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あちらへどうぞ

 近所の交差点を進むと、Y字の歩道が現れる。その歩道は10メートルもすればまた合流するのだが、ほとんどの人は右側を進む。誰の目から見てもそちらの方が近く、左側の外回りの道をあえて行く人などいなかった。

 しかし、左側の道は少し下り坂になっていて、そこを自転車で駆け降りると少しスピードが上がったような錯覚に陥る。ただそれだけのために私はよく左側の道を行った。

 それがほんの少し前、私の他に左側の道を行く人を見かけた。私は歩きだったため右側の道を歩いていたのだが、その高校生は悠然と左側の道を自転車で駆け降りていった。

 それを見た時、この高校生は、自分のことを、さもスピードが上がったような顔でいるな、と感じた。多少の優越感とでも言うのか、確かに高校生の横顔には誇らしさが垣間見えた。

 その瞬間、きっと私も同じような顔であの道を下っていたのかと思い、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

 もうあちら側への道へは行くまいと決心したのと同時に、あの高校生も、いつか私と同じように辱めを受ける時が来るのだろうかと思い、その遠い未来に若干の恐ろしさも感じた。

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