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三円小説のスゝメ 壱〜原田さんの半生を軸に〜

SNSで話題の『三円小説』。
1話三円、300話だから九百円、という明朗会計な本です(笑)。

作家が1話三円と値段をつけてくる(しかも安い!)小説には、今までお目にかかったことがありませんでした。三文小説をもじった、と紹介文には書いてあるのですが、どういう思いで書かれたのか、どんな意味があるのかなど、興味をそそられました。

そこで、作者の原田剛さんに、三円小説に至るまでの半生を中心に、三円小説への思いなどを語っていただきました。


文学好きな少年時代。新卒であこがれの雑誌社へ就職

原田さんは、徳島県阿波市出身。茄子などを生産する農家に生まれます。
芥川龍之介、菊池寛、井伏鱒二など、純文学が好きな少年だったそうです。中学生の頃から雑誌の編集者になりたいという夢を持ち、大学卒業後、地元タウン誌の編集社に就職。2001年に28歳で独立、地域密着の育児情報誌『ワイヤーママ』を創刊。

当時は、地元の保育園や、子連れで行ける場所の情報などが掲載されている地域密着の育児雑誌がなかった時代。ワイヤーママは世間のニーズにマッチし、順調に売り上げを伸ばします。他地域からもオファーが来て、全国9箇所で発行。


自伝的絵本の出版

その超多忙な時期に、原田さんは絵本を作ることを思い立ちます。どんな理由からでしょうか。

「当時、若いお母さんと話す機会が多かった。そのとき、危惧していたことがあって。今の親御さんは、子供と仲が良すぎるんです。友達みたいな親子関係っていいとは思うんですけど。自分たちの子供の頃の親は、もっと怖かったし、威厳があった。親子の間に一定の距離があったんです。
それと同時に経営者なので、大卒や若い子を見ていて、『叱られてない、打たれ弱い』とひしひし感じる場面がありました。」

「だからと言って、親に『怒れ』と偉そうなことも言えない。そこで思いついたのは絵本。絵本だったら誰でも読めると。押し付けがましくもないし、僕のリアルストーリーだから、これはこれで楽しんでもらえたら、と思って。」

こうして、2014年11月、ご自身の実体験を絵本にした『小学生のボクは、鬼のようなお母さんにナスビを売らされました』が出版されます。

怖くていかつい絵、ナスビの紫1色、長いタイトル。
全国展開の販売チャンネルもない。

絵本の常識を全て外したこの絵本が、大ヒットします。

「芸能人の方がブログや書評とかで書いてくれて。俵万智さんとか、ダイヤモンドユカイさんとか、プロレスラーの方とかが、最初はギャグかと思って手に取って読んでみたら、泣いちゃったと。
トドメが、2016年フジテレビの『アンビリーバボー』です。
あれで売れましたね。その後、『世界一受けたい授業』にも出演しました。」

作家1本で立つ

絵本が売れる一方で、作家活動と経営者の二足の草鞋を履くのは厳しくなり、作家1本でやっていこうと決断。ご自身の会社を売却します。しかし当時、何かを書こうと決めてから会社を売ったわけではなかった、と原田さんは言います。

「じゃあ、何を書きたいんだ、と。会社を売ったらホッとしたけど、(娘いないからわからないけど)可愛い娘が嫁いでいった感じ。20年間経営した中で、借金して、倒産寸前の時もあった。でも。スムーズに買ってもらえたら、ポカンとしてしまった。」

絵本が売れたからと言って、絵本作家になりたかったわけではない。

「僕は『ガツン』と言いたかっただけなんです。それには絵本が一番。3歳児からじいちゃん、ばあちゃんまで読みますから。小説にしたら、いきなりは読めないですからね。」

より多くの人に届けるために、たまたま絵本というジャンルを選んだだけだった。

でも、可愛い娘のような会社を売り飛ばしてまで、自分は書くことに専念しようと決めたわけです。だったら、好きなことをやらないと。もう、後がない。


インスタで大きな反響

「たまたま見つけたんです、インスタとかTwitterとかで。びっくりしました。『映え』の文化の中で『字』だけのものがあるなんて。
読んでいたら、正方形の中でちゃんとオチまでついている。これはすごいなと。最初は見る側だったんですけど、途中で『これは書ける』と思ったんです。」

「自信はなかった。だから恐る恐る2、3本アップしてみました。そしたらそれに『いいね』とか、コメントがついて。ちょっと忙しくなって更新してなかったら、『続き読みたいです』『待ってるんです』とメールが来たりして。
これは一銭にもならないけど、定年退職後のオヤジみたいになってた自分を、求めてくれる人がおるんやと。」

インスタ小説は約7000フォロワー、累計24万いいねを獲得、大人気コンテンツに。書き始めた頃は半年で800本、多い時は1日50本の小説を書いたと言います。


新しいものに切り込んでいく覚悟と勇気

育児雑誌創刊、常識を覆す絵本、そして三円小説。

「新しいものに切り込んでいくのが好き」と原田さんは言います。
しかし、そのためには、並大抵ではない努力と、ご自身を敢えて追い込んでいく覚悟、そして勇気がなければ、実現はできない。

なぜ、それができているのか。

それには、『小学生のボクは…』にある、ナスビを売るために知らない人の家に飛び込んで、自分なりの工夫をして売れるようになっていった経験が大きく貢献していると感じました。なにより、敢えて怖い顔でそれをさせたお母さんの思いがしっかりと伝わっているのだと。

そこで思い当たりました。

原田さんのストイックな経営者目線と、教育者としての温かみは、お母さんから引き継いでおられるのだと。
「ナスビを売ってこい」といった鬼のようなお母さんは、実は原田さんご自身だった。


リアルな対話作りのツール

三円小説の根底には、人間への温かい眼差しがあります。いかつい顔で叱るけど、なんとか一人で立ってほしい、というエールに溢れている。

お子さんと一緒に読んでみれば、きっと会話が弾みます。
中には難しい話題もありますが、分からないからこそ、対話も生まれる。
ネットではリアルな対話は生まれにくい。紙の本という形態ならではの楽しみ方です。


ライター:榎田智子
石川県出身、鎌倉在住。自宅出産を経て3人の子育ての傍ら、夫と情報デザインの会社を経営。各種マネジメント・ディレクション、取材撮影…と出来ることは何でもやってきました。不登校だった長女は、現在豪州留学中。何事においてもLet it happenを大切にしています。保護犬、猫、亀と同居、5人と7匹家族。





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