見出し画像

三円小説のスゝメ 伍〜アナログと「人間賛美」に繋がる"三円小説出版プロジェクト"〜(前編)

インスタ発祥の超・短編小説「三円小説」。
インスタでは約7000フォロワー超、累計24万いいねを獲得している大人気のコンテンツです。

今回は、作者の原田剛さんと版元の金風舎さんに、出版に至るまでの経緯や、思いについてお話を伺いました。前編・後編の2回に分けてお届けします。


ピンチをチャンスに

昨年2020年3月1日にAmazonで先行発売した『三円小説』。原田さんの地元である徳島県の書店チェーンで直販したら、なんと完売!
これを皮切りに全国の書店に直販営業する予定が、コロナの影響で思うように動くことができなくなってしまったそうです。

そこで金風舎は新たな一手を打つことに。

通常、書店で本を売るためには、取次会社を通して書店にお願いしなければなりません。しかし、金風舎にはある実績がありました。

「『三円小説』の直前に『ミーニング・ノート』をオンデマンド出版で販売していたんですが、TSUTAYAさんの店頭に置いてもらったら、売れたんですよ。注文数に応じて印刷するオンデマンド出版でも書店直取引で売れるということがわかって、オンライン販促と書店直販に可能性を感じました」

『ミーニング・ノート』での実績があったからこそ、『三円小説』は在庫を持てると確信した。この経験をもとに、金風舎として初めての「在庫を抱えてのオンライン直販」に踏み切ることにしたそうです。

当初は「オンライン、デジタルだけでいける」と考えていた金風舎でしたが、最初の緊急事態宣言が明けて、「やはり書店に本を並べるために取次流通は必要」と感じたそう。
それから口座開設に着手し、一年がかりでようやく発売準備が整ったのでした。


インスタ発の小説でありながら、電子出版はしない

金風舎さん曰く「三円小説はオンラインでスタートした作品。でも、電子書籍は出してないんですよ。これから出す予定もありません」ときっぱり。

これはかなり勇気ある発言だと思うのですが、その心は?

書店で売っていただきたいんです。書店の売り上げにもしたいから、電子書籍にはしない。もっと活字に慣れ親しんでもらって、子どもたちや、読書離れしている大人を本好きにしたい、という思いがあります」

もちろん、電子書籍もN Oではないけれど、コロナ禍で、家族で過ごす時間が増えたり、紙の本を見直す動きが出てきたりしたので、これはチャンスだと。

「いちばんは書店さんに、『あなたのために本を売りたい』と。金風舎として、もっとも強調したい部分です」

金風舎は、日本で最も早く電子出版に着手した会社。だから『三円小説』も、当然電子出版をされているものと思い込んでいました。敢えて電子出版しないところに、本気度を感じます。

「プロモーションなど、本を取り巻く周辺業務はこれまで通りデジタル主体ですが、商品としては、紙の本としての『三円小説』を強調したいんです。
要はブレないようにしたいと思っていて。本気でデジタルをやっているので、これは紙にしてるんです」


公式サイトで100話無料公開

フォロワーさんを中心に、先にコンテンツを読んで楽しんでもらうために、300話のうち100話を無料公開中。

大盤振る舞いですね笑

公式サイトやインスタで読んだ方から、「これはどういう意味?」などと質問が来ることもあるそうです。それに原田さんは一つひとつ答えています。

本に限らず、物を売ろうとしたら今の時代、まずはネットを押さえますよね。でも、そこでフォロワーさんをどう作っていくかは、皆さんかなり苦労されています。例えば、インフルエンサーを起用するなどして、時間も資金もそれなりに投入しなければなりません。

ところが、『三円小説』では、原田さんご自身がインフルエンサーでもあるわけです。本になる前にネットアプローチ、フォロワーさんと直接対話ができている。これは強いなと思いました。

フォロワーさんと密にコミュニケーションをとり続けている背景には、原田さんの並々ならぬ文学への思いがあります。それは、「本気で読者を本好きにしたい」という願いにつながっています。


『三円小説』からの出会い

インスタからの出発でありながら、軸足は常に骨太な文学にある原田さん。→「三円小説のスゝメ 壱〜原田さんの半生を軸に〜」
厳しく芸術性を追求しながらも、しっかりと全体を俯瞰して見る目を持ち、文学や文学による人間の成長を信じて疑わない。何よりもリアルな人間の在り方をこよなく愛する、温かいリアリスト。

未来を見据え、出版業界、とくに流通に新しい風を吹き込みたい金風舎。

『三円小説』出版の影には、実はこういった熱い思いを持つ人たちの出会いがありました。

コロナ禍というハンデも逆手に取り、今しかできない道を作っている原田さんと金風舎。出版文化の未来は、こういうところから生まれてくるのだと実感しました。
次回は、"『三円小説』出版プロジェクト"の紙の本へのこだわりをさらに深掘りし、『三円小説』出版の意義について考えてみたいと思います。(後編へ続く)

★原田さんのインスタアカウント「@sudachiken
 7000人のフォロワーと毎日対談中。

原田剛ってどんな人?

徳島県の書店チェーン「平惣」さんでの販売実績




ライター:榎田智子
石川県出身、鎌倉在住。自宅出産を経て3人の子育ての傍ら、夫と情報デザインの会社を経営。各種マネジメント・ディレクション、取材撮影…と出来ることは何でもやってきました。不登校だった長女は、現在豪州留学中。何事においてもLet it happenを大切にしています。保護犬、猫、亀と同居、5人と7匹家族。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?