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Strayの「ス」

Strayの何がイケているのか?

猫さんを操り、クセ強めのサイバーワールドを巡る異色アクションADVゲーム『Stray』──Steamでのユーザー評価もすこぶる高い。
もちろん、猫さんは多くに刺さるコンテンツなわけだが、ここでは少し冷静になって分析してみたい。
 イケてる理由①:3人称であること
 イケてる理由②:MOBがロボットであること
 イケてる理由③:謎文明であること
順番に見ていこう──

AIが描くと猫までサイバーになる

3人称であること

3人称視点とは、プレイヤーキャラを視野の中心に収めつつ、その背後からフォローカメラで追う表現方法だ。プレイヤーキャラを支点としてカメラを動かせるので、とにかくカメラアングルの自由度が高い。
そのため周囲をよく見渡す必要があるようなゲーム性と相性がよく、ステルス系に用いられることが多い。ステルス系の金字塔といえば『スプリンターセル』だと独断するが、この場合、むくつけき歴戦の親父、サム・フィッシャーの背中をひたすら眺めることになる。
さて『Stray』、こちらも3人(猫)称だが、小さな猫ゆえか、視界のほぼ全てにサイバーワールドが広がる。まるで作り込んだ独特の世界観を堪能するために用意されたかのようだ。「世界観も売り物だ」──作者のそういった発想がキチンとゲームにまとまっている。
また3人称視点には、3D空間に没入しつつも箱庭的に向き会える性質がある。掌(たなごころ)に載せた3D世界をためつすがめつするようなゲーム体験が得られるわけだ。
メンタルでもフィジカルでも3D空間に向き合える、3人称視点のメリットがうまく引き出されている。

MOBがロボットであること

MOBは、まぁ要するに町人でありクーロンなら路人である。だから普通はヒトなわけだが、猫が冒険する世界にあってヒトが登場するのは、なんだか生々しい。それに猫とココロを通わせるのは、ヒトなんかよりもロボットのほうがバランスがいい。
そして──ADVゲームはフラグ更新による状況変化を確かめたい一方で、その作業自体も超面倒──このアンビバレントな衝動と向き合うゲームだ。その点、MOBがロボットなら、更新頻度が極端に少なくて同じことを繰り返すMOBがいても気にはならない。廃棄されていて何の反応も示さないMOBにも不自然さはない。フラグ更新のたびに確認しなくてもいいというタイパの良さすら感じられる。
またロボットMOB自体がワールドの一部と化していて主体の猫を邪魔しない。意思を得て動いているのは猫=プレイヤーだけというゲームデザインがプレイヤーの優位性を基礎のところで担保してくれている。

謎文明であること

街並みやそのディテールはサイバーワールド一流の細かな作り込みがなされているが、サイバーあるあるのなんちゃって文字が一切登場しない。その代わり、ヘブライ文字やハングル文字を超加工したかのような謎文字で溢れかえっている。
『ブレード・ランナー』で有名な日本語ネオン、「充実の上に」「お手持ちの烏口」が『アイデア』誌1981年7月号に掲載された誌面広告からの引用だということで、一部マニアが沸騰していたが、『Stray』にはそういうこともない。
おそらくワールドに登場するすべてのネオンサインなどを既存言語で一度作成し、それを謎文字に置換しているのだろう。アルファベットと数字だけならそれほど難度は高くなく、費用対効果は抜群だ。
世界の誰にとっても未知なるものは、世界中のユーザーから等距離にあり、それがために「鮮度」が保証されることになる。

そして結局は猫さんに戻るわけだが……猫の身体能力を生かしたアクション性が心地いい手遊び感をもたらしている。
目的地に向かう進路開拓と、たまに仕掛けられている立体パズル的なギミックやトラップを解く──3Dリアルタイムレンダリングなゲームに必須であるこうした空間攻略要素と猫の特徴がうまく噛み合い、「猫とサイバーパンク」という企画意図からほとんどブレていない。インディーズらしい清々しい仕上がりだと評価できる。


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