネームドキャラクターたちも、待機モーションさえない粘土細工のようであり、ヒロインの小黒にしても人間としての生気は希薄であった。
だが、それら表現が奇跡的にもいい按配に溶け合って、一種独特の夢現(ゆめうつつ)のような空気感を醸し出すことになる。魂の宿ったドールハウスを覗き込むに似た体験が生まれたわけだ。

3D空間との相性
そんなクーロンを完全3Dリアルタイムレンダリング技術で蘇らせる──
思えばそもそもが無謀な話だ。企画だけが高評価を得る典型的な事例だろう。

基本的なことだが、3Dゲームは空間攻略をゲーム性のベースに持つ。
「なんとかして、あそこに行きたい──」
そのジレンマを克服するためのギミック、陥れるためのトラップ、さまざまな攻略ルートも用意される。プレイヤーは積極的に「空間への働きかけ」を行うことになる。その上に銃撃やハイジャンプなどタイトルごとのアクションが乗ってくる。
こうした3Dゲームでは、プレイヤーは確たる実体を持ち、キャラクターたちも人間としての存在感を放ち、全体としてのリアリティを豊かにしている。
完全3Dでリアルな九龍城を再現すること自体はできるが、次の会話イベントの場所に向かうために、ビールケースを積み上げてフェンスを乗り越えたり、ビルの外壁に伸びる配管を渡り、下にいる双子師の視界に入らないようにステルス移動する──3Dゲームに必須である空間攻略のためのアクションを付加していくと、それはもうクーロンではなくなってしまう。

空中に伸びる送電管の上を通り空間攻略する──3Dゲームらしさだ

空間を排除した空間
アクション性を排除した3Dクーロン評価版によって得た結論──会話イベントを取得するために地べたを歩き回るだけのプレイ、これが圧倒的につまらないということだ。また細かなことだが、路面オブジェクトにコリジョン設定してあると、プレイヤーはぴょこんとそれを乗り越える。この挙動にもやはり違和感を覚えた。ましてドラム缶とビルの壁に挟まれて動けなくなるなどもってのほかだ。
空間攻略アクションを避けようとすると、空間との関係がことごとくギクシャクしてくる。そもそも攻略対象としないのであれば「空間」は存在しなくていいという反語的な理屈にたどり着く。
ちなみにリゾームで動画キャプチャする際、九龍城のコリジョン設定はほとんど外している。下手するとそのままビルの内側に入ってしまい、懐かしのコスマスとダミアヌス状態になる。

攻略しない空間の存在──コリジョンを外した九龍城 窓のみ両面テクスチャ貼りだ

ただ歩くだけの3Dゲーム──?
3Dクーロンへの執着を追うのなら、歩き回ること自体をゲーム性の中心に据えればいいのだろう。
最近、地味に流行っている(?)ジャンル、ウォーキングシミュレーターならなんとかなりそうだ。
ただこの場合、舞台は廃墟に限られる。路人はいない、ネオンは消えている、ホログラムは壊れて一部だけ点いたり消えたり──そんな中、路地裏に滞留する残留思念を集めて回るゲームだ。打ち捨てられたアイテムにも思念は宿るだろう。そうやってバラバラになったエピソードからシナリオを組み立てていく──
ものすごくSteamっぽいゲームだ。このところ話題に上るSwitchにそっくりなUMPCで遊んでみたい気もする。
だが──プレイヤー側は10万円以上(高いものでは18万円くらい!)もするプレイ環境を用意しなければならなくなり、ビジネス的には「事業不可」となる。
※Steam Deckなら最安で59,800円だ
※冒頭写真:制作も佳境、青山一丁目時代のデスク

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